第16話長瀞 西善寺の桜と大手の桜

長瀞 西善寺の桜と大手の桜 


  平成十四年三月十七日


 桜の開花の便りが届き始めたがまだ見に行くには早いので


秩父の聖地霊園で梅を見ようかと出かけてきたが花は終わっていた。


カタクリでもと思ったが見に行くには早いらしい。


中途半端になってしまって行くところもないので長瀞方面に向かう。


長瀞の秋の七草寺のフジバカマで知られている西善寺に車を止める。


何の計算も無く来てみたが良いこともあるものである。


思いがけず桜に出会えた。


普通、長瀞の桜は咲くのが遅く五月の連休近くになる。


ところが、ところがなんと咲いている。


目を疑った。


まさか咲いているなんて驚き以外の何者でもない。


西善寺の門の所にしだれ桜があるのは前から知っていた。


が、その樹は蕾さえ付いてない。


その隣、寄居方向に数メートル行ったところに金ヶ淵という細い川がある。


その袂にある樹が咲いていたのである。


枝垂桜ではないが一枚スケッチする。


そのままスケッチブックを片手に持ち愛犬を連れてぶらぶら歩いていると


もう一本咲いている樹を見つけて慌てて近寄る。


こちらも枝垂桜ではないがなんとも色気のある樹である。


立派な肩書きまでついている。


大手桜と書かれた看板が目の前に立っていた。


根元から蔦のようなつる性の葉を身にまとい、


長年ここで風雪に耐えて来たであろう縦しわを刻んでいる。


その割には幹はさほど太くも無いが細いわけではない。


根は同じなのか若木を側に寄り添わせている。


それにしても艶っぽい樹である。


しなやかに身をくねらせて色っぽい花を咲かせている。


花街の芸者というところか、もしかしたらもっと格上の花魁かもしれない。


気品のある艶っぽさである。


あるいは夫を殺され、あだ討ちに諸国を歩く妻女と一人息子かも・・・


なんて勝手なことを想像しながらスケッチしている。


こんな早い時期に満開の桜に出会うことが出来るなんてうれしくて舞い上がってしまう。


誰かにこの興奮を話したくてたまらない気分だ。


予定していない時に予定していない花に出会えるのが一番うれしい。




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