第27話 / 討伐⑤

心地良い...


身体がふわふわする。


ずっとこのままで...


『お』


『おー』


『おーー』


『おーーーーーい!!』


「うわっ!」

クロガネが飛び起きる。

こんな事、前にもあったような?


辺りを見回すが真っ暗だ


もしかしてここは


『やっほー、お目覚めかしら?』


振り向くと少女が立っていた。いや、会った事がある。俺をこの国へ飛ばした生意気な娘


名前は...そう...


「ルギ...俺は何でここに戻ってきてるんだ?森は?あの獣...そう青藍は何処行った?」


『‟さん”でしょ?それに質問が多い!質問は1つ!』


「この糞XXX(以下自粛)、俺は...どうしてここに?死んだのか?」


『ブー!不正解!死んでませーん。実は緋色に...ううん、クロガネにプレゼントをあげる為に一時的にこっちへ呼んだの』


ルギがクロガネの頭をポンポン叩きながら喋る。


「プレゼント?何でプレゼントを貰えるんだ?」


『それは...それは... クロガネが1ヵ月生き永らえたから...だって...田中っちと賭けして負けたから』


ルギが小声でボソボソ喋る為何を言っているのかクロガネは聞き取れなかった。


「はぁ?いったいどういう事なんだ?」


『うるさーい!とにかくプレゼントを1つあげるからさっさとあっちへ帰って頂戴!』


「いったい何をくれるんだ?」


『神族のみが持つ事が許される特別なスキルよ。感謝しなさい』


「じゃあいらない。別にこっちは頼んだ覚えはないよ?ルギ...さん?」


クロガネは嫌味を込めてルギへ言う。


『うっ...そういうわけにはいかないの!私たちは嘘をつかない、約束は絶対守るという原則に従わなければいけないの!』


「じゃあ貰って下さいだろ?ルギ‟さん”?俺が貰わなかったら約束を破る事になる。そうだろ?」


『うー うー うー ...分かった...貰って...く...ださい』

ルギは顎をあげてお願いした。


どうしても頭は下げたくないらしい。


「で?どんなスキルを貰えるんだい?」


『あんた、超ラッキーなのよ?逆立ちしても絶対手に入らないスキルなんだから...まぁいいわ、今のクロガネのレベルから選択できる3つの内、どれか1つ選んで!』


1.神の恵み - 瀕死状態になると体力が少しずつ回復する(但し、全体力の半分迄しか上がらない/死んだら無効)


2.神の言葉‐相手を説き伏せる。交渉事に有利。(ただし、神族には無効)


3.神の慈悲 - 神の光で攻撃 (レベルの低い悪い心を持った相手なら問答無用に消滅させる。)


「何か凄いな...どれも魅力的だけど。。3番が良いな」


『じゃあ3番にするわよ...あっ!余計なお世話かも知れないけどあっちの世界ではクロガネは瀕死状態になってるから戻っても直ぐに死ぬわよ』


「え...じゃあ1番しかないじゃないか」


『はーい。では1番にけってーい!こっちに来なさい』


クロガネがルギの前に立つ。


バシッ


突然ルギがクロガネの頬を平手打ちする。


「痛っ!何するんだ!」


『黙りなさい!汝なんじ、我が力、神の恵みを授ける。跪拝きはいして‟受ける”と答えよ』


クロガネは文句を言いながらも跪ひざまつき答えた。


「受ける」


ルギがクロガネの頭の上に手をかざすと光の粒がクロガネを包んだ。


『これで完了。では、タギアタニア王国へお帰りなさい!』


「おい! ちょっとま」


光の輪がクロガネを包み、クロガネは転送されて行った。


『田中っち。居るんでしょ?』


「はい。ルギさんここに居ます。約束を守って頂きありがとうございました。でも、あの平手打ちは要いりませんでしたね」


『私、今超機嫌が悪いの!賭けに負けてお酒も飲めなくなったんだから!でも次は負けないわよ!』


「まだやるんですか?分かりました、良いですよ。勝負ですね。次の賭け事はどうしますか?」


『次はねー...あっそうそう、田中っち知ってる?あんたを殺そうとした管理協会のジャックの事?』


「何かあったんですか?」


『あいつ管理協会を辞めたみたいよ。何でも転職活動するって言って後任を推薦して去って行ったみたいよ。何処で何をしているのかしら...』



。。。



ズシャ


バサッ


ズシャ


バサッ


ズシャ


バサッ


身体が重い...何かがどんどんのしかかってくる。


ズシャ


「ぐはっ!はぁ、 はぁ、 はぁ、 はぁ、 ぐぇっ! ぺっぺっ」


口の中に入った砂を吐き出す。

クロガネが上半身を起こすと、掘られた穴に身体が埋まっていた。


バサッ


上から土が降ってくる。


「止めろ!」

クロガネが上へ向かって叫ぶ。


穴の上から顔が覗き込まれる。青藍せいらんだった。


「お...お前,生き返ったのか?こりゃたまげた。待ってろ、引き上げてやるから」


クロガネは青藍に地上へ引き上げられると全身に付いた土を払い、胸の傷、全身の傷を確認する。


凄い...傷が塞がっている...体力も全開じゃないけど十分に回復している...これが‟神の恵”のスキル...これが無かったら俺は死んでいた...


「驚いた、傷が無くなっている...クロガネ...お前...本当に人間か?」


「それよりどうして俺は土の中に?まさか、俺を埋葬しようとしてくれたのか?」


「...まぁな。あのまま死体をほったらかしにしたらモンスターに食い荒らされる。だから埋葬してやろうと思ったんだよ」


「...感謝する...けど、どうしてだ?俺はお前を殺そうとしたんだぞ?」


「...」

青藍は何も言わない。


「お前の振る舞いは一見がさつだが芯が通っている。そこら辺にいる只のゴロツキ盗人とも思えない。それに瀕死の状態の時にお前の言葉を聞いた...お前は仲間を養う為に盗みや強奪をしているのか?」


「...」


青嵐はクロガネの問いに対してずっと黙っていたが、重い口を開いた。


「ああ...俺には養わなければならない仲間がたくさんいる。それもこれも獣族というだけで迫害され、壁の内側には住めず、職を求めても種族で篩ふるいにかけられ門前払いさ。職が無いから仕方なく強奪をして餓えを凌ぐ。そして捕まって前科者になり更に職にありつけなくなる」


「だからと言って強奪が許されるとは俺は思わない。強奪された者にも養う家族がいるかもしれない」


「そうだな...それは分かっている。出来る事なら真っ当に生きたい。


「青藍、お前もセヌアへ行く途中と言っていたな?何が目的だ?まさかお前も斡旋業者のボディーガードか?」


「馬鹿言え!あんな輩達と一緒にするな!俺は誇りまでは売らねぇ...だが...俺の仲間2人が良い金になるとあいつらに雇われてセヌアへ行っちまった。しばらく経つが戻って来ねぇ..あいつらのおふくろさんが心配して俺に連れ戻すように頼まれたのさ」


青藍が首を振りながら答える。


「分かった...俺の目的は仲間を助け、斡旋業者を捕らえる事。青藍、お前はセヌアでは俺の敵になるのか?味方になるのかどっちだ?」


「クロガネ...俺は頭が悪いから難しい事聞くな。単純に俺は2人を連れ戻したいだけだ...あいつらは身体はでかいが相手を傷つけるのも躊躇する臆病者なんだ。逆にもう人間に殺されているかもしれないが...」


クロガネは暫く考えた後、青藍に提案した。


「青藍、俺と共闘しろ。俺は仲間を助け斡旋業者を討伐できれば良し。もし、お前の仲間がまだ生きているなら捕らえれて連れ戻す事が出来るだろ?それにお前は俺の荷物を売りさばいて儲けたんだ。その代金分位俺に協力しろ」


青藍の目が見開きぱっと明るくなった。


「おー、それならお前に協力する理由になるな!俺は人間は大嫌いだがお前の提案に乗ってやる!ぐわっはっは!」


「よし!契約成立だな。所で、ここからセヌア迄はどれくらい掛かるんだ?」


クロガネは荷物を抱えながら青藍に聞いた。


「そうだな...あと2日歩けば抜けられると思うぞ。それに...少し前にここを人間が通った痕跡がある。1~2日前ってところか...多分、クロガネの仲間だろうよ」


「そうか...予定より大分遅れているな。。急がないと」


「クロガネ、俺の背中に乗れ。そうすれば半日以下でセヌアへ到着する」


「いいのか?俺に背中を見せるんだぞ?」


「獣族は誇り高き種族だ。人間だろうと認めた者は‟仲間”として扱う。さぁ乗れ。落とされないように捕まれよ!お前が落ちてもそのまま行くからな。落とされるような弱い奴には用は無い」


「言ってくれるね。じゃあ青藍の自慢のスピードで連れて行ってもらいましょうか」


クロガネは青藍の背中に乗った。

青藍は二足歩行から四足歩行になると、まさに獣の様に猛スピードでセヌアへ向けて駆け出した。

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