いもう凸



「それじゃあ、また明日ね大地くん」


「楽しかったデスヨ〜、またな!デス!」


「うん、また明日バイトでね」


「あれ?梨沙はバイバイしないのデスカ?」


「わ、私は……」


「……? はっ!もしかして、大地の家で二次会というヤツですか!?私も行きたいデス!!!」


「いや、あの……」


「……ほら、ケーキ買ってあげるから早く帰るわよ。帰らないなら私一人で食べちゃおーっと」


「え、ケーキ!? ちょっと、まってください優里〜!」


 時刻は17時になり、俺たちは博多駅で解散することになった。


 それにしても、さすがは優里さんだ。エリーの扱い方に慣れている。李梨沙の事はバレたらしいが、李梨沙の少しの間で全てを察したのか、話を逸らしてくれた。やっぱり優里さんは優しいんだよなぁ。


 ……ん?なんか携帯に通知が来た。うん、やはり優里さんだ。あの時の写真と共に


『今度は二人で遊ぼうね?』


とメッセージが添えられている。


 彼女に目を向けると、こちらをチラッと見て舌を少しだし、悪戯に笑みを浮かべる。


 ……いや、まじでかわいいぞ。俺が李梨沙一筋じゃなかったら、今のできっと来世まで彼女に心を奪われていた事だろう。


「ゆ、優里さん……! 

 ……さ、私たちも行こっか!」


「はい!」


 本当に今日は色々なことがあった。


 エリーはいつも通り元気いっぱいだったし、優里さんは相変わらずお綺麗だった。


 我が推し李梨沙は俺の名前をプライベートで初めて呼んでくれたし、上目遣い可愛かったし、休日一緒に初めて過ごせたし、めちゃくちゃ近くで長時間過ごせたし、まじで推しが最高だった!


 何だったんだこの最高な時間は!最初はどうなることかと思ったが、終わってみれば最高の1日だった。


 ……でも、どうして李梨沙は水族館に来たんだ?


 本当に魚を観に?最初のていである友達とはぐれてってのを無視して俺と帰ってるし……


 もしかして、もしかしてよ?李梨沙って俺のこと……




 ……いやいやいやいや、何言ってんすか大地さん。


 彼女は誰もが知るような元トップアイドルで日本一のインフルエンサー。対する俺はそんな彼女の一ファンで、どこにでもいるような冴えない一般人。


 これのどこが釣り合っていて、彼女はそれなら俺のどこに惚れるというんだよ。


 もうこれ以上夢を見るのはやめよう。俺にとっては今この瞬間こそが夢のような時間なんだ。これ以上望んだならば、きっとこの夢も覚めてしまうだろう……


 俺は彼女が偶然越して来たアパートの隣人。


 それでいいし、それがいい。もう俺の日常から二度と、榎本 李梨沙 という存在を消したくはないのだ ———




 ***




「……どう、かしら」


「…………う、うまいです!!!」


 あのあと、もう夜ご飯の時間だし私の部屋で食べないか、と李梨沙から言われ二つ返事でおっけいを出した俺は、今日も彼女の手料理を食べていた。というよりも舌鼓をうっていた。真に。初めて。


「ほ、本当に美味しいです!!!神です!!!」


「そ、そんな泣くほどだなんて……大袈裟よ……(泣いちゃうほど食環境が変わって嬉しいのね……今までごめんね大地くんっ!)」


 まじで、まじで美味い!!!なんなんだ、このカレーライスって料理は!手が止まらんよまじで!


 これが愛する推しの手作りだからなのか、落ちて上がった期待値の振り幅によるものなのかは定かではないが、一つ分かるのは彼女が料理をしている際に見ていた、クッ○パッドには感謝しかないということだ。


 このサイトをみればここまで食は変わるものなのか……革命的サイトです!是非皆さんもご覧になってください!胃袋環境が劇的に改善されます!!!


「ね、ねぇ、あのさ……」


「ん?どうしました?」


「いや、さ?こうやってまたご飯を作ってあげることもあるしさ?いちいち部屋に呼びにいくのも面倒やん?……だからさ、もし君さえよければ連絡先を……」


 ピーンポーン


「っ!? ……は、はーーい!」


 李梨沙は出かけた言葉を飲み込むと、来客に対応するべく赤面のまま玄関へと向かった。


 ……な、な、何を言おうとしていたんだ李梨沙は!?


 俺の聞き間違いではなければ連絡先って言ってたぞ!?もしかして交換できてた!?チャイムならなきゃ交換できてた!?うわーーーーーー。絶対さっき高望みしたから戒められたわーーー神に。戒めるかね、今。ないわー、戒めるとか、ないわー。


 俺が目に見えてズーンと落ちていると、玄関から少し慌ただしい声が聞こえる。


 もしや、宅配便のお兄ちゃんとかが李梨沙と分かり、ちょっかいでもかけているのか?


 今この場には、俺しか彼女を守れる者はいない。俺がやらねば、誰が推しを守るんだ!


 俺は急いで立つと、少し騒がしい玄関へと向かった。


「大丈夫ですか李梨沙さん!」


「へ!?……なんで来たのぉぉぉ」


 俺の声に驚き、振り返った李梨沙はすごく落胆していた。


 え?なんで?ていうか争っていたのって……この女の子?


 玄関には、李梨沙と同じく綺麗な銀髪を肩くらいまで伸ばした、彼女と瓜二つの美少女が立っていた。


 だ、誰なんだこの子は……李梨沙に、似ている?違うのは本当に髪の長さくらいじゃないか?……いや、胸も……ば、馬鹿野郎っ!!!あの大きさが最高なんじゃないか!凸るぞ!



「…………お姉ちゃん、こいつ、誰?」


「い、いや、そのー……」


 李梨沙が凄くきょどっている……ん?待て、お、お姉ちゃん?????


 李梨沙のことをお姉ちゃんと言ったこの子に少し驚いたが、すぐに俺はこの子は本当に彼女の妹だろう、ということがはっきりと分かった。


 え?なぜかって?だって現在進行形で睨まれている顔が、我が推しのソレにそっくりなんだもの…………きゅん。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る