第18話 / タギアタニア王国

タギアタニア王国


異世界にある12ヵ国の内最も貧しい国である。


目立った産業は無いが自然豊かな土地に恵まれており、北部では年中雪景色を眺める事が出来、中央部には国の5分の1の大きさの湖があり、入浴すると効能としてヒーリング効果や若返りの効能があると瞬く間に世界中で噂が広まり各国のセレブが観光として訪れている。


表・面・上・タギアタニア王国の主な財源はこの様な観光産業となり他国からの観光客から外貨を得ていた。


表・面・上・と言うのは、裏では人身売買、違法魔法薬の売買等で儲けていると噂されているからだった。


湖の中央の孤島に国王が住む城があり、湖の外から城へ入るには一本の巨大な橋を渡るしかない。


外部からの進入者を拒むように橋を渡りきるまでに3つの検問所を通らなければならなかった。


セレブの観光客が集まる湖の周辺はセキュリティーも万全な観光地となっている。華やかに見える反面、その外周を取り囲むように巨大な壁があり、その外側にタギアタニアの7割の国民が住んでいる。


巨大な壁の外側は内側の様な華やかな感じが微塵も無く、町の外壁は手入れされず、あちこちの民家の窓には鉄格子が頑丈に張られ、外を出歩いている者と言えば目つきの悪い輩ぐらいだった。


タギアタニア王国は貧しい国である為、職に就けない者が多く犯罪の発生率(殺人、強盗、放火、強姦)が他国と比べて100倍と異常に高い数値となっており、仕事が忙しくて給料が良い牢獄の監守が勝ち組の職業となっていた。


国王は認めて無いが、犯罪発生率の底上げしている原因は斡旋業者あっせんぎょうしゃが他国で罪を犯した者の逃亡先の国として迎え入れていると噂されていた。


また、それ以上に種族の割合が大きく関係すると言われている。


12ヵ国全体の平均種族の割合が;


人間 70%

獣族 15%

魔族 15%

その他 0.1%


しかしタギアタニア王国に関しては;


人間 34%

獣族 33%

魔族 33%


人間、獣族、魔族の割合が均衡しているが、国王や大臣の大半は人間だった。また、壁の内側に住む割合が;


人間 80%

魔族 10%

獣族 10%


人口比率が3種族で均衡しているにも関わらず、人間側の都合の良い法律になっていた。国王は他種族の不満を抑える為に各種族の10%の人口を壁の内側に住む事を認め、他種族から有能な者を大臣にさせ外側に住む国民を抑えさせていた。


壁の外側に住む真っ当な国民はタギアタニア王国から他国へ逃げ出そうとするが、平行世界で言うビザの取得が出来ない為逃げ場を失っていた。ビザの取得には貯蓄の証明書、職業証明書、そして国王の承認が必要となる。当然これだけの証明書を集めようとしても一般の国民では不可能に近い状態である為他国へ逃げれない。反対に他国で罪を犯した犯罪者が大量に逃亡して密入国し、タギアタニア王国でも犯罪を犯すという悪循環になっていた。


人間と比べ魔族、獣族の2種族は犯罪を犯す確率は確かに高い。


獣族は身体が大きく大柄な性格から他種族から嫌われ、長年の差別を受けてきた事によりまともな住処、仕事に就けず、生きて行くために仕方なく犯罪を犯すパターンが多い。


半面、情に厚い種族であり仲間の困りごとは率先して手助する事が多い。


一部の好戦的な獣族の為に戦闘を好むイメージが強いが、獣族の大半は周りと遮断された静かな生活を好み他種族との共存生活を避ける傾向がある。


魔族の見た目は様々で、人間に姿形が近い者も居れば異形の姿の者も居る為一括りにするのが難しい種族である。彼らの大半は人間と同じような生活をし、表面上は人間達他種族との共存をしているが日のあたる場所を避ける為日中はあまり外に出ず日が沈む頃に活動する事が多い。


異世界に残された古文書によると数千年前に天上と地上二つに分かれて大きな戦争が何百年も続いていた。徐々に天上の勢力に押された地上側は、精鋭を天上へ送り込み人質として天上の住民数百人と地上で見た事も無いような異形の生物を強奪して地上へ持ち帰ったと言われている。


地上の環境に適していない天上の者達が地上へ連れていかれると真っ白だった肌が焼け、目の色が赤色に変化し、金色の髪が抜け落ちる者や黒く染まる者が多発した。その姿から‟悪魔”のようだと言われた。


異形の生物も同じように変化し、狂暴になって異世界各地へ繁殖して散らばりモ・ン・ス・タ・ー・として現存している。


現在、異世界で当たり前のように魔法が使われているのは彼ら先祖が地上の者達へ魔法を伝えたのが始まりだと言われており、天上の者達は彼・ら・を裏切り者として皮肉を込めて‟魔族”と呼ぶようになったと言われている。


反対に人質として連れ去られた者逹の子孫、つまり魔族は、天上の者逹は我々を見捨てた薄情者として子孫へ語り継がれていた。


話はタギアタニア王国へ戻る。


壁の外側に居るタギアタニアの国民は希望を失っていた。ただ今日生きるだけで精一杯のこの様な状況を変えてくれる勇者の様な存在が現れるのを待っていた...




「次」 ポンッ

「次」 ポンッ

「次」 ポンッ

「次」 ポンッ

「次」 ポンッ

「次」 ポンッ

「次」 ポンッ

「次」 ポンッ

「次」 ポンッ


「次、次、次、次、次、次、次、次、次、次、次、次、次、次、次、次、次、次、次、次、次、」


ポンッ、ポンッ、ポンッ、ポンッ、ポンッ、ポンッ、ポンッ、ポンッ、ポンッ、ポンッ、ポンッ、


「獄長...もう少しご丁寧にやられた方が良いかと」


制服を着たスラっとした男が獄長へ真言する。


「うん? カール、こいつで何人目の面通しだ?」


大きな椅子に深く座り髭を蓄えた恰幅の良い男が目の前に立っている凶悪な顔つきの男を指さす。


「547人目で御座います」


数えていたのかカールが即答する。


「もう547人目なのか?まだ半日しか経ってないぞ?どうなってるんだ?日毎に犯罪者が増えて監獄ここに来ているぞ?」


ここは壁の外側にある監獄 ベルヴァルト。


壁の外側で罪を犯し軍兵に捕らえられた者はここに収監される。昨今ではあまりにも犯罪者が多い為に牢獄の数があと少しで足りなくなるところまできていた。


「その通りで御座いますが我々が受け入れないと外が犯罪者で溢れかえってしまいます」


カールが獄長へ真言する。


「監獄ここも外も何も変わらないわ!どこへ行っても犯罪者だらけだここは!いずれ本当に犯罪者に乗っ取られてしまうわ!それよりも斡旋業者は未だ見つからないのか?あいつらのせいで犯罪者がこの国へ止めどなく入って来るんだぞ?捕まえたらワシが直々に首を刎はねてやるわ!」


この獄長、名前をウドと言う。かつてはタギアタニア王国の右軍将軍であったが不祥事を起こし国外追放になるところだった。国王は彼の過去の武勲を買い温情としてベルヴァルト監獄の獄長に任命した。しかし、ウドは温情とは言え壁の外側で日毎に増えていく犯罪者の面通しをすることに嫌気がさしていた。


「カール。明日から面通しの仕事は監長であるお前に任せる。なぁに、恐れる事は無い。犯罪者とは言え、どいつもこいつも監視レベル1~2の小物だ。お前でも抑える事は出来る」


「ウド獄長~。それは勘弁して下さい。国王自ら貴方へ任命したお仕事です。私が代わりに仕事をしていることがバレたら私の首が刎ねられてしまいます」


カールが泣きそうな声でウドへ懇願した。


「だったら1日でも早く斡旋業者を捕まえて俺の前に連れてこい!早く対処しないとこのままでは監獄ここがパンクする事になるぞ!」


ドンッ!!


ウドが目の前の机を拳で叩くと重厚な机が真っ二つに割れ、辺りに緊張が走った。


「あの~。 俺はもう行っていいっすか?」


547人目の収監者が恐る恐る聞く。


「まだ居たのか!!さっさと行け!」


空気を読んでカールが収監者へ怒鳴る。ウドの機嫌を損ねたらこの収監者はたちまち紙屑のようにバラバラにされるだろう。


「ウド獄長!ウド獄長!大変です!!」


看守が獄長室へ駈け込んできた。


「何だこんな時に!? 斡旋業者でも捕まえたか?」


カールが嫌なタイミングで入って来るなと言わんばかりの気持ち看守にぶつける。


「いえっ... はぁっ...はぁっ... 先程... 監視レベル5の者を捕らえました... はぁっ...今から面通ししても宜しいでしょうか?」


「何っ? 監視レベル5だと? 何でこんな所に? 何かの間違いでは無いのか!!」


「間違いありません! 捕らえた者は必ず監視レベルを... はぁっ... 確認します...何度も確認しましたが...全て同じ結果となりました!」


「ウド獄長!!どうしましょうか?」


カールが堪らず問いかける。


「...ここへ呼べ。面通しをする」


暫く沈黙していたウドが返答する。


「承知しました!」看守が獄長室から足早に出ていった。


コツッ コツッ コツッ コツッ


暫くすると看守ともう1人の者の足音が獄長室へ近づいてきた。

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