13――鉄甲艦「布哇」

「よか船じゃのう」


 一年前、合衆国勢が北へ撤退した後に出来た能北水軍工廠を視察した武尚は素直な感嘆の声を上げた。


 降った合衆国人を躊躇無く受け入れる島津幕府の治世下、合衆国人の工員も工廠には数多く居る。


 彼らは異国人のショーグンを一目見ようと押しかけており、周囲を固める脇侍衆ガーズに睨まれてもさほど意に介していない。


 案外背が低い武尚のことを見て、面と向かって馬鹿にするものはさすがにいなかったが、ヒソヒソと陰口を叩く者もいた。


 だが、武尚は意に介していない。


「あんたはもう征夷大将軍将軍さまってやつなんだ。そうそう軽々しく歩き回られちゃ困るってもんだぜ」

 

 米洲伊達家の次男坊であり、先の豊臣討伐の武功により脇侍衆奉行ガーズ・コマンダーに列せられている伊達桑港守さんふらんしすこのかみ宗紀むねのりが小言を言う。


「船が見たいなら、人払いしておけばいいんだ。豊臣の残党どももお前さんの首を狙っているだろうに」


「じゃっでといって城に引きこもっちょってん、ないも始まらん。将軍ならばなおんこっ、様々なもんを見聞きせんなならんめえ」


 邪気のない顔でそう言われた宗紀は、毒気を抜かれた顔でぼやく。


「この将軍さまは。口ばかり達者で困る」


「将軍になった程度ん事で、こんおいは変わらんさ」

 

 そう言いながら、武尚は惚れ惚れと船渠に鎮座しているフネを見つめる。


 側面や甲板に黒光りする鉄の装甲板を張り付け、火矢や大砲に対する一定の防御力を備えた帆船である。


 西洋の軍艦を調査した結果を取り入れ、側面には上下三列からなる大砲群が砲門を突き出している。

 

 島津幕府水軍の主力艦として期待されている、鉄甲艦『布哇はわい』であった。


 艦名の布哇は武尚の第二の故郷であった。


#100文字の架空戦記

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