幕間 猫の女王

幕間 猫の女王



 黒蓮の妖しい香りがただよう神殿。奏者が彼女の退屈をまぎらわす音楽をかなでている。

 大勢の下僕がひざまずく前で、彼女は黒大理石のカウチによこたわりながら、黄金のゴブレットを口元に運ぶ。


 そこには彼女の大好物がそそがれている。赤く酸味のある液体。そのなかにタプタプと浮かんでいるのは、白く丸く、どんな果実より瑞々しいものだ。彼女にとってはがこの上ない好物。


 でも、今、ゴブレットのなかにあるは、少し時間がたって、しなびてしまった。もっとの新鮮なものがいいのだが。


 まあいい。かえはいくらでもある。


 彼女は黄金細工のつけ爪をひらめかせ、もっとも手前にいる下僕の女を招きよせる。女はふるえあがった。だが、逆らうことはできない。なぜなら、彼女は神だから。逆らえば、どんな報復が待っているかわからない。下僕どもは、それをよく心得ている。


 女はおびえ、恐怖におののき、泣きわめきながらも、数歩、前に這いだした。どちらかと言えば、女のうしろにいた別の下僕に背中を押されてよろめいたのかもしれないが。


 それでも、彼女は満足した。長いつけ爪を外し、さらにするどい生来の爪を女の目元につっこむ。女は金切声をあげ、床に倒れふした。ゴロゴロころがりながら血をふりまいている。彼女は用済みになった女をつれだすよう、ほかの者たちに命ずる。


 そして、奪いとったばかりの眼球を口に入れた。甘い。とってもクリーミーで美味。


 彼女はゴロゴロと喉を鳴らす。


 だが、彼女の典雅な日々は、とつぜん終わりを告げた。下僕たちのあいだで何があったのかはわからない。別の神を見つけたのかもしれないし、生贄を求める彼女のやりかたに嫌気がさしたのかもしれない。


 ある夜、とつじょ神殿に大勢の暴徒がやってきた。そして彼女を乱暴に祭壇へあげ、両側から押さえつけると、やっとこを用いて彼女の顔から、もっとも大事なものをとりだした。


 そう。彼女が大好きなを。

 これまで、さんざん人間の女どもから奪ったものを……。

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