試験が終わって。

 俊はここのところのドタバタでサボった授業のノートのコピーを手に入れ、概ね良好に試験は終わった。若干の不安要素がある科目もあったが。

 ノートの提供者はほとんどが沙耶。彼女も「ドタバタ」の中のひとりだったが、しっかりと授業を受けていたことに俊は驚いた。

 いや、それが学生としてあるべき本来の姿ではあるのだが。

「もう~、仕方ないんだから」

 そう言ってノートを貸す沙耶の姿は、高校生のときのそれとそのままだ。あの頃も宿題を忘れては写させてもらったっけ。

 

 ノートのお礼にと、沙耶に昼食をおごることにした。なんのことはない。いつものあの喫茶店。喫茶店のランチメニューは男子学生にはやや軽い。しかし、今日はカレー曜日なので、おそらく満足できるだろう。

 

 以前、カレーの試食をしたときはランチタイム前だったが、今日はちょうど時間が重なってしまった。「名物」を味わいにきた学生がすでに数名店の前で待っている。ゆっくりと食事を楽しむ雰囲気にはなりそうにないが、良しとすることにした。

 

 待っていると、後ろから別の学生がく気配がした。隆と真由美だ。肩の距離が近く、その仲の良さを物語っている。なんとも幸福な。なんとも濁りのないその姿に、俊は少し自身の立ち位置に後ろめたさを感じた。

「あ、俊くん達もカレー目当て?」

 明るい声の真由美。そう言えば最近の沙耶の声のトーンは以前より低くなっているような気がする。元々あまり高いトーンではなかったが。

「今日はカツカレーだってよ」

 隆がにこやかに言う。

 ああ。

 ああ、なんとも幸福な。

 自身を不幸だとは思わないが、仲睦まじい姿は今の俊には眩しかった。そもそも自身が原因で招いた状況でもあるのだから。


 彼らはきっと、このまま寄り添い合い、卒業したらいずれは結婚するのだろう。それが当たり前に見えるその姿。

 そして俊は彼らの結婚式のスピーチでこう言うのだ。


「ふたりの絆は僕にとっても憧れるほどのものでした」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る