病的愛情魔法少女

マックラマン

第0話 魔法少女モノクローム!

 そよ風が優しく子どもたちの頬を撫で、砂場に子どもたちの王国が建てられるような平和な公園に、今この瞬間、波乱が巻き起こった。


「ゲゲゲー!」

 それは人々の間で怪人と呼ばれている、いわば人間の敵である。


「ゲゲ?」

 その怪人は長い舌で背中を掻きながら首をかしげた。


「怪人だ! 逃げろ!」

 公園で遊んでいた子供たちは一目散に公園の出口に向かって走り出す。子供たちを見守っていた母親たちも自分の子どもを抱きかかえて走り出した。

 しかし、少女が一人取り残されていた。膝から血を流して泣いている。怪人はその少女目掛けて歩き出した。


「ゲゲ。ゲゲ」

 怪人が長い舌を丸めながら少女に話しかける。少女は怪人の顔を見ると、泣くことを忘れて絶句した。

 ぎょろぎょろと動く大きな目玉。少女くらいなら一口で飲み込んでしまいそうな大きな口。その口から伸びるネバネバの長い舌。

 膝の痛みなど忘れ、少女は立ち上がろうとした。しかし、膝に力を入れた瞬間に痛みが蘇り、顔を歪めて座り込む。


「ゲゲ」

 怪人の舌が少女に伸びる。少女はできる限りの声量で叫んだ。


「助けてぇー!」

 その時、少女の身体が抱きかかえられる。少女を抱きかかえたのは、人型に切られたペラペラの紙人形だった。その人型の紙人形は少女を抱えて公園の外に走った。


「大丈夫?」

 少女に話しかけたのは、灰色のドレスを着た灰髪の女子中学生だった。


「魔法少女……?」

 少女が呟くと、その女子中学生は柔らかい笑顔を浮かべた。


「そうだよ。私は魔法少女シザースグレー。あなたを助けに来ました」



 ●



 シザースグレーを含め魔法少女は三人いる。三人は怪人の正面に立つ。彼女たちの背景には、平和な住宅街が並んでいた。


「怪人ゲゲゲロ! あなたの好きにはさせない!」

 シザースグレーが叫ぶと、右隣にいた魔法少女が呆れた顔をした。


「怪人ゲゲゲロって……」

 右隣に立っていた魔法少女が、シザースグレーのネーミングセンスに呆れると、シザースグレーは怪人から目を逸らさずに自信なさげな声で言った。

「え、ダメだったかな……」

 右隣の魔法少女も怪人から目を逸らさず、「フフ」と苦笑いをした。

「いや、まあ、いいけどね、うん」


 怪人ゲゲゲロは、自分の目の前に仁王立ちしている三人の魔法少女を「ゲゲ?」と首を傾げながら見つめていた。

 魔法少女たちはそんな怪人ゲゲゲロの様子には一切反応を見せず、魔法少女のお決まり自己紹介を始めた。


「「「私達!」」」

 ダンと地面を踏みしめて俯く。

 最初に顔を上げて自己紹介を始めたのは、シザースグレーのネーミングセンスに呆れていた黒い魔法少女だった。


「硬くて破る不染の黒! ロックブラック!」

 ロックブラックと名乗った少女は、自らの名前を叫ぶとともに、石に変化した両手を強調するような決めポーズをとった。

 怪人ゲゲゲロはポカンと口を開け、舌を垂らしている。


 次に動いたのは、シザースグレーの左にいる魔法少女。先ほどからただ真剣な顔つきで怪人を見つめていた魔法少女だ。

「薄くて包む寛容な白。ペーパーホワイト。」

 ペーパーホワイトと名乗った彼女は、手に紙で作られた造花を持ち、舞うようにゆらりと回った。


 そして、最後はセンターのシザースグレーである。

「鋭利で切れる選択の灰色! シザースグレー!」

 

「三人合わせて!」

 魔法少女たちは身体を寄せ合い、三人での合体決めポーズをとった。

「魔法少女モノクローム!」


 ババーン! という効果音が聞こえてきそうだが、怪人がポカンと口を開けたまま突っ立っているだけなので、その公園には柔らかなそよ風が流れるだけだった。

 しかし、魔法少女はその悲しい静けさに慣れているのか、何も気にせずに戦闘を開始した。

「行くぞ! ゲゲゲロ!」


 ロックブラックとシザースグレーの二人が、交差しながら怪人との距離を詰めていく。怪人は魔法定者たちの切り替えの早さに対応できず「ゲゲゲ!?」と狼狽えた。

 怪人の視界が真っ暗に覆われる。怪人が目に張り付いた何かをむしり取ると、それは小さな紙吹雪だった。

 怪人が解放された視界で一番に捉えたのは、紙吹雪を飛ばしているペーパーホワイトだった。

 紙吹雪は追い討ちをかけるように次々と怪人の顔に降り注いでくる。その紙吹雪に抗おうとした時、怪人の腹部に重い打撃が撃ち込まれた。

 それはいつのまにか怪人の懐に入り込んでいたロックブラックによる黒岩の一撃だった。怪人はその一撃よ衝撃を抑えきれずに、後方へ吹き飛んだ。

 怪人が吹き飛んだ先。怪人の後方にはシザースグレーが待機していた。

 シザースグレーは鋭いハサミを構えていた。ちょうど、怪人の真後ろ。

 怪人が吹き飛び、シザースグレーのハサミが怪人の背中ね迫る。

 そして、ずぶりと背中からお腹へかけて、異物が侵入し、そして貫通した。


「……ゲ」

 怪人が自分の胴体を貫通しているハサミに目を向ける。

 それはシザースグレーの武器である巨大なハサミの片刃である。怪人がその刃に触れようとしたとき、頭の上からハサミのもう片刃が襲い掛かり、怪人の上半身を真っ二つに両断した。


「……」

 怪人は声を出す間もなく絶命した。両断された上半身から噴水のように体液が溢れ出る。

 怪人の身体からハサミを抜き取ったシザースグレーは言った。


「これにて一件落着!」

 キラッ! とウインクをしてみせたシザースグレー。彼女たち、魔法少女モノクロームの三人は今日も、怪人の脅威から人類を守ってみせたのだった。

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