第4話 「人気者?」

ーー森林中層ーー


レベル上げから三時間ほど経過し、目の前にはあと、犬型モンスターが二匹しかいない。一匹が飛びかかって来る。


《スピードドッグ》警戒度:黄

「ガウッ……!」


もう何度も倒し慣れたモンスターだが気を抜かずに確実に仕留める。右脚で脇腹に蹴りを入れ、そのまま吹き飛んだ。

まだもう一匹いるので走って蹴り上げ、回転し左足でトドメの蹴りを入れて動かなくなる。倒し損ねた一匹が優生に襲いかかろうとしている。


「えいっ!」


優生の投げつけた石が残りの体力を削り、犬型モンスターを倒し終えた。優生はだいぶ疲れたようでぐったりと地面に倒れている。近くに行って頭を撫でる。


「お疲れ! がんばったね」


「こんなに動き回ったの久しぶり……」


普段家に籠る弟には相当ハードな運動だったのだろう


「疲れて嫌だった?」


「ううん……僕、お姉ちゃんと一緒に外で遊ぶのが夢だったから嬉しい」


「よしよし! お姉ちゃんもゆうくんと遊べて楽しいよ! 」


「そういえばお姉ちゃん今何レベル? 僕は十一になったよ」


優生と遊ぶことに夢中になりすぎて、そんなところ見ていなかったな。ええとレベルは……


「十六だよ、お姉ちゃんの勝ちだね! 」


「うわ負けた! お姉ちゃんはやっぱり何をしても凄いね! 」


「おだててもなんも出ないよ?……うふふでもありがと」


それから少し休憩をしてから、森の中を後にしたのだった。


帰り道を歩いてる最中、少し戦闘スタイルについて考えていた。私の戦闘スタイルはスピード重視で、武器を持つと遅くなるから素手で蹴りをメインに立ち回っている。


素手のプレイヤーは珍しいみたいで、香澄には最初は否定された。しかし現実でも運動神経の良い私は香澄を驚かせるプレイングにより、特例的に素手を認められている。ここまでして素手にこだわるのには理由がある、実は剣やナイフを使ってみたけど、当然だが普段物を相手にぶつけるということをしていないので、攻撃が全く当たらないのだ。


さらに現実の感覚を最大限に活かすなら、このプレイスタイルが最善策といえた。

ちなみに弟の優生は現実とほぼ同じく腕力が無いのでさっきみたいに石を投げたり、本を投げたりして戦っている。可愛い。しかしあれでは敵が強くなるにつれて通用しなくなりそうなので、何か弟でも持てる武器があればいいのだが……まぁしばらく可愛いからあのままでいいや


しばらく歩きやっと街が見えてきた。最初の街にしては大きな城が存在感を放っている。

あの城は「龍隠籠城」という城で、戦争が起きた時に避難できて、言葉通り籠城できる。


普段は一般市民の立ち入りは禁じられている

城下町もとても豪華で、敵兵などに囮の城であることを悟られないようにしているらしい

城下町の外側にはプレイヤー向けの酒屋や道具屋なんかがあり、住処にしている宿家「大遊荘」もこのエリアの真ん中にある。今回のクエストは街の道具屋で受けたのでそこを目指す。


ーー城外・街ーー


「カーラさんこんにちは」


「おっ! リンじゃないか」


この人は道具屋の店主の女性でカーラさん

とてもフレンドリーなキャラクターで普段は回復薬なんかを売っていて、素材の買取もしてくれる。しかし今回は別件である


「ところで、後ろにいる可愛い坊やは誰だい?」


カーラさんが気になっていたのは私の後ろに隠れている優生のことだ。

外に出ない優生は私以外の人とほとんど会わないので、緊張しているのだろう


「この子は弟のゆうくんです。ほら怖くないから挨拶して」


「こ……こんにちは」


ビクビクしながらも頑張って挨拶をするゆうくん。服を掴む力が強まる


「私はここの店主のカーラだよ、よろしくね」


こくりと頷き、また私の後ろに隠れてしまう


「あっ、そうだカーラさん例のもの持ってきたよ」


「あっ、本当かい? いつも助かるねぇ」


私はプロパティからさっき集めた赤キノコと木材を取り出す


「あっ、ゆうくんのも出して」


「あ、うん」


弟の分も合わせて赤キノコ三二五個と木材五二五個をカーラに差し出す


「こんなにいっぱい! 助かるよ、ほらこれはお礼だよ」


というのもこのゲーム、NPCとの会話を進めると、どんどん親密度が上がっていってクエストを受けることができるようになるのだ

今回のクエストの内容は赤キノコ二個と木材三個を渡すと謝礼金を二百キン貰えるのだ(キンはこのゲームの通貨)

つまり今回集めてきた素材でこのクエストを一七五回分もクリアしたことになるので謝礼金は……

《謝礼金を105000もらった》

《親交度が18上がった》

《より難易度の高いクエストを受注できるようになった》


「え、ちょっとまって」


貰った謝礼金が多すぎる、本来なら35000しか貰えないはずだが


「いつもより多めに渡しておくよ」


「も、もらいすぎですよ! こんなに」


「いいのよ、なんだか今日はサービスしたい気分なのさ」


そう言うとカーラさんはいつもの仕事に戻って行った

まさか、クエストの謝礼金が三倍にもなるとは、私が慣れてないだけで、これが普通なのかもしれない。

ほらどっかの市場とかも、色々とサービスを付けて、お客さんを増やすみたいなことをするらしいし……と思っていたがその後も


〇〇〇〇〇〇


「嬢ちゃんたち、これやるよ!」


〇〇〇〇〇〇


「あら可愛いぼうやね、サービスでこれも食べて良いわよ」


〇〇〇〇〇〇


「そっちの坊主にこれやるよ」


〇〇〇〇〇〇


「これもいいのよ!」



と……さっきから矢継ぎ早に何かを貰っている。しかも途中から弟ばかり貰っている気がする!

いや確かにゆうくんは世界一可愛いけども!ゆうくんの可愛さはゲームでも通じるということか……


「とりあえずお金もあるし、ゆうくんの装備を整えようか」


「お姉ちゃん……それが」


声に振り返ると、弟の見た目が大きく変わっていた。モコモコの毛皮のマントと、黄色い柄の高級なナイフ、履いているブーツも綺麗な白の羽毛が使われている


「ど……どうしたのこれ?」


「さっきから色んな人に貰っちゃって」


「だ……だめだよゆうくん、よく知らない人に貰った物を使っちゃ……あ」


「やっぱりだめ……だよね、脱ぐ……ね?」


上目遣いで見つめる弟の瞳は潤んでおり、その可愛いさに思わず悶えそうになる。しかもこころなしか先程よりも可愛くなっている気がする。装備のおかげだろうか


「そ……そんな顔しても……だめ……なん……わけないじゃない! 似合ってから貰っちゃいなさいゆうくん!」


「え? いいの? それとお姉ちゃん鼻血出てるよ?」


「え?」


そんなこんなで、何だかんだ四時間位遊んでしまったので、一度ログアウトしてご飯を食べることにした


〇〇〇〇〇〇


「う〜ん……よく遊んだ!」


昨日も香澄と遊んだけど、やっぱりゆうくんと遊ぶと何をしても楽しい

しかしさすがに遊びっぱなしはゆうくんの身体に悪そうなので、少し心配だ


でもどうやら香澄曰く、「ジェニュインザワールド」をプレイしている間は意識が完全になくなってるらしく、身体にかかる負担は最小限になるらしい、それに加えて、ゲーム内で食べたご飯などで幸福度も上がり

最高のリラックス状態になるらしい


とはいえ実際にご飯を食べたわけではないので、こっちの世界でご飯を食べないと栄養失調になってしまうだろう。


なのでお姉ちゃんはこれからゲームの世界よりも美味しい夕御飯を作っちゃいます


「いただきます!」


「めしあがれ♪」


料理したのはチーズ入りのハンバーグ

ひき肉は少し常温にしてから旨味が出るように油を加えて捏ねて、玉ねぎも丁寧に加熱してから冷まして、混ぜ込んだ特性のハンバーグだ。ゆうくん喜んでくれるかな?


「う〜〜〜ん♥ お姉ちゃんのハンバーグ美味し〜い♪」


くぅぅぅ! 可愛い可愛い可愛い!

この笑顔を見るためだけに生きている!

夢中で食べてるから口元についたソースに気付いていないのがまた可愛い! かあいい!

可愛いからしばらく黙っておこう

しかし、しばらく食べ進めるとゆうくんは手を止めて真剣な面持ちで私の顔をまっすぐ見つめてくる。


「……お姉ちゃんお話があります」


「ど……どうしたの?」


しまったジロジロと見ていたのがばれたか?


「その……いつもありがと……ね?」


「え、どうしたの急に」


「僕今日のゲームをやるの凄く楽しみだったんだ、うん楽しかった」


弟はもじもじとしながら続ける


「でもそれはお姉ちゃんが一緒にいたからで……だからその……」


少しずつ赤くなる弟


「いつもご飯とかお掃除とかもしてくれて……僕と一緒にいてくれて……ありがとう」


弟は何を言ってるのだろうか、姉が弟の事を思うのは当然のことだというのに




「だから……その……これからも僕のお姉ちゃんでいてください!」


だから弟の言葉を聞いた時、自分でも分からないけど涙が出てきた。

そうか、私優生のお姉ちゃんでいいんだ

辛いのとか、寂しいのとか、何も代わってあげられないのに、分かってあげられないのに

優生はこんなお姉ちゃんでも一緒にいてくれるんだ。そう思ったら涙が溢れてきた


「お姉ちゃん!? 大丈夫?」


突然泣き出した私を心配して、手を握ってくれる優生、本当に優しい子だなぁ

私は優生を抱きしめてこう言った


「もちろん、ずっとお姉ちゃんが一緒だよ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る