魔法少女に恋をして

星来 香文子

第1話 気になるあの子


「キャーッ! 誰か助けてー!!」


 それは、高校の入学式を明日に控えた夜のこと。

 コンビニで菓子パンを買い、家に向かって歩いていると、女の人の悲鳴と、なんだか物騒な声が聞こえて来た。


「はっはっは! 逃げられると思うなよ、人間! お前はこれから我が怪人族の奴隷として働くのだ!!」



 声が聞こえた方を見ると、人間ではない何か……本当に、あの、子供の頃によく見た特撮ヒーローに出てくる敵の怪人みたいなやつにOL風のお姉さんが捕まっていた。


「いやー!! 誰か助けてー!!」


 怪人族? 奴隷?

 こんな時間に何言ってんだ?

 こんなところで、何かの撮影か?


 ありえない光景に、そう思ってキョロキョロと周りを見渡して見たけど、撮影用のカメラはどこにも見当たらない。


「誰かぁぁぁ!!」


 とりあえず、俺が助けるべきなんだろうか?

 いや、でも警察に連絡した方がいいか?

 なんかヤバイ人そうだし。


「はっはっは! 抵抗しても無駄だ! 誰もお前を助けになんて——」

「そこまでよっ!!」


 ポケットからスマホを出し、110番を押そうとしたその時、なんとも可愛らしい声が上から聞こえて来て、見上げると、人が……

 フリフリのピンクのスカートに、ハートの魔法のステッキみたいなやつを持った女の子が三日月を背景に空に浮いていた。



「観念なさい! この悪党どもっ!」


 ピンクの髪にピンクの服だ。

 髪の色も違う。

 服もこの2年間ずっと見て来た同じ学校の制服とは違う。

 黒い髪でも、紺色のブレザーでもない。



 だけど、どう見ても……この可愛らしい顔、そして、小柄で細いこの体型…………

 どう考えても……



「なに!? 魔法少女め!! また貴様か!!」

「私は何度だって闘うわ! そこに悪がある限りっ!」



 あの子じゃないか!!!!!





 * * *




 中学2年の時、隣のクラスの女子に恋をした。

 完全に片思い。

 そして、一目惚れだった。


 2年生になってすぐ、隣のクラスに転校生が来て、それがものすごい美人で可愛いっていうから、見に行こうって話になった。

 そんなに可愛いならぜひこの目で拝んで見たいと、友達数名に連れられて隣のクラスの様子を廊下からのぞいた時だ。

 色白の肌に、黒髪でサラサラの肩の上すれすれくらいのおかっぱ頭。

 大きな声で楽しそうに笑っている別の女子の少し後ろで、少し困ったような笑顔で優しく笑う小柄の女の子。


「めちゃくちゃ可愛い……」


 思わずぽろっと出てしまった俺の心の声に、一緒に来ていた友達はニヤニヤと笑った。


「だから言っただろ? めちゃくちゃ可愛いよなぁ……あの転校生」

「すげーぇ……でもあんなに髪の色明るくて大丈夫なのか? うちの学校校則厳しいぞ?」

「ハーフなんだってさ。あの髪色も地毛!」

「あぁ、だからなんか他の女子と違うのか! 背も他の女子より高いし、ハーフか、かっこいいなぁ」


「え……? ハーフ? 背も高い?」


 なんだか話が噛み合わないなぁと思ったら、どうやら友達が言っている転校生は、俺が一目惚れしたあの子じゃなくて、大きな声で楽しそうに笑っている別の女子の方だった。

 改めてその美人で可愛いと噂の転校生の方を見たが、どう考えても俺にはあの子の方が可愛い。

 とにかくあの子の方が可愛いとしか思えなかった。


 それからというもの、たまに廊下ですれ違ったりすると、ついついあの子を目で追ってしまって、ついに友達にそのことがバレてしまう。

 俺にはあの子の姿が輝いて見えるのだけど、他の男子から見たらあんな大人しくて地味な女のどこがいいのかわからないとまで言われる始末。


 なぜわからないんだと、一度ムキになったら、そこまで本気ならと友達は名前を調べて来てくれた。

 あの子の名前は守夜もりや美月みづき


 結局、告白する勇気も、そもそも、話しかける勇気すら持てないまま、俺は中学を卒業した。

 きっと、頭のよさそうなあの子のことだから、俺とは違う進学校にでも通うのだろう。

 一生、会うこともない。


 そうして、この初めての恋は片思いのまま幕を閉じる。

 そう思っていた。


 なのに……まさか、その守夜美月が————



 今俺の目の前にいる、この魔法少女だなんて!!

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