第27話 裏理科部のお仕事

 夏休みも明日で始まるというある日の朝礼で、生徒会からのお知らせが校内放送で流れた。


『図書室の噂について、僕たちは理科部有志に協力をしてもらい、真相を解明しました』


  はい? 理科部有志が真相解明?

  なんの話?

  

 生徒会長の言葉に、少し席が離れたところに座っているリサちゃんが振り向いた。わたしは、「全然知らない」と口をぱくぱくさせて、首をふる。


『2年B組の芦屋あしやくんを中心に理科部有志が検討してくれたので、その報告をします』


 へ? 芦屋センパイたちが調べた?

 何を?


 教室がざわざわする。理科部有志という言葉で、みんなの視線がわたしに集まっているような気がして、わたしはうつむいてしまった。


 だって、芦屋センパイ達が調べてただなんて、全然知らなかったもの!

 

『まず、一つ目、図書室の右から三つ目の席の件ですが、あの場所は、書棚の並び方の影響で、空調から流れる冷たい空気が自然と集まることがわかりました。実際に、理科部が煙を使って実験をしたところ、問題の座席の下あたりに煙がたまったそうです。そのため、長時間座っていると、体が冷える、つまり、おなかが痛くなるのではないかと推論します。そこで、夏休みに図書委員が理科部のアドバイスのもと、書棚のレイアウトを変えて、冷気だまりができないようにすることになりました』


「そうそう! たしかにあそこらへん、足元がひやっとしてた」と誰かが言う。「さすが理科部! 科学的!」という声があがる。「なずなちゃんって理科部だよね。すごいね」と前の席にすわっている女の子が振り返って言う。わたしは「はは……」とあいまいに返事をするしかできない。

 

『二つ目、その席の机の脚の長さが、左右で約5mmほど違っていたそうです。机の脚の長さが違うので、机自体の安定が悪いことが判明しました』


「それって、うちの机といっしょだわ」と誰かが自分の机を揺らして、カタカタと音をさせる。その子のまわりのみんながくすくすと笑う。「理科部の人って、すごく正確なんだね。わたしだったら、5mmの違いもわからないわ」とさっきの子が言う。「……、同じ理科部でも芦屋センパイはすごいんだよ。わたしなんて全然ダメ」と小さな声で答える。


『……図書準備室には、今使われていない水道管があり、その周辺からネズミのフンらしきものがいくつも検出されました。ネズミは約2cmほどの隙間があれば入ってこれます。さらに、最近、部室や焼却炉付近で狸やハクビシンといった小動物の目撃もあります。図書室に落ちていた獣の毛はおそらくそれら小動物のものであると考えられます。侵入経路などについての特定、駆除などについては、用務員さんと理科部で夏休みの間に対応することが決まりました。…………』


「なーんだ。そうだったのか」

「科学的に言われたら納得するわー」

「物の怪とかユウレイとかいるはずないじゃん」

「ネズミかぁ。このへん、山も海もある田舎だからなぁ」



『以上で、生徒会からの連絡は終わりです。次は、副校長先生からの夏休みの過ごし方についてです。副校長先生、よろしくお願いします』


 生徒会による図書室の噂の解明で教室の中は蜂の巣をつついたような騒ぎになった。当然、長くておやじギャクばかりの副校長先生の話を聞く生徒はほとんどいなくて、先生の怒鳴り声と一緒に朝礼は終わった……。

 





「今日の校内放送の件だが……」


理科室にすずしろを引き取りに行くと柳井センパイが話し出した。


「あれは、裏理科部の仕事の一つだ。物の怪がからんだ怪事件が起きた場合、生徒に安心・納得してもらうために、裏理科部が科学的に実験をする。今回は、ほとんどの部分が図書委員の安倍が言いふらしたデマだったし、実害はさほど大きくなかったからそのままにしておいてもいいと思ったのだが……、芦屋が安倍に借りを作っておきたいというから報告書を生徒会に提出した」

「そうだったんですか。ところで、裏理科部というのは?」


 裏理科部という言葉は、すずしろのお世話係になるときに聞いたような気がする。


「物の怪がからんだ怪事件を解決する一部の理科部員だ。芹沢、お前もすずしろのお世話係だから、裏理科部にはいる権利がある。しかし、裏理科部は秘密にしなくてはいけないことも多いし、かなりの時間を裏理科部の活動に拘束される。どうする?」


 実験したりするのは興味があるけど、ちょっと面倒だな。

 わたしにはやることがたくさんあるんだもの。


「入らなきゃいけないものですか?」

「いや、すずしろのお世話係だから、別に強要はしない」

「じゃあ、やめときます」

「そうか。……、お世話係は怪事件に巻き込まれることが多いから、それはそれで大変だと思うが、頑張ってくれ。じゃ、よい夏休みを」


 柳井センパイはそう言うと、理科準備室に消えた。わたしは理科準備室にむかってお辞儀をすると、すずしろがはいっているゲージをもって、リサちゃんの待つ教室へとむかった。

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