第8話 例の男の子

 【陽葵視点】


 今日うちに男の子がひとり来た。


お父様の同級生の子供らしい。私と同い年でしばらくここに一緒に住み、同じ学校に通うらしい。今お父様はその男の子を迎えに行っている。


 正直どうでもいいわ。小学校の頃にあった一件以来、私は人に興味を持たなくなり、人の感情を敏感に感じ取るようになった。中学校では成績が学年一位だったためか、よくクラスメートに質問されたりと頼られていたけど。人に興味はなかったけど理由もなく避けるのも不自然なので、お話などはしていた。


 まぁ、自分でもぶっきらぼうな対応だったとは思っているけど。


 思考が一段落ついたところで、持ってきていた本を全部読んでしまったことに気づき、図書室から新しい本を持ってこようと立ち上がり、自室を出た。


 図書室から面白そうな本を取り、自室に帰ろうとしたときに玄関の方が騒がしくなっていることに気づいた。


 うちの家の玄関は二階まで吹き抜けになっており、二階の廊下から見下ろせる場所がある。


 そこを通る際に一度立ち止まって一階を見てみた。そこにはいつもお父様をお迎えする時と同じようにメイドが並び、お母様が出迎えていた。


 そして見知らぬ男の子(多分私と同い年)がお母様とメイド長の梓と話していた。


 多分あの子がお父様の言っていた子なのでしょう。そこそこ良い顔立ちをしているけど学校にいる男の子も良い顔立ちをしている人はたくさんいるから、特に響かないわね。


 まぁ、いくら顔が良くても響かないと思うけど。


 そんなことを思いながら見下ろしていると、例の男の子が顔を上げてこっちを見上げていた。お父様とお母様も男の子に釣られたのかこっちを見上げてきた。


 もう一度男の子の顔を見ると目が合った。そして違和感を感じた。今まで見てきた目とは何か違う感じがしたからだ。そのせいか私にしては長い時間彼の顔、いや目を見続けてしまった。


 そのことに気づいた私は恥ずかしくなってさっさと自室に引っ込んでしまった。


 夕食ですと梓が呼びに来て食堂に向かうとお父様とお母様はいつもの席にすでに座っていた。そして例の男の子は私がいつも座る席の隣に座っていた。


 まぁ、気にする必要もないのでいつも通り座ったら男の子がこっち方を向いて挨拶をしてきた。


 「えっと、如月修といいます。これからしばらくの間ここでお世話になります。よろしくね」


 男の子は如月修と言うらしい。


 そしていつも通り挨拶に対しては無視した。


 翌朝、朝食の時は私の方が彼より早く席についた。そしていつも通り朝食が来るのを待っている間本を読んでいた。


 昨夜みたいに本を持って行かないことの方が珍しい。


 朝食を食べ終わり私はたくさんの本を梓に持ってもらって和風庭園の池の真ん中に立っている御堂に向かった。


 ここは私が気に入っている場所の一つで予定がない日とかは一日中ここで本を読むこともある。いつも通り梓に持ってもらった本を隣に置いて本を読んでいた時、屋敷の方から誰かが洋風庭園の方でうろうろしているのがわかった。


 よく見ると相手も手に何冊か本を持っており同じようにここで読書するのが気持ちいいだろうと考えたのかこっちに向かってきた。


 こっちに向かってきたのは彼だった。相手もここにいるのが私だとわかったのか少し気まずそうにしている。私が女の子だから?


 それでもここで本を読む事にした彼は橋を渡って御堂に入ってきて私の本を置いていない左側に来て「えっと、隣座ってもいいかな」と聞いてきた。


 私は別に誰が来て勝手に座っても良いと思っていたから、わざわざ隣座って良いかと聞かれて少し動揺してしまい、なんの反応も返さなかった。


 なかなか座る気配を見せない彼が気になって目を本から離して彼の顔を見ると、彼はがっかりした顔をしていた。


 その顔を見て流石に素っ気なくしすぎたなと思い、思わず言ってしまった。


 「自由に座れば」と。


 その言葉を聞いた彼の顔がパッと明るくなったのも見て、サッと彼の顔から目を離し本に戻した。そして彼が嬉しそうに隣に座ったのが分かった。


この時私は彼に対して特に興味は持たなかった。

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