第6話 Ficus_05

 私がこの境界区エリアを訪れたのは、一つの目的があってだ。

Orkideオルキデ = Whitecapsホワイトキャップ 」と刻まれた墓を捜し、その下に遺髪いはつを埋めること。


 それは唯一私が知己ちきと呼んだ男の、たっての願いで、その遺髪いはつは彼と心中した女の物だ。

 この目的の為に身分を偽り、証明書も偽造して不正入圏ふせいにゅうけんし紛れ込んだ。

 自分が眠る為の場所を探している、と頻繁に墓地の場所ばかり尋ねてくる男を、周りが不気味がるのは至極しごく当然のことと思う。


 休みの度、墓を捜し歩いたが未だ見付からない儘だ。 次にはその女の生家を再度訪れよう。

 当初、二ヶ月程あれば事を終えるに充分と考えていたのだが、既に七ヶ月も経ってしまった。

 毎週のノルマは上げているが、この地の輸送技術は最新では無いらしく、届いた物の保存状態が粗悪であるとオペレーターから再三、一時帰所を要求され、研究所内のクリーンルームで最新の検体を提出しろ、と言ってきている。

 之に対しに、体調を崩している、臨時に仕事が入った、と回避し続けていた。

 一度帰れば半月は此処に戻れない。 入圏にゅうけんには簡単な手続きで済んだが、出るのには再入圏の分も含め、準備しなければ為らない書類が多くて兎に角とにかく面倒臭い。

 おまけに学者肌の上司に渡航先と理由、どんな必要性があるのか詳細なスケジュールを提出しなければ為らず、この事のみ考えても疲れる。


 この面倒さを、夏の長期休暇を故郷へ戻らずに済ませた同僚達はその理由として挙げていた。 本当のところ面倒なのは手続き云々うんぬんでは無く、帰郷した先でのことであったろうが。


 子供の仮病の様な理由では、そろそろ誤魔化ごまかしきれなく為っている。 要求が強制に変わるのは時間の問題という所で、墓巡りは今回これが最後に為るだろう。

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