宇宙アイテム


「宇宙船は屋根の上に移動して光学迷彩で隠したわ。次は屋根と天井に空いた穴を塞がないといけないわね」


 自称宇宙人の少女は着ていた水着のような服の胸元を片手で引っ張って胸の谷間を露出させると、もう片方の手を胸の間に突っ込んで何か探るような動きを始める。


「……な、何してるの?」


 不可解な行動に困惑していると、少女は胸の谷間に埋めていた手を引っこ抜いた。


「ジャジャーン! 【復元スプレー】」


 掲げた手にはスプレー缶が握られており、自称宇宙人少女は得意げな顔でわたしに見せた。


「そ、それで何をするの……?」


「まあ見てなさい。便利な宇宙アイテムなのよ」


 自称宇宙人少女は手に持ったスプレー缶を構えると天井に空いた大穴に向かってスプレー缶の中身を勢いよく噴射した。吹きつけられたのは白い泡のようなもので、屋根と天井に空いた大穴が大量の泡で覆われていく。


「まさか、これで終わり?」


 わたしがそう思っているとフワフワとしていた泡が固まり始めて粘り気を持ち、数秒後には半透明のスライムみたいにドロっとした状態に変化する。 


 スライム状に変化したスプレーの泡はまるで意思があるかのようにスライム状の長い腕を床に垂らし、今度は植物が四方へ根を伸ばすように床の上に広がって周囲に散らばっている瓦礫を包み込んでいく。


 半透明のスライムに覆われた瓦礫はそのまま内部に飲み込まれると、天井から伸びているスライムの腕の中を通って穴を塞いでいる復元スプレーの泡の奥に消えていく。


復元ふくげんスプレーには復元素子を持った自律型ナノマシンが搭載されているの。壊れた箇所にスプレーすると一瞬でスライム状に変化し、破損部から飛び散った破片などがあれば生き物みたいに長い腕を伸ばしてパーツを回収するわ。破片がない場合や激しく変形していたとしても、ナノマシンが周囲の物質をスキャンして同じ物質を合成し、元通りに復元してくれるの」


「よく分からないけど、すごい技術……」


 自称宇宙人少女の説明を聞いている間にも復元スプレーによる破損箇所の修復と復元作業が続き、15分ほど経つとスライム状に変化した復元スプレーの泡が消えてしまった。


 泡が消えた後には元通りになった天井が現れ、部屋中に散乱していた瓦礫や粉塵もきれいになくなっており、部屋は宇宙船の墜落前と変わらない状態に戻った。


「す、すごい……こんな短時間で、全部元通りになっちゃった……」


「フフン、さすがでしょ?」


 自称宇宙人少女は使い終わった復元スプレーを胸の谷間に押し込むと、鼻高々といった様子で胸を張る。


「いや、すごいのは復元スプレーの方だよ」


 わたしの鋭い指摘に少女はわざとらしくずっこける。


「ま、まあ……実際はそうなんだけど、私のことも褒めて欲しいわ」


 自称宇宙人少女は労ってとばかりにわたしへすり寄ってくる。


 家の一部を破壊したのは当人なんだし、元通りにするのは当然のことなので褒めるというのはちょっと間違っている気がする……。


 しかし、目の前で奇跡のような出来事を目撃してわたしは確信した。この少女は自称宇宙人などではない――本物の宇宙人なんだ! 手足のように自由自在に動かせる髪の毛に宇宙船や地球の技術を遥かに超えたアイテムを持っている点など、ただの電波系コスプレ少女だとは言い難い。


 少女の言っていることは本当であり、地球外からやって来た異星人だとわたしは理解せざるを得なかった。


 異星人の存在を受け入れて頭が冷静になってくると、わたしは宇宙人少女の足元を指差す。


「あの、家の中は土足禁止なのでブーツは脱いで欲しいんですが……」


「そうなの? それならもっと早く言ってくれないと困るわ」


 宇宙人少女はハーフブーツを脱ぐとさっき復元スプレーを取り出した時と逆の要領で胸元にハーフブーツを押し込んだ。ハーフブーツはまるで手品でも見ているように胸の谷間に吸い込まれて消えてしまう。

 

 復元スプレーも胸に隠せる大きさではなかったけど、一体どういう仕組みなんだろう?


 宇宙人少女には謎が多く、気になる点は他にもあった。

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