4――米洲豊臣家直臣、前田利親

米洲アメリカ豊臣家直臣じきしん、前田利親!敵は謀反人、島津武尚ただ一人!」


 赤備えの甲冑を着た大男は、大音声で叫んだ。


 太い眉に高い鼻、大きく開けられた口、美形とは言えないが迫力だけはあるつくりの顔だった。身の丈は七尺ほど、丸太のような体型のこの偉丈夫は殊更に目立つ男だった。

 前田家と言えば、豊臣家が日の本に覇権を確立する立役者となった一族である。


 布哇ハワイを征服した後、この米洲大陸アメリカに渡った副王ヴァイスロイとでも言うべき一族、米洲豊臣家。

 その始祖である豊臣春永に付き従った、歴史ある名家だ。


 前田家の誇る漆黒騎兵衆と言えば、今や東部海岸線や金田洲カナダに追いやられた「合衆国」も震え上がると言われる戦闘集団である。


練度の高さがうかがえる立ち直りを見せた騎兵衆は、島津の陣中へ突撃していく。


すぐさま種子島フリントロック・ライフルの応射が金切り声を上げる。


胴丸を貫かれた武者が落馬し、眉間を貫かれた馬が立ち上がり、混乱が広がる。


大筒おおづつの砲弾が炸裂し、破片が周囲の徒歩かちの兵士を殺害する。


――これほどの鉄砲、大筒。本陣への突入は厳しいかもしれぬな。


そう思いつつ、利親は突進を緩めない。


#100文字の架空戦記


直臣じきしん――直接に主君に仕える臣下のこと。

史実における江戸幕府での旗本はたもとなどがその例。

主君の部下の部下、つまり間接的な部下は陪臣ばいしん、もしくは「またもの」と呼ばれる。

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