第13話 このあたりで動きましょうか


 ――若杉警部が『ぱとかあ』に乗って帰っていいということでお世話になることにしました。


 「すみません」

 「いいよ、警察の仕事でもある。……なにも覚えていないってのはなかなかきついよな。ご家族のことは?」

 「まったくでしたわね。でも理解ある両親と弟で助かりました」

 「そうか、いい家族で良さそうだ」


 気遣いの言葉を投げかけてくる警部。演技ではなさそうなので気持ちの良い方だとお見受けします。すると少しバツが悪そうな顔で問いかけてきました。


 「……その、学校に通っているみたいだけど生活はどうだい? イジメがあったりしないだろうか」

 「今のところは平和ですわ」

 「……」


 『今のところ』というあたりで一瞬こちらに視線を移しましたが、わたくしが前を向いたままそれ以上話すことは無いオーラを放つと、それを察したのか無言で『ぱとかあ』を運転。

 程なくして自宅近くまで到着したので、家の前ではないところで降ろしてもらうようお願いすることに。


 「ここでいいのかい?」

 「ええ、家の周りはご近所様の迷惑になりますので」

 「わかった。まあパトカーが近くにいるのも嫌かな。それにしてもその喋り方は……っと、それも覚えていないのか」

 「ええ」

 

 ということにしておきましょう。

 

 「一応こいつを渡しておく。妻と俺の連絡先だ。なにかあれば遠慮なく

家から数百メートル離れた場所で降りて若杉さんを見送り、自宅へ戻るために歩く。

 

 「お寿司が食べたいですわ……」


 何の解決にも至りませんでしたが警察が手を引くことがわかったのは良かったかもしれませんわね? なぜなら警察が美子わたくしを監視している間は犯人が動かないであろうということも考えられるからですわ。

 公に警察が手を引いたと分かればなにかしら動きがあるかもしれませんし。


 尤も『美子』に対して自殺未遂を見て気が晴れた、もしくは危険な橋を渡らなくなったとなればもう姿を見せることは無いのかもしれないとは思います。


 「……ふむ、だとすれば燻り出すのがいいのでしょうか?」


 あえてわたくしが目立つことで犯人を刺激できれば……。となると方法を考えなくては。

 冬の夕暮れ、十七時を過ぎるともう暗いと言って差し支えない空の下、一人で信号待ちをしながらそんなことを考えていると――


 「……!」

 

 急に誰かに押されて、いえ、突き飛ばされた。

 『へっどらいと』なるものを点灯させていない車が視界に入り、わたくしは道路に飛び出そうに。


 「……っ! <ウインドボム>!」


 咄嗟に右手を前に出して魔法を放つと弾かれるように体がのけぞり、わたくしの目の前を『ばいく』という乗り物がギリギリのところを通過する。

 

 「馬鹿野郎気をつけろ!」

 「うるさいですわ、さっさとお行きなさい!」

 「う、おおおお……!?」

 「まったくこの忙しい時に……!」

 

 どなるバイクの御者にフレイムを見せて退散させ、すぐに背後を確認するも――


 「……チッ、さすがに居ませんわね」

 

 ――人影はどこにも見えませんでした。

 

 ここは向こうでいう『居住区』と同じで家屋がたくさん立ち並んでいるため、死角は案外多い。信号機待ちをしていた背後には細い道。そこから飛び出てきた、というところでしょうね


 「『かんしかめら』は……このあたりにはない、ですわね……」


 いろいろ考えていたせいで反応が一瞬遅れたことは失態でしたわね。まだこの体に馴染んでいない証拠といえばそういうことなのでしょうけども。

 この広い道で間違えてぶつかったことなどあり得ない。確実の私を狙っての犯行と見ていいでしょう。


 「なるほど、それほどまでに美子わたくしにけがをさせたいというわけですか。それでこそこちらも炙り出しをする甲斐があるというもの……」


 わたくしは周囲に気を配りながら慎重に自宅への帰路につき、玄関に入ったところで一息をつく。


 「ふう……」

 「あ、姉ちゃんおかえりー。遅かったね」

 「ええ、少し寄り道をしたいところがあって。ぱとかあで帰ってきましたわ」

 「え!? どこ行ってたのさ……」

 「それよりお母様は?」

 「相変わらずだよね姉ちゃん。今、夕食を作ってる最中。ちょっと前まで仕事で全然作ってなかったんだけど、自殺未遂はかなりきつかったみたいだ」


 わたくしはあの病室からしかお母様を知りませんが、仕事人間だったようで家に帰ってくるのはもっと遅い時間ばかりで、美子が作るか出前を取ることが多かったとのこと。

 

 お父様はまだ帰っておらず、彼も19時を越えなければ基本的に涼太と二人だった、というわけですわ。

 ……元のお父様も仕事ばかりであまり遊んでくれませんでしたからそういうものかもしれませんが。


 それはさておきお母様が居るなら好都合ですわね。

 帰宅しながら考えていたことを実行に移すにはお母様の協力が不可欠なので涼太の脇を抜けてキッチンへ向かい声をかけることに。


 「お母様、ただいま帰りましたわ」

 「あら美子ちゃんおかえりなさい! 今日はママが料理を作ったわ、久しぶりだから味の保証ができないけど、ビーフシチューだからきっと平気よ!」

 「少し赤ワインを入れ過ぎな気も……いえ、それよりもお母様にお願いがありまして」

 「……!」

 「おっと」


 お母様がわたくしを見て目を見開いて驚き、ワインの瓶を取り落としたのをキャッチすると、


 「美子ちゃんがママにお願い……小学生以来! なんでも言って!」

 「ありがとうございます。それでは明日、学校をお休みさせてください」

 「いいわよいいわよ、まだ辛い時期ですものね!」

 「それと、美容院というところへ行ってみたいのです。せっかくお母様の美人な血を受け継いでいるのですから、これを機にオシャレをしてみようかと思いまして」

 「……!!! あふん……」

 「お母様!?」


 なぜか光悦した顔で膝から崩れ落ちるお母様を支えていると、背後から涼太が呆れた声で話しかけてきます。


 「姉ちゃんってずっと引きこもっていて父さんや母さんと接しなかったからショック死しちゃうよ?」

 「なるほど……とりあえず復活してからもう一度お話をしましょうか」

 「それがいいかもね。でもなんだって美容院?」

 「ふふ、すぐにわかりますわ」

 「あ。俺は聞かなかったことにするよ」


 そして夕食時にお父様の居る前でその話をして許可が下り、明日はお母様と一緒に『じむしょ』へ行くことが決定。

 涼太はずるいとぼやいていましたが目的を告げると肩を竦めて首を振っていましたわね。


 余談ですが見た目はアレだったビーフシチューは意外にも美味しかったことを付け加えておきます――

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