Xの独白

 どうやらもつれた糸は徐々にほどけてきているようだ。おそらく。多分。彼らのバカバカしい饗宴も収まるべきところに収まっていくだろう。

 「スパイス」をまいただけのことはある。多少まだくすぶってはいるようだが、そんなものはきっと時間が解決してくれる。


-いつだったかの自分のように。


 ああ、思い出したくないことを思い出しそうになった。思考を止めるのは難しい。考えないようにしようとしたところで、浮かんだ思考は消すことができない。


 嫌だ

 

 嫌だ


 嫌だ


 こんな自分が嫌だ。こういう時はなにか楽しいことを考えよう。そうだ、先程届いた俊からのメール。沙耶とやり直すというそれ。バカな男だ。あちらこちらとキョロキョロとする風見鶏。俊のあの顔にニワトリのくちばしをつけた姿を想像すると笑えてきた。


 そういえば、そのメールのすぐ後に綾からもメールがきた。公衆電話からのいたずら電話がきたという。確かにそれは自分。しかし、よく聞いてみるとかけた覚えのない時間にもかかっているようだ。誰の仕業なのだろうか。

 彼女は非通知着信は拒否したようだが、今回はしないそうだ。なんでも実家の母親は携帯電話を持っておらず、出かけたときなどに時折公衆電話から連絡をしてくるらしい。なんとも好都合な。

 しかし、覚えのない電話は誰なのだろうか。邪魔はやめていただきたい。この玩具たちを上手く操るのは自分だけ。余計なことをされると成就したときの楽しみが半減してしまう。

 

 彼らはきっと美しく、元の形に戻るだろう。戻るべきだ。

 その修復作業をするのは自分だけ。


 だれ? 余計なことをするのは。

 ああ、でもあの娘のことだから、意外と他にも恨みを買っているのかもね。

 かわいいあの娘。でもなんとなく分かる。笑顔の裏にある、暗い影が。出会ったときからなんとなく気に食わなかった。そんな人も他にもいるのだろう、きっと。

 愚かな俊をあの娘から解放してあげよう。彼もきっとそれを望んでいるはずだ。


 テレビから流れる、アイドル歌手の歌声。恋だの愛だのなんて馬鹿らしい。そんなものは泡沫うたかたの夢に過ぎないのに。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る