第2話 / オファー

期待を込めた顔で俺の返答を田中さんは待っていた


「ありません」


「即答ですね」


「即答です」


「●●さん、正直に言います。あなたを異世界へ招待したい」


「......」


「嘘? 試験免除のダイレクトオファー?」驚いた顔で金髪娘が田中さんを見る


「駄目ですか?」


「駄目というか、何故自分へオファーしてくれるか理由が分からない。それにオファーを受ける=転職になります。転職先選びここがポイント最新版知ってますか?」


「いえ... 知りません」


「これ借りますよ」

カウンターに立て掛けてあった小さいホワイトボードに書いた。


1.仕事内容、やりがい

2.人間関係

3.安定性、将来性はあるか

4.給与、福利厚生の充実度

5.勤務地、通勤時間

6.環境

7.スキルが身に付くか


気付くと隣の席に金髪娘が座り直し、ホワイトボードを見つめている


「これから詳しい話を聞くとして、異世界について7つのポイントを当てはめると。。」


「1.の仕事内容について全く説明がないので判断できない」


「2.の人間関係...イメージ出来ない」


「3.4についても判断できない」


「5.と6...は勤務地は異世界になったとして通勤時間、どんな環境かわからない」


「7.だってどんなスキルが身に付くのかわからない」


「以上のことからビジョンが全く見えない"異世界"への転職なんて考えられない。それに、即決で決めようとするところはブラックの可能性が高い」


「ブラック?」隣の金髪娘が思わず聞いてきた


「ブラックっていうのは簡単に言えば転職しちゃいけない所。待遇が悪かったり、パワハラ、セクハラが横行してたりね」


「パワハラ?セクハラ?」


「知らないのか? あんたどこの世界の人間だ?」


「あんたって名前じゃないし金髪娘でもない。それに日本生まれ日本育ちよ」


「●●さん、私が紹介します。彼女の名前は西園寺テレジア=エミリ。日本生まれですが日本とは別の世界になります」


「別の世界?異世界の事?」


「異世界ではありません。パラレルワールド、つまり並行世界です。」


「頭痛くなってきた...異世界?、並行世界?どういう関係があるわけ?」


「●●さん、順を追って説明します。話を最後まで聞いて頂いた後、それでも興味が無いようでしたら諦めます。その時は記憶を消させて頂きます。宜しいですか?」


俺は無言で頷いた


さっき書いたホワイトボードを使って田中さんは説明を始めた


「先ずは並行世界について説明します。さっき言った通りエミリさんは別世界の日本から来ています。現在、我々が確認出来ている並行世界は12。


●●さんがBAR【異世界】に迷い込んだ事で12番目の並行世界が確認出来ました。」


「なるほど。。。じゃあエミリが半分透けて見えるのは並行世界の人間だから?」


「そうだと思います。ここへは12の並行世界からの応募者が来ますのでバッティングすることもあります。波長が会わずお互いが気付かずに終わる事が大半なのですが今回のような事が希にあるのです」


「信じられない話しだけど、実際に目の前でエミリが透けて見えている」

まじまじとエミリを見る。


あらためて真正面から見ると確かにかわいい顔をしていた。モデルでもやっていてもおかしくない顔立ちだ。


「ちょっと!そんなに見ないでくれる! エミリ、エミリって馴れ馴れしいし」


「隣に座ってきたのはエミリだろ?そういえば俺の事どういう風に見えるんだ?」


「...言いたくない」とエミリは視線をそらした


「何で?よけい気になるんだけど」


「いや!」


「教えて」


「いや!」


「...エミリを不合格にしたら異世界へ行く条件にするか」


「わかったわよ! その...下半身だけモザイクになって見える」


「下半身がモザイク?なんか卑猥だな」


「知らないわよ!そう見えるんだから!だから言いたくないって言ったでしょ?」


顔を真っ赤にしてしゃべる姿を見て、ついからかってしまっていた


「ところで...エミリの頭の上の光っている玉は何の意味が?」


「驚きだ、それも見えるんですね...この光は人間で言う魂みたいなものです。応募者の魂、つまり全てを晒して偽りの無い面接をするのです」


「因みに、●●さんの頭の上にもありますよ」


「え?何処に?見えないけど」


「残念ながら本人には見えません」


一息ついた後、田中さんが話を続けた


「このBAR【異世界】の役割は並行世界と異世界を繋ぐ唯一の場所。並行世界から異世界へ行くには私の面接を受けて合格し、異世界行きを推薦された者のみとなります」


「並行世界の人間を異世界へ行かせるメリットは?並行世界の人間も面接を受けてわざわざ異世界へ行くぐらいだからメリットがあるはず」


「その通りです。正直に言いましょう。我々があなた逹を異世界へ送るメリットは大きく2つあります。」


1.異世界の均衡を保つため

2.並行世界の優秀な人間の遺伝子


「1.の異世界の均衡を保つとはどういう事?」


「異世界は並行世界の数だけ国があります。つまり、異世界に12の国があり、並行世界の人間が合格すると12の国のどこかへ転送されることになります。12国間の関係は微妙なバランスで成り立っており、並行世界の優秀な人間を受け入れ戦力として活用している国が大半です。」


「要するに、お互いの国が並行世界の人間を戦力にし牽制しあう事で異世界の平和を維持していると言うこと?」


「そういう事になります」


「じゃあこっちの世界...ようするに並行世界の人間のメリットは?」


「●●さんが先程教えてくれた7つのポイントに沿って説明しましょう」

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