第7話

 もし神と天使全員が戦ったなら?という話が昔話題に挙がったことがあるようで。


 様々な議論が交わされることになったが、結論としては天使が圧勝というものが殆どだった。


 理由は神が本来の力を殆ど失っていたからではあるが、その神にさえ苦戦した地獄の住民が天使全員を相手取れるかという話である。


 天国と違って戦闘要員は自らその道を選んだ一部の人間だけがなるものなのだ。


 1%もいたら多い方だろう。


『では、天使たちよ。粛清を始めよう。これは聖戦だ!』


 という言葉と共に天使たちの攻撃が始まった。


 天使たちは手に持っている槍からビームを発射して建物を攻撃し、その槍でこちらの機械による強制送還から身を守っている。


 常設している防衛設備程度ではこの数に対処することが出来ないようだ。


『皆さんは緊急避難を始めてください』


 そして天使が現れたそばにあった建物に風穴が空いた頃、避難指示が始まった。


 避難場所は地下のシェルター。建物と違い見栄えを重視する必要が無い分防御力が高いらしい。


「さっさと避難しようか。いつ天使がこっちに来るか怪しい」


「そうね」


 俺達は地下のシェルターに避難した。


「なんかシェルターって感じがしないわね」


 シェルターと聞いていたが、どちらかというとホテルのような雰囲気だった。


 ちゃんとマンションの部屋に対応した個室が用意されているのだ。


「一緒に外の様子でも見る?」


「そうするわ」


 俺達は部屋に置いてあったモニターで外の様子を見ていることにした。


「凄まじいわね」


 俺達が最初にこの世界に来た時の攻撃とは比にならない被害だった。


 道路は完全に崩壊し、前回無事だった建物はところどころ破壊され、完全に廃墟と化していた。


 地獄側は何をしているんだ、と思うかもしれないが、天界対策の方々が住民の避難を最優先させた為らしい。


 建物を犠牲に時間を稼いでいるとのこと。


 今の科学力の場合、建物を同じ数作り直すのはかなり容易らしく、防衛の際は割とぞんざいに扱われるのだ。


 前回もあっさり道が壊されていたのはそれが原因だったりする。


 というわけで家が破壊されてしまう分には一切問題は無い。科学力様様だということだ。


 だから地獄に長くいるであろう住人の方々は天使の猛攻を雨が降った程度の出来事にしか感じておらず、リラックスしていた。


 実際天使の被害を受けたという事例は建物外でしか発生していないしな。


 それでも、何やら胸騒ぎがするのだ。


「明らかに攻撃力が上がっているわよね」


「うん。前は槍からビームを出した程度ではビルが崩壊するなんてことは無かった」


 今まで地獄の住民の被害が皆無だったのは、天使が今まで本気で攻撃してこなかっただけではないか。そう感じるのだ。


 ただ、それでも見守る以外の選択肢は存在していないのだが。


『今ここに我々が駆け付けた。これ以上天使に進攻はさせない』


 そんな不安を抱える中、ついに本隊が到着した。


「これなら天使にも勝てるのではないかしら」


 天使が神より強いことは分かっているが、それでもこれを信じるほかないのだ。


 そんな期待も甘く部隊は崩壊、なんてことは無く。普通に天使の勢力を減らすことに成功していた。


 多少の犠牲は存在しているが、戦闘に使用される機材は基本AIが自動で行うか、本部から遠隔で操作するかの2択のため、実質的な損害は0だ。


 豊富な資源は防衛の際に真価を発揮するもので、どれだけ天使が倒しても継続的に湧いてくる戦力に天使は完全に押される一方であった。


 もしかしたら神がこちらに攻め込んできた場合は一切労することなくあっさりと倒すことが出来たのではないか。そう思える戦闘だった。


 そして半日が経った頃。人類が生まれた当初から増え続け、天文学的な数となっていた天使は順調に数を減らし、現在は100人くらいしか残っていなかった。


『流石に天使としての戦闘経験が浅い者では限界があったようだ。これからは神が人を作り替えるのではなく、最初から天使として創造した最上位天使が蹂躙を始めることにしよう』


「最上位天使?天使の中にも格があったのね」


「正直驚きだけど、神が関係しているって考えると不自然ではないのかもね」


 現世でも神父は偉いとか、坊さんの中でも上下関係は存在するなど、実際に教義上は平等に扱っていたとしても明らかに格差のある宗教は多かった。


 とは言いつつも、この天使はそれとは少し違う気もするが。


 どちらかと言えば神と天使の間に位置する仲介者のような雰囲気を感じる。


 しかし怖がっている暇など存在しないので、早々に攻撃を仕掛けていた。


『そんなものが効くわけがないだろう』


 あっさりと攻撃を跳ね返していた。


『では反撃だ』


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