第23話 天使産と悪魔産

「あー? この穴なんだぁ?」


 魔法少女プライマライトカラーズの二人。レッドソードこと赤井ヒイロと、ブルーアローこと青海ソウが見つけたのは、学校の校庭に開けられた巨大な穴だった。

 覗き込むと吸い込まれそうな闇がのぞいていて、どことなく不安になる大穴である。

 深さは相当なもので、鈴を投げ込んでみたが地面に落ちた音は聞こえなかった。


「これ、誰が開けたのかな?」


 ヒイロの質問にソウが答える。


「わからない。が、この惨状を見る限り、すでに戦闘済みなんじゃないかな」


 そう言って二人は周りを見渡す。


「ねぇ。これってさぁ?」


 ヒイロの次の言葉を待たずに、ソウは頷いた。


「ああ。そう言うことだろうね」


 ヒイロは「あーあ」と落胆しながら、石を蹴り、大穴の中へ蹴り落とした。


「魔法少女って私たち以外にもいるのかよー。ちくしょー。ヒスイのやつが引きこもっちゃったのを説得しようとして、ちょっと遅れたとはいえ、横取りされるとは思ってなかったなぁ。」


 魔法少女プライマライトカラーズのもう一人。グリーンワンドこと緑川ヒスイは、自分が何度も死んでいたという事実を受け止めきれずに、部屋へ引き篭もってしまった。

 ここ連日、彼女たちは怪人を見つけ次第、速攻で現場へ急行し、討ち滅ぼしていた。

 しかし今日はヒスイを部屋から出そうと試みて、出発が大幅に遅れてしまったのだ。


 ヒイロは「これからめんどいことになりそうだなぁ」と呟いた。


「めんどくさい? その心配はないんじゃないのかな。魔法少女が他にもいるなら、お互いに見つけた怪人を狩りあって、仕事を分担することができるんじゃないか?」


 ヒイロはソウの言葉を間髪入れずに否定する。


「いやいや。そんなことしてたら強くなれないじゃん。強くなれなかったら、どんだけ魔法少女が集まっても、魔人に一人残らずやられるだけだよ?」


 ヒイロの言葉は正しい。ソウは「なるほど」と頷いた。


「私たちが怪人を狩っている目的は、経験を積んで、魔人に太刀打ちできる実力を得るためだったね。フム、それは確かに。魔法少女の間で怪人狩り競争が起こるかもしれないね」


 ヒイロは「めんどくせ」と落胆しながらため息をついた。


「私たちの他にどのくらいの魔法少女がいると思う?」


 ヒイロが地面を蹴りながら質問する。ソウは顎に手を当てながら答えた。


「わからない。が、てんちゃんに聞いてみれば解決することなんじゃないのか?」

「ああ、そっか」


 ヒイロは校庭の真ん中で「てんちゃーん!」と空に向けて叫んだ。


「……あれ。てんちゃ〜ん?」

「お取り込み中かな?」


 ヒイロは「なんだよ」と愚痴を垂れる。


「前から思ってたんだけどさ。てんちゃんの仕事ってなんなの? 天使って天界でダラダラしてるだけの存在だと思ってたんだけど」


 ヒイロの愚痴に対し、ソウが微笑みながら答えた。


「主な仕事は死亡した人間の素性を調べたりすることだと言っていたよ? 地獄の閻魔様と連携をとって、天国行きか地獄行きかの判決材料を集めることだって」


 ヒイロは「ふーん」と言いながらも、どこか納得していない様子だった。


「私が天界で見た天使は遊んでたけどなぁ」

「てんちゃんは特別なんだろう。天使の中でも位が高いとか」


 その時、二人の頭にテレパシーが届く。


「今ボクのこと呼んだかな!?」

「あ、てんちゃん」


 てんちゃんは走っているのか、息を荒げながらテレパシーを繋いできた。


「今、忙しい?」

「忙しいさ! 忙しいとも! 神様の奴が神隠しした人間を不自然なく元に戻しておけとか言うんだ! 人間の記憶を改竄するのが、どれほどの頭脳労働なのか理解していないんだよ! まずその人間の今日の行動、あった人間、一人でいた時間を調べて、それから……」


 ヒイロはてんちゃんの勝ちに付き合うつもりはなかった。


「あー。うん。大変そうだね」

「そうなんだよ! まあでも、今は全速力で移動しているだけだから話くらいは聞けるさ。どうした? 何か質問かい?」


 ヒイロは率直に尋ねる。


「あのさ。私たちの他に魔法少女ってどれくらいいるの?」

「え? いないけど? ボクは君たちの他に魔法少女を作っていないよ?」

「は?」

「は? って言われても」


 てんちゃんはそこまで言って何かを思い出したのか、手を打ちながら言った。


「ああ、なるほど。君たちもしかして、悪魔産の魔法少女に出会ったんだね?」

「悪魔産?」

「そう。君たちは天使のボクが作ったから天使産。もう一つ、悪魔が産み出した悪魔産の魔法少女がいるんだよ」


 ヒイロは(悪魔産の方がカッコいいな)と思いながらも、口には出さなかった。


「そうなんだ」

「うん。そうだよ。それで? 要件はそれだけ?」


 てんちゃんがあまりにも忙しそうなので、ヒイロは少し遠慮をした。


「うん。それだけ」

「そっか。じゃあお疲れ」


 そう言うと、てんちゃんはテレパシーを切った。


「悪魔産だってさ」


 ヒイロがソウの顔を見ると、ソウは笑いながら言った。


「悪魔産か。それはなんだか強そうだね」


 その言葉に対し、ヒイロは人差し指を立てながら反論する。


「何言ってんのさ。悪魔ってことは悪なんでしょ? じゃあ、正義の私たちの方が強いに決まってんじゃん」


 ●


 ペーパーホワイトが作ったカレーを食べながら、ひとまずの休憩を入れる。

 ミミズを見て気絶したシザースグレーが目覚めたのは、二人がカレーを食べ終わった頃だった。


「え? もう食べちゃったの?」


 シザースグレーが聞くと、ロックブラックは食器を洗いながら「だって全然起きないんだもん」と言った。


「起こしてよ! 私も二人と一緒に食べたかった!」

「起こしたよ! どんだけ揺さぶっても起きなかったの!」


 シザースグレーは「もう!」と言いながら食器を取り出して、カレーをよそおうとした。


「え。ていうか、カレーになってる。今日は肉じゃがのつもりだったのに」


 ペーパーホワイトがカレーを頬張りながら言った。


「私はカレーの気分だったのです」

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