第7話 電話①

「もしもし、礼人?」

「は~い」


 鈴奈から電話が来て、急いで返事をした。声が上ずっているのがわかってしまったかな。


「いま、時間ある?」

「うん」


 勿論いつでも大丈夫だ。家に帰ってからすぐに食事をし風呂に入り、部屋でごろごろしていたらちょうどいいタイミングで電話が来たあっ。鈴奈も同じようなタイミングだったのかな。


「何してた~?」

「飯食って、風呂入って、部屋でごろごろしてた」

「私も、そんなところ」

「家、姉貴がいるんだけど部屋は別々だから大丈夫」


 そう、どんな話でもできる。秘密の事でもなんでも。鈴奈は話を続ける。


「ふ~ん、お姉さんかあ。私は兄貴がいる。二歳上だけど、年上ぶってていろいろ口出ししてくる。だけど結構いいやつ」

「兄貴かあ、俺も兄貴の方がいいなあ」

「あれ、お姉さんもいいんじゃない。弟なんてかわいがってもらえるでしょう。年下の男の子ってかわいいもんだよ」

「そうなの。俺にはそうでもないけどなあ。やっぱり兄弟となると違うんだよ。何せ小さい時のことから知り尽くしてる」


 小さい頃は子供用のプールに裸で入った仲だそうだ。俺は全く覚えていないが、姉の方はよく覚えているらしい。物心ついてからは普段は知らん顔をしているが、ちょっとした変化は見逃さず突っ込みを入れてくる姉の勘の鋭さには、いつも閉口させられている。


「最近何か変わったことあったんじゃない、ってしつこく聞いてくる」

「あれ、あれ、家でも何か変わったことがあるの? 知りたいなあ」

「なんでもないよ」

「どこかが今までと違うんでしょ。知りたい、知りたいっ」


 鈴奈のにやついた顔が目に浮かぶ。


「もう、いいってば。彼女できたのかな~~って、いろいろ訊いてくるだけだ」

「それでえ、礼人喋ったの私の事」

「いいや」


 だって。契約彼氏になったなんて言えない。姉に馬鹿にされそうだ。


「彼女だっていってもいいよ、ただし契約彼氏だということは内緒にしといて」

「だよな。なんだそれ、って笑われそうだ」


 からかわれるだろうな。あんた、遊ばれてるんだよって。それから大笑いするだろう。自分の弟はもてないと思ってるんだ。


「家でごろごろしてるときって、何してるの?」

「なんか妙な質問だな」

「そっか、ごろごろしてるんだから、な~んにもしてないんだよね。何かしてる時は部屋で何してるの?」


 それもまた妙な質問だ。


「いろいろ、そっちとたいして変わらないと思うよ」


 少しだけ間が空いた。


「けど、私が何してるか知らないじゃん」

「あっ、そっか。どんなことしてるの?」


 家でどんなことをしているかも興味がある。


「ゲームとか、イラスト描いたりとか、おかし食べたりとか、本当に何もしないでベッドに転がってたりとか、いろいろだね。そっちは?」

「俺も、ゲームに読書に勉強に、ベッドでごろごろにいろいろ」

「ほお~~っ、読書って、何を読むの? 教えてえ~」

「いろいろな本だよ」

「そう、いろいろなねえ」


 またまた意味深な言い方をする。


「見せてもらおうかなあ。気になるじゃない。いいよね、契約彼氏なんだからっ」

「あっ、ああ。なんでも見せるよお」


 うわっ、見せてってことは、うちに来るということだな!


 片付けておかなきゃ。


「何かペットを飼ってる?」

「猫が一匹」

「へえ、うちにはインコが二羽いるよ。ヒナのころから育てたからすっごくなついててかわいいんだあ」 

「うお~~っ、そうかあ、今度見せてよ」

「見たい?」

「見たいっ! 見せてくれよ!」

「う~ん、じゃあ、見せてあげる」


 わおっ、今の返事で家に行けるぞ! 家に行ったら、どんなことが起こるか楽しみだ~~。


「女の子が家に来たことある?」

「ないよ」


 すんなりと認めてしまった。ここであると答えて嫉妬させ彼女の気持ちを燃え上がらせるのをよしとするやつもいるんだろうが、俺にはそれは言えなかった。


「じゃあ、私が行ったら初女子だ」

「どうぞ、おいでよお」

「そのうちね」


 電話での会話も盛り上がったぞ~~っ。声だけに集中していると、彼女の声は生の声よりも少し低めでこもって聞こえる。秘密めいた感じがしてときめく。電話というのは想像力をくすぐる。今度はこっちからかけるることにしよう!


「じゃあね」

「ああ、じゃあ、お休み」


 うぉっほおおおお~~~。いい夢が見られそう。

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