第31話 ホンモノとニセモノ



「お帰りなさいませ、アラン様!」


 魔王城の最上階。


 その広間では、アランが帰ってきたと聞いて、魔王直属の配下たちが集結していた。


 ヘビ男やカエル女などの幹部たちは勿論、そのほかの魔族たちまで。数にすれば、五十は超えているかもしれない。


 そして、その部屋の中央で、配下達に頭を下げられたアランは、玉座に座る魔王を見つめていた。


 一ヶ月ぶりの再会。


 いや、今、にとっては、初めて目にする魔王の姿だ。



(絶対、ばれないようにしないと)


 アランに成りすましながら、俺は、じっと魔王をみつめた。


 魔界に向かう途中、俺はアランと計画を立てた。その計画を成功させるためにも、絶対にバレるわけはいけない。


「お父様に、お願いがあります」


 アランの声で、アランになりながら、俺は魔王に話しかけた。すると魔王は


「皆の前では、魔王様と呼べと言ったはずだ」


「……へ?」


 えぇぇぇ!?

 ちょっと待って、そんな決まりあったの!?

 

 アラン、お前いつも「お父様」って言ってたじゃん!? 呼び方指定されてるんだったら、前もって言っとけよ!!


 いきなり、とんでもない指摘をされて、内心震えあがった。


 やばい、いきなりピンチだ。

 だけど、魔王は、アランがニセモノとは気づかなかったらしい。


 そのあと『願いはなんだ』と、さっきと変わらない声でいわれて、俺は、内心ほっとしつつ、魔王に、二言目を発する。


「人質にしている人間の女の子を、人間界に帰してください」


「あぁ、シャルロッテとカールを壊し、お前が魔界に戻ってくるならな」


 息子の言葉に、ハッキリとそう返した魔王は、平然とそう言った。


 そして、その言葉に、俺は手にしていた二体の人形を見つめた。


 俺が呪符を貼ったせいで、動かなくなったシャルロッテさんとカールさん。


 このままになんて、絶対にさせない!


 そう決心した俺は、魔王を見つめ、また口をひらく。


「わかりました。全て、言う通りにします」










「えぇ! じゃぁ今、魔王の所にいるのは、威世くんなの!?」


 その後、助けられた私は、ペガサスに乗ったまま、空の上で今の状況を説明されていた。


 威世くん、うんん、の話によれば、ここに来るまでに二人で計画を立てたらしい。


 威世君がアラン君に化けて、魔王や他の魔族をひきつけている間に、アラン君が、私を探し出して救出するという計画。


「ハヤトが、自分がおとりになると言いだしたんだ。魔界のことも、お城のことも何も知らない自分が闇雲に探すよりも、僕が探したほうが早いだろうからって……だから、僕はハヤトに化けては、ハヤトは僕に化けて、魔界に乗り込んできたってわけ」


 威世君の姿で、アラン君がニッコリ笑う。


 見た目は威世くんなのに、いつもと全く雰囲気が違って、ちょっと戸惑った。


「それより、よく思い出したね。僕が消しちゃったのに!」


「え?」


 すると、急に威世君の顔が近づいて、私は顔を赤くした。


 び、びっくりした。

 近い。なんか、すごく近い。


 あ、そっか、前髪あげちゃったから、顔がハッキリ見えちゃうんだ。


「でも、おかしいなー。なんで思い出したのかな?」


「あ、それは、私にもよく分からなくて……なんでだろう?」


「うーん……もしかして、よっぽどだったとか?」


「え?」


「たまに、あるんだよね。魔法がに負けちゃうこと」


 気持ち──そう言われて、なんとなく、そうかもしれないって思った。


 ガイコツに追いかけられたのは、すごく怖かったけど、威世君と一緒にいたあの記憶は、忘れたくないと思ったから。


「ゴメンね」


「え?」


「勝手に記憶を消して。さっきハヤトにも怒られたんだ。本当にごめん」


「あ、うんん! 普通ガイコツに追いかけられたら、忘れたいって思うよ! アラン君は悪くないよ!」


「あはは、アヤメって優しいね」


「あ、あやめ……っ」


 急に、呼び捨てにされて、ちょっとびっくりした。


 そういえば、アラン君って魔界の王子様っていってたけど、王子様って、みんなこんな感じなのかな?


 でも、威世君の顔で、いきなり呼び捨てで呼ぶのは、やめて欲しい……っ


「あれ? 顔赤いけど、大丈夫?」


「だ、大丈夫! それより、早く威世君を助けに行こう!」


「うーん、そうなんだけど、まだ、はがせてないみたいなんだよね?」


「はがす?」


「うん」


 すると、アラン君は真面目な顔をして、魔導書を開いた。


 威世君の姿で、魔導書に手をかざしたアラン君は、ページの上に現れた魔法陣をみつめて、目を細める。


「シャルロッテとカールの波動が一切流れてこない。ということは、まだ呪符ははがせていないってこと。乗り込むなら、呪符をはがしてからだよ」


「そうなんだ。それって、簡単にはがせるの?」


「簡単ではないかな。相手は魔王お父様だし。でも、大丈夫! 例え、うまくいかなかったとしても、ハヤトだけは絶対に助け出すよ」


 そういって、アラン君が、またにっこり笑った。

 きっと私に心配かけないように笑ってくれたんだと思った。


「いたぞ! 人間たちだ!!」


 だけど、そこにまた魔族たちが現れた。

 それも、一人じゃない。30人くらい!!


「ありゃ、見つかっちゃったね?」


「ど、どうするの! あんなにたくさん!?」


「大丈夫だよ。あれくらい、僕一人で十分だよ」


 そういった、アランくんは、あまり焦ってないみたいだった。むしろ、すごく余裕そう。


「アヤメは振り落とされないように、僕にしっかり捕まっててね?」


「え?」


 瞬間、ペガサスが大きく翼を羽ばたかせて、空を駆け出した。


 私は、とっさにアラン君につかまったけど、もう色んな意味で、心臓がもたないと思った。


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