1-6. 全員生き埋め!?

 レオは王女に、

「ヤバい、ヤバい、逃げよう!」

 そう言って、王女の手を握って駆けだした。シアンが何かをやろうとする時は逃げた方がいいと、レオは学習したのだ。


 やがて辺りは夜のように真っ暗になり、空に巨大な金色の円が描かれた。そして、中に六芒星ぼうせいが描かれると、その周囲に不思議な文字が高速にびっしりと描かれていき、魔法陣を形成していった。それは神々しさすら感じられる美しい光景だった。


 レオが振り返ると、魔法陣が出来上がり、そこからまっすぐ下に光芒こうぼうが放たれていった。

 シアンはその光芒の中で楽しそうに浮かんでいる。青い髪をゆらし、スカートがはためき、その様子はまるで神話に出てくる天使の様だった。

 徐々に光芒は強くなり、目が開けていられないくらいの激しい明るさに達した直後、シアンは両手を穴へと振り下ろす。


 ズズーン!


「うわぁぁぁ」「ひぃっ!」

 激しい地鳴りがして大地震のように地面が揺れ、レオも王女も倒れ込んでしまう。


 揺れが収まり、恐る恐るレオが後ろを振り向くと、大穴だった所には小高い丘が盛り上がっていた。


「えっ?」

 レオはゆっくりと起き上がりながら様子を確認するが、それは土砂が積みあがった工事現場のようになっていた。


「うーん、これじゃ道が引けないなぁ……」

 シアンはそう言うと、再度両手を振り下ろした。


 ズーン!

 激しい地鳴りが響き渡り、道の所だけ一直線に凹んで、切通のように成形された。


 レオも王女も唖然あぜんとしてその恐るべきシアンの技に圧倒される。


「僕はね、『王女様を助けて』ってお願いしただけなんだ……」

 レオは青ざめながら言った。

「ありがとう……。彼女は何者なの?」

「深淵より来た根源なる威力オールマイティって言ってたよ。神様より強いんだって」

「神様より!?」

 王女は丸い目をしてレオを見つめた。

「悪い人じゃないと思うんだけど、なんだか雑なんだよね……」

 レオは渋い顔をして首を振った。


 シアンは道の出来を見て満足そうにうなずくと、

「道をつなげたよー」

 と言いながら、レオ達のそばにシュタッと着地する。


 レオも王女も言葉を失ってただシアンを見ていた。

「あれ? もう大丈夫だよね?」

 シアンはニコニコしながら言う。

 レオと王女はお互いを見つめ合って言葉を探した。


「お、お疲れ様。でもなんでこんな盛り上がっちゃったの?」

 レオが聞いた。

「うーん、吸い込んだものをそのまま戻しただけなんだけどな……。まあ、道が通ればいいんでしょ?」

 シアンはうれしそうにそう言った。


「えっ!? これ、吸い込んだ物なの? じゃあ、吸い込まれた人はどこに居るの?」

 レオが不安そうにシアンに聞く。

「えっ?」

 シアンは驚いたようにレオを見る。

 嫌な沈黙の時間が流れた。


 シアンは急に駆け出すと、手を使ってザクザクと丘を掘り始めた。

「まさか……、生き埋め……なの?」

 王女は不安げに言う。

「ま、まさか……」

 レオは青い顔をしてシアンを見つめた。


 やがてシアンは何かを掘り当てたが……、困惑した表情を浮かべ、また埋め戻してしまった。

 遠目には誰かの腕のようだったが……。


 もしや全員殺しちゃったのではないだろうか? レオと王女は蒼ざめた顔でお互いを見つめ合った。


 シアンは目を閉じてうつむき、額に手を当てて考え込んでいる。


「うーん……、うーん……」

 シアンはうなり始める。

 レオも王女も不安そうにシアンを見つめた。


 しばらくうなった後、

「よいしょ――――!」

 と、叫びながらシアンは斜め上にこぶしを振り抜いた。すると、空中に巨大な魔法陣がぼうっと浮かび上がり、そこから道の上にドサドサドサっと多くの人や馬車、馬が落ちてきた。

 騎士たちは「いてて……」と言いながら、尻もちをついたまま腰をさすったりしている。黒装束の男たちも同じように落ちてきたが、彼らはピクリとも動かなかった。


「ふぅ……。これでいいかな?」

 シアンは戻ってくると、ニコッと笑って言った。


 レオは唖然あぜんとしてボーっと彼らを見つめる。吸い込んだ人を吐き出すような魔法なんて聞いたこともなかったのだ。なるほど、確かに神様より強いのかもしれない。しかし、その行き当たりばったりな雑さに、一抹の不安をぬぐえないレオであった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る