1-2 王女の懸念

「わざわざ隠し事をする必要はなかったようですわね。」


 スピリアはゼアーチに会釈をしながら言った。


「隠して良い事などまあ早々無い。早晩バレるからな。隠したい気持ちはわかるし、隠した方が良いとも思うが、だとしたらドレスはいかん。バレて欲しいと言っているようなものだ。それにシルディ。」


「私?」


「お前が綺麗な甲冑を着ているだけで何か裏があると察した。せめて少しは汚して来たまえ。ついでに寄ったという建前が成り立つ程度には。」


「……はぁ、失敗ねぇ。」


「いえ、大丈夫です。既に大凡の察しはついているようですし。」


 スピリアはドアをバタンと閉めて言った。


「どうか、お聞き頂きたい事がございます。」


「どうぞ。聞くだけは聞くとしよう。」


 そうしてスピリアが重々しく語ったのは次のような内容であった。



 最初は、国王ブライ・ガウローヴの様子が、子であるスピリアの目からみておかしいように思ったのが最初であった。


 普段は野菜中心の食事だったが、徐々に彼に出される食事だけ肉が増えているように見えた。好みの変化というものはある。そうした事もあってもおかしくはないだろう、と最初は気にしてなかったが、ある日裏でこっそりと、生肉を食らっているのを見て、何か間違いなくおかしいという気がしてきた。


 そうして違和感を感じ始めると、他にも疑問に思う事というのは多々出てくるものである。


 国家運営に携わる面々が急激に変化している。全てブライの指示だと言う。騎士団とは別に軍の育成も進めている。ーー騎士団は王宮や人々の警護を担当し、軍は即ち国家そのものの防衛を担当するのがこの国における通例である。昨今は平和で、魔物が住み着いた迷宮から魔物がやってくる事を除けば、軍が出張る事など無かった。にも関わらず軍備を拡張するというのは、それはある野望を思わせる物であった。


 侵略である。


 その点についてはシルディも不自然に感じる点が多々あった。騎士団には話が無いまま、軍備拡張や軍の演習計画が進められている。人々の護衛以外の役割が騎士団から剥奪され、その分軍の役割が増やされた。軍の増強が図られている事は明らかであった。


 極め付けが、この未鑑定品である。


 これはどこにあったかと言えば、なんと玉座の間の玉座裏だという。しかも、ちょうど魔力が一定量に達し、自然発生する瞬間までスピリアとシルディが目撃していた。


 そのまま放っておけば隠蔽される恐れは高い。シルディはこれを調査出来るであろう人物としてゼアーチの名を挙げ、スピリアとシルディは急いで此処に来た。そういう事であった。



 話を聞いてゼアーチは頭を抱えた。


「なんとも厄介な話を持ち込んでくれたね。」


「ごめん。」


「ごめんで済むか。まあいい。仕方あるまい。……スピリア王女。付かぬ事を聞くが、その様子がおかしくなった国王がトイレに行く事はあったかね。」


「……?それはどういう……?」


「まぁいいから。あるか無いかだけ答えてくれ。」


「言われてみると、無いような。」


「それでは、確定だな。」


 ゼアーチは溜息と共にそう呟いた。


「少々……少々か?下品な話になるが、我々人間ーー多少魔法を使える程度の人間を含むーーや自然生物は、不要な老廃物を排泄という形で外に出す必要がある。だが、魔物にはそれが不要だ。不要な老廃物は魔力まで分解して排出するからな。これは私の研究の成果で間違いないだろうと立証している。ダンジョンに潜って散々魔物を追跡したからな。」


「……じゃあ、やはり。」


 シルディとスピリアは息を呑んだ。


 ゼアーチは重々しく首を縦に振った。


「国王陛下、下手すればそれ以外の人間も含めた数人が、魔物になっている。あるいは成り代わられている可能性が高いと思われる。」

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