第24話 / 討伐②

討伐出発当日


見送りきたカールと数人の看守に見送られ、ベルヴァルト監獄正門から4人は出発した。


ベルヴァルト監獄から廃都セヌアまで馬車で5日掛かる。


援軍要請の為に帰ってきたマリオによると周辺はモンスターで溢れているらしい。


貴重な情報を事前に得る事が出来た為、ウドが対モンスター用の武具を幾つか選定し、


同行する3人へ渡していた。


「不安か?」


出発から2日、ウドがクロガネ達へ質問する。


「なーに言ってんすか?めちゃくちゃわくわくしてるっす!」


リュックが真っ先に返答する。


「ウド獄長。不安が無いと言うと嘘になりますが問題ありません。出発前に準備はしっかりやりましたから」


エヴァが丁寧に答える。


「...」


「クロガネ。おまえはどうだ?」


返答しないクロガネにウドが質問する。


「正直に言うと不安しか無いですよ...斡旋業者は勿論、モンスターに対して免疫がないんで。あんな生き物とどうやって戦えばいいのかずっと考えています」


「考えすぎは良くないが緊張感があるのは良い事だ」


ウドが答え、立ち止まると3人を見渡した。


「どうしたんすか?」

リュックが不思議そうにウドに尋ねる。


「ワシは単純に人数合わせとしてお前らを連れてきたなんて微塵みじんも考えてない。ワシが招集に参加した時、何人か目星をつけていた。運が良い事にその上位3名が手を挙げてくれた」


「えっ?俺ら目星つけられてたんすか?それにどうやって目星をつけたんすか?俺、成績最悪っすよ?」


リュックが不思議そうにウドへ聞く。


「もしかしてオーラですか?」


クロガネがウドへ聞く。


「その通りだ。お前らは潜在能力が他の看守達よりも秀でていた。討伐に向かった精鋭と比べても遜色ない。。いや、それ以上かもしれん。しかし、それを活かさないと宝のもち腐れになってしまう。そこでだ、休憩がてらお前らの戦闘能力見るついでに稽古けいこしてやろう」


「稽古?」

3人が一斉に聞き返す。


「3人共剣を抜いて殺す気でかかって来い。少しでも手加減したら帰ってもらう。どれ。。ワシはこれで十分だ」


ウドが地面に落ちている簡単に折れそうな細い木の枝を拾って構えた。


3人共躊躇ちゅうちょしながらも剣を構えお互いが邪魔にならないように間合いを取る。


最初に飛び掛かったのはリュックだった。


あっという間にウドとの間合いを詰め、ウドの脳天目掛けて剣を振り下ろした。


剣がウドの頭に直撃した!?


と思われたが、ウドは指2本で持った細い枝で受け止めていた。


リュックは止められたのを分かるとウド目掛け剣で連撃する。


しかし、全てをはじき返されると、今度はウドが枝でリュックの腹を撫でた。


その瞬間、リュックは10m後方へ吹っ飛んでいった。


「ほぉ...立てるか」


リュックはふらふらと立ち上がり剣を投げ捨てた。


「やっぱり剣は邪魔だ。男ならこの拳でしょ?」


リュックはウド目掛けて真正面から全力で殴りかかった、ウドが細い枝で拳を受け止める。


「まだままだまだまだまだまだまだー!」


リュックから凄い早さの拳の連打が繰り出される。


「なかなかの早さだが...軽いな。殴るというのはこうするんだ!」


ドカッ


ウドのアッパーがリュックの顎にヒットして吹っ飛び意識を失ったようだった。


クロガネが唖然とリュックを見た後横を見ると、さっきまで立っていたエヴァがいない。


エヴァはいつの間にかウドの背後をとらえウドの足元目掛けて切りつける。


しかし、後ろが見えているかのようにウドが上へ飛んでかわす。


「ふむ、なかなかの動き」


間髪入れずにエヴァは上へ飛んだウド目掛けて剣を振り投げたがウドの細い枝で弾かれそのはずみで剣が真っ二つに折れてしまった。


「剣を投げてしまったら戦う武器がないぞ」


ウドがエヴァへ投げ掛ける


エヴァは後方へステップしてウドとの間合いを取ると、何か1人事を呟き両手の平を胸の前で合わせた。


合わせた手から黄色い炎が浮かびあがり両手の平をウドへ向けた。


BURNバーン!」


黄色い炎の玉がウドへ向かって飛び出した。


「ほぉ...魔法か」


ウドは黄色い炎が向かって来ているにも関わらず避けない。


避けない


避けない


当たる直前で細い枝で炎を真っ二つに切り裂いてウドの左右に分かれて弾けた。


「なっ...」


呆然と見て動けなくなっているエヴァへウドは素早く近付き枝でエヴァの足を撫でる。


ドスッ!


足を振り払われたエヴァは地面に叩きつけられ動かなくなってしまった。


「最後はクロガネか...」


ウドがゆっくりとクロガネの元へ歩み寄る。


クロガネは剣を構えたまま動かない。

いや、動けなかったのだ。


ウドはゆっくりとクロガネの剣を手から離させた。


「不合格だ。クロガネ。お前は戦闘に向いていない」


「...分かりました」


クロガネは現状を受け入れるしか無かった。。


しばらく歩いた後、その日はモンスターに襲われないような場所を探し、キャンプをすることになった。食事を適当に済ませた後、三人は睡眠を取り、1人は見張りを順番にすることになった。



。。。



「クロガネ起きて」

クロガネはエヴァに起こされた。


見張りの順番が来たらしい。


「何か起きたら直ぐに皆を起こすのよ。貴方だけで対応しないで。分かった?」


エヴァは小さい子供へ言い聞かせるように言ってから寝場所へ入っていった。


エヴァはクロガネへの印象として、少なくともノーと思っているらしい。


「あの稽古の印象が最悪だったからな...」


クロガネは見張りをしながらかつて住んでいた世界の昔の事を思い出していた。


勤めていた会社に期待された期待の転職者が同じ部署に入ってきた。


しかし、蓋を開けて見ると能力が足りず周りの者からノーを突きつけられ、その転職者は去っていった事があった。


クロガネはまさしく同じ状況に置かれていたのだった。


これ以上皆に迷惑を掛けるわけには行かない。。。


クロガネは明日の朝、ベルヴァルト監獄へ帰る事を決めた。



あらがえ―



「誰だ!」


クロガネが周りを見るが誰も居ない。


「気のせいか...」




。。。




「交代の時間だな。代わろう」

ウドがクロガネの元へやって来た。


「ウド獄長。朝方ベルヴァルト監獄へ戻ります。これ以上皆に迷惑掛けられない。見張りをしながらずっと考えていました」


「...そうか。ならば今から帰るが良い。もう夜が明けるしな。ワシから皆には伝えておく」


ウドはそれだけ答えた。少し悲しそうな顔をしているように見えたが気のせいだろう。


クロガネは帰るまでの必要な食料と武器を選別してウドに別れを告げた。


「お前は今までずっとそうやって生きてきたのか?」

ウドが別れ際にクロガネへ言った。


「どういう意味ですか?」


「この世界では俺が俺がという自己主張が強い奴が出世して生き残っていく。お前は能力があるのにずっとそうやって争わずに他人に譲って生きてきたのか?」


「...確かにそうだったかもしれない。同じような事を今まで何度も言われた事がありました。。だけど、自分ではそれをどうする事も出来ない」


「そうか道中気をつけることだ。お前が帰る事は伝言鳩でカールに伝えておく」


「役に立たずすみません」

クロガネは1人ベルヴァルト監獄へ向かった。



。。。



「えー!あいつ帰ったんすかー?」

起きてきたリュックがうわずった声で言った。


「遅かれ早かれクロガネは帰ってたと思うわ。良かったんじゃない?」

エヴァが冷たく言い放つ。


「ワシが判断して帰した。所でお前逹の武器を変更しようと思う。まずはお前だリュック」


「ウッス」


「お前は剣を扱うよりこの鉤爪かぎづめが適しているだろう。拳を殴るように身体との一体感がありお前の持った力を最大限に発揮出来るだろう」


「おー!マジ半端ねーっすわ!」


「次にエヴァ。お前さんの武器はこの杖だ。まぁ単純に殴る武器にもなるが魔法を最大限まで引き出す事が出来る特別な杖だ。魔法の消費も節約できるエコな武器だ。それに杖の中に剣が仕込まれている」


「ありがとうございます!」


「さぁ早く準備するんだ。もう少ししたら出発するぞ!」


「はい!」

「ウッス」


3人は準備を手短に済ませ廃都セヌアへ向けて出発した。

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