第21話 まだ終わってはいませんのね


 ――里中さんと繁華街とやらを移動し始めて一時間ほど探索を試みましたが才原さんの姿は確認できずですわ。

 

 『はんばあがあ』ショップに『げえせん』、衣料品のお店や『こすめ』を扱っているお店など手当たり次第に見ましたがやはりこう広いとなかなか見つからないものですわね。


 町、ということであればわたくしの世界でももちろんありましたが規模が違いすぎて見て回るのが精一杯ですわ。


「こう、どうして似たような店舗がたくさんあるのでしょう……」

「え? そりゃあ……取り扱う種類がいっぱいある……りますけど、一つの店には入りきらないじゃないですか」

「なるほど」


 それは言い得て妙ですわ。

 それにしても食事をできるお店も雑貨を売る店もあれば『でぱあと』と呼ばれる大きな複合施設もあり、買い物は困らないことが分かりました。

 ついでに言えば娯楽施設もたくさんあるようですし、この世界は魔物も居ない……平和な場所ですわね。


「あのカラオケというのはなんですか?」

「カラオケを知らない……!? いや、マジ……本当に?」

「ええ」


 涼太との訓練は勉学系ばかりでそういった知識は後回しにしましたから仕方ありませんわ。

 スマホを取り出して調べてみると『歌う場所』ですわね。ゲーセンもそうでしたがあまり騒がしいところは好きではありませんから遠慮しておきたいですわね。


「さて、これだけ動き回っても居ないとなるとこの場所には来ていないのでは無いでしょうか?」

「うーん、どうだろ。確か新作のマニキュアが発売されるのが今日だから……」

「あら、里中さんもコスメに興味がおありで?」


 どうやら当たりをつけてここへ来たらしく、コスメの発売日とのこと。そうであれば佐藤さんが食いついているはずだと言う。

 それはともかく発売日を知っているとは、と里中さんへ尋ねてみると、 


「あ、うん。委員長なんて地味な感じだけど、私も興味はありますよ。今度、その変身のやり方を教えて欲しいかも」

「ふふ、里中さんも素材はいいですし、キレイになりますわよ」

「ありがとうございます!」


 喜ぶ彼女へわたくしは微笑みながら言う。そのまましばらく歩いて行き、裏通りのお店というのも確認したところで前を歩く里中さんへ声をかけました。


「この辺りはお店はあまり無いみたいですね。これからどうしましょうか? 他にアテはありますか? そうでなければ結構歩いてきたので戻ろうかと」

「うーん……そうですねえ……。ちょっと休んでから考えます? 私、喉が渇いたんですけど」

「ああ、それはいいですわね。買いに行きましょうか、お代は出させてください」

「あ、病み上がりで連れまわしちゃったから私が買ってくるよ。近くに公園があるからそこで待ってて!」

「あ、里中さん」


 ……行ってしまいました。わたくしの身体を気遣っていただけるのはありがたいですわね。元気ですけど。

 

「わたくしはまだこの世界でカフェに行ったことが無いので買い物をしたかったのですが」


 そう呟いて彼女が示唆した公園へ足を運ぶ。確かに近くに広場というには狭いですが、そういう場所がありました。


「それにしても一歩道を外れると寂しい感じがしますわね。建物が大きいから狭く感じる――」


 そう呟きながら周囲を見ていると、目の前に黒く大きな自動車が通り……過ぎずに目の前で止まる。


 その瞬間――


「……!」

「こいつか」


 ――黒い大きな自動車から顔を隠した人間が三人出てきて、即座にわたくしへ手を伸ばしてきました……!!


「あなた達は何者でしょうか?」

「……」


 返事は無し。

 わたくしはすぐにバックステップをすると、前に出てきた者の手を逃れる。すぐに踵を返そうとしたところですでに一人回り込んでいたようで挟まれた形に。


「この世界にも盗賊がいらっしゃるのですね? わたくしに何か御用でしょうか。人を待たせていますので帰りたいのですが」

「大丈夫だ。あの車で送ってやるから」

「どこに連れていかれるのやら……」

「よく見れば上玉だな。これは楽しみだぜ」

「それは後だ」


 どこの世界にも誘拐はあるのですね。それと別のちょっとお腹の出ている男が怪しいことを口走る。

 金銭目的では無さそうですわね? さっきの『こいつか』ということからわたくしを狙っての犯行。


「……ふっ」

「?」

「なにがおかしい……!」

「いえ。キナ臭くなってきたと思いましてね。飛び降りて生き残った女子高生ですが、復帰して少ししたらこういう誘拐に巻き込まれるなんて怪しいじゃありませんか?」

「……」

「ごちゃごちゃうるせえぞ……!」


 ちょっと身長の低い……声からして男が苛立ちながら掴みかかってきました。短気ですこと。

 わたくしはすぐに身をかがめると、顎をに向けて下から拳を打ち上げます。


「フッ……!!」

「がっ!? こい、つ……お、おお……?」

「脳が揺らされてすぐ回復は難しいですわよ? <ウインドボム>」

「うぐあああ!?」


 顎を打ち抜かれて膝から崩れ落ちそうになっている小柄な男に、わたくしは腹へ拳を叩き込むと同時に魔法を放つ。

 爆発的な空気圧が膨れ上がり男を吹き飛ばすと、黒い自動車まで飛んでいき背中から叩きつけられた形になりました。


「な、なんだこの女……!?」

「一気にかかるぞ」

「ふん、来なさいな。凶悪令嬢とまで言われたわたくしの力をお見せしましょう」

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