第6話 パーティ結成

 ヒューの手助けもあり簡単にダンジョンから帰還したリジーは、その足で冒険者ギルドに足を運んでいた。

 理由はパーティ申請をするためだ。


 夕刻のギルド会館はクエストが終わった冒険者たちで混雑していたが、ヒューの姿を見るなり誰もが道を開ける。通った後もその背中に幾多の視線が向けられることもあり、彼の斜め後ろを歩くリジーは内心落ち着かないことこの上なかった。


(視線に物理攻撃力あったら私死んでたなぁ……)


 ヒューは黙っていれば女神さえ魅了しそうな美貌の持ち主だ。高い実力と相まって女性冒険者からの人気は天井知らずであり、一種偶像アイドルのような扱いをされている。

 そんな彼と一緒に歩いているリジーへの視線は、それはもう痛かった。


 しかしそんな周囲とリジーの様子に気づかぬヒューは、カウンターに座る職員に淡々と用件を伝えた。


「パーティの申請をしたいんだが」

「えっ!? あ、あの「孤狼」が……!?」

「申請はこちらではなかったか?」

「い、いいえ! 合ってます! ではこちらの――」


 ヒューの言葉により、背後では暴動もかくやというような騒がしさだった。それはそうだろう、今まで誰とも組むことのなかった生ける伝説が、彼らの常識を覆そうとしているのだから。

 リジーはパーティ用書類に必要事項を記入しながら、彼らの気持ちは痛いほどよく分かるので内心で頷いておいた。

 耳を澄ませながら――あまりの騒がしさにそうしないと聞こえない――職員から、一度聞いたことのある説明を受ける。


「……なので、クエストで得た報酬は原則パーティの人数で等分となります。ただしパーティ内での了承とギルドの許可があれば、報酬の割合は変えることが出来ます。無断で報酬のピンハネが発覚した場合には、ギルド規則違反として相応の罰則がありますのでご注意ください」

「分かった。リジー、報酬は等分でいいか?」

「え、えっと……いいです……」


 きちんと確認を取ってくれるヒューの優しさにじんわりと心の奥がぬくもりに包まれる。

 アインスたちはリジーの了承を取らずに、勝手に自分たちの取り分を多くしていた。

「リジーは料理術師なんだから食材さえあればいいだろう?」というアインスの独断で、リジーも彼の言うことに逆らえなかったのだ。だからリジーの装備は、冒険者全体で見てもかなりお粗末なものだった。


 そうして無事に申請を終えたヒューとリジーは、最後まで騒がしかったギルド会館を後にする。

 しばらく一人でギルド会館には行けまい。わざわざ自ら質問攻めや物言いたげな視線を食らいに行くような被虐趣味は彼女には無かった。


「リジー」

「はい、ヒューさん」

「そのヒューさんというの、止めないか? 敬語もいらない」

「でも、年上ですし……強いし、その、周りが……」


 どんどんリジーの言葉が尻すぼみになっていく。

 ちらとヒューを見上げれば、ほんの少し眉を下げて悲しそうな表情だった。それが雨の中で捨てられた仔犬と重なり、罪悪感をべらぼうに刺激してくる。

 長い長い沈黙の後、リジーはゆっくり頷いた。


「………………わか、った。敬語も、敬称も、つけない」

「ああ、ありがとう。ダンジョンでも時々敬語外れていたし、素はそっちだろう? これからずっと一緒にいるんだから、気楽に行こう」

「ず、ずずずず、ずっと、い、いいい一緒!?」


 ぼん! とリジーの顔が爆発するように赤く染まった。告白のような言葉に脳が理解を超えてフリーズする。

 しかしヒューはけろっとした顔のままだ。


「当たり前だろ。俺はリジーの料理が食べたいんだから、リジーと一緒にいなきゃ食べられない」


 ヒューの言葉に全身の力が抜けそうになる。乙女丸出しの考えが一瞬でも出てしまったことがたまらなく恥ずかしくなり、リジーは両手で顔を覆うとそのまま駆け出した。


「リジー!?」

「うわあぁぁん、しばらくあっち行って!」

「何故!? 腹が減ったんだ、リジー! 待ってくれ!」

「知らないいいいいぃぃ!」


 茜色の空にリジーの絶叫が尾を引いた。

 実力差ですぐに捕まってしまうと分かっていても、リジーは街を全力で駆け抜けるのだった。

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