第31話 自己紹介



 ――魔王城・会議室1号



 本日行われる幹部会議の場所は、この会議室1号となっている。

 全部で6つある会議室で一番広く、主に幹部会議などで使用されるらしい。



「あ~、本日はよく集まってくれた」



 ホワイトボードのようなモノを背にしたザッハ様が、全体に向かって声をかける。

 皆、それに合わせて例の拳の側面を胸に当てる敬礼を行ったので、僕もそれに倣う。



「……今日は中々集まりがいいな」



 ザッハ様がそう言うからにはそうなのだろうけど、ここには僕を含めて6人しか集まっていない。

 いつもはこれより少ないというなら、わざわざこんな広い会議室を使わなくても良かったんじゃないだろうか……



「丁度いい。先日の集会にはいなかった者もいるようだし、改めて紹介をしておこう。こ奴が、私が新たに召喚した配下、レブルである。皆、覚えておいてくれ」



 いきなり紹介された為、僕は慌てて立ち上がって自己紹介を行う。



「レ、レブルと申します。職務は、指揮官兼、中立エリアの保守、及び監視を任されております。よ、よろしくお願いします!」



 そう言って頭を下げると、何人かがぱちぱちと手を叩く音が聞こえた。

 一人はギアッチョさん。そしてもう一人がサキュバス? の女性。あと一人は……骨と皮だけのアンデットだった。



(あの人は、ひょっとしてリッチなのだろうか?)



 リッチは、上級以上の魔法使いのなれの果てと言われる存在だ。

 つまり、元人間である。

 もしリッチなのだとしたら、同じ元人間としてシンパシーのようなモノを感じずにはいられない。



「魔王様、折角の機会ですし、ここはレブル様のために幹部各位から自己紹介をしてもらっては如何でしょうか?」



 ギアッチョさんから提案が入る。これは僕にとってはとてもありがたい話だ。



「うむ。それがいいだろうな。……では私からさせてもらおう。私の名はザッハだ。此度の託宣により、正式に第43支部の魔王に配属された。私も皆と同じく新米であるため色々苦労をかけることになると思うが、可能な限り努力はしていくつもりだ。……宜しく頼む」



 ザッハ様はそう言って頭を深々と下げてくる。

 魔王様がそんな低頭で良いのかという気もするが、新米ということであればそ気持ちはわからなくもない。



「ふふっ、私達にとっては今更な気がしますが、相変わらず謙虚な男ですね貴方は。とても悪魔とは思えません」


「そうじゃのう……。魔王になったからには、もう少し偉そうにした方がええと思うがの? カッカッカ」


「全くだ。魔王がそれでどうする」



 サキュバスとリッチ、そして人虎からツッコミが入る

 どうやらこの三人、魔王軍設立以前からのザッハ様の馴染みらしい。



「む……、今更私のことはどうだっていいだろう。それより、早く自己紹介の続きを進めんか」


「はいはい。では私から。私の名前はクーヘン。見ての通りサキュバスよ。魔王軍では人事部部長を担当しているわ。よろしくね? 指揮官様♪」



 そう言ってクーヘンさんは妖艶に笑ってウィンクをしてくる。

 僕はそのあまりの魅力に、一気に顔が熱くなってしまった。



「これこれ、若者をそう簡単に誘惑するものではないぞ? そういうのはワシだけにしておくんじゃ」


「嫌よ。骨と皮だけのジジイを誘惑しても、私に何も旨味がないじゃない」


「トホホ……。本当のことじゃが、悲しいことよのう……。おっと、また話が脱線するとことじゃった。あ~、ワシの名前はワラビーじゃ。見ての通り骨と皮だけのリッチじゃよ。魔王軍では経理部門と生産管理部門の長をやっておる。アンデットは疲れ知らずじゃからのう。よう働かされてるわい。カッカッカ!」



 やっぱり、僕の予想通り彼はリッチだったようだ。

 しかも経理と生産管理部門長の兼任……。相当優秀な方みたいだな。



「……俺はシューだ。種族は獣人。情報部門と防衛部門を兼任している」



 シューさんはそれだけ言うと、再び腕を組んで黙ってしまった。

 中々に気難しそうな方である。

 どうやら僕のことはあまり歓迎していないようだけど、単純に気に入らないのか、それとも何か理由があるのか、気になるところだ。



「相変わらずシューは愛想がないわね~」


「そうじゃのう。若いのだから、もう少し元気よくしたらどうじゃ?」


「ふん。俺は仲良しごっこをするつもりはない。新入りに愛想なぞふりまくものか」


「……ふむ。気難しいのはいつものことじゃが、それ以上に今日は機嫌が悪いようじゃのう。お主、何かしたか?」



 ワラビーさんがそう尋ねてくるが、僕はブルブルと首を振る。

 シューさんとは今日が初めての顔合わせだし、昨日の今日で彼の機嫌を損ねるようなことをした覚えはなかった。



「そうかそうか。まあ、誰しも機嫌の悪い日はあるものじゃて。カッカッカ」



 ワラビーさんの眼窩が一瞬光ったが、彼はそのまま気にした風もなくカラカラと笑う。



「レブル様。私も一応自己紹介した方がよろしいでしょうか?」


「あ、できればお願いします」



 ギアッチョさんが自分の紹介も必要か確認してきたので、僕は改めてお願いすることにする。

 ステータス情報は見せて貰ったが、彼の所属や担当なども知っておきたかったからだ。



「それでは紹介させて頂きます。ギアッチョと申します。種族は悪魔で、元々は魔王様の使い魔をしていました。今は魔王様の秘書兼、事務部門の長を任命されています。どうぞ、よろしくお願いいたします」



 相変わらず礼儀正しいギアッチョさん。

 なんとなく予測はできていたけど、彼はザッハ様の秘書をしつつ、事務の担当部長をしているようであった。

 しかし、元使い魔だって? あのステータスで? 流石にどんだけーと思ってしまう。



「ふむ。一応ここにいる者の自己紹介は終わったようだな。……レブルよ、今はいないが、他に開発部門長、軍事部門長、営業部門長などがいる。どの部門も多忙故中々顔を出すことはないが、一応知っておいてくれ」


「教えて頂きありがとうございます。承知いたしました」


「開発部門長に関してはこの城内にいるから、機会があれば会えると思うわよ」


「そうじゃの。まあ、話す余裕があるかはその時の状況にもよるがの。カッカッカ」



 やはり、開発というからには、納期などに追われているのかもしれない。

 営業は外回りが大変そうだし、軍事部門は魔王軍の根幹にかかわる部門なのだから、忙しいのも頷ける。



(もしかしたら、ククリちゃんのお父さんが軍事部門長だったりするのかな?)



 龍人族の戦闘力から考えれば、十分にあり得る話だ。



「さて、それではそろそろ本日の議題に入りたいと思う」



 っ! いよいよ、会議が始まるのか。

 できる限りの準備はしてきたつもりだが、やはりどうしても緊張してしまう。



「まあ議題と言っても、いつも通りの定期報告なのだが、今日はレブルもいることだし、説明もかねて詳しく頼むぞ」



 僕以外の4人が静かに頷く。

 そして、初めての幹部会議が開始された。



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