第12話鍛錬の積み重ね


 それからもベイルロディア山脈に通いドラゴンを倒して鍛錬を重ね続けた。一匹の蛇のようなドラゴンが地面を凄い勢いで這いずり、クーに襲い掛かる。クーはその速さに惑わされる事なく、噛み付き攻撃を剣で弾き返す。文字通り、蛇のような体をしたスネーク・ドラゴンだ。スネーク・ドラゴンはクーの反撃の剣が来る前にクーの射程内から離脱し、次いで、リスティに襲い掛かる。待ってましたとばかりに自分に噛み付いて来たスネーク・ドラゴンに対してリスティは片刃剣を振るい、その頭を斬り付ける。切り裂く事は叶わなかったがそれなりのダメージは与えたようだ。スネーク・ドラゴンが慌てて退避しようとするが、それに追いつき、エリアが槍で今度こそ脳天を串刺しにする。これにスネーク・ドラゴンは息絶える。このスネーク・ドラゴン、体が小さいからあまり強そうに見えないのだが、このなりでもレッサー・ドラゴンなどよりは余程、強い。それを倒せるようになった三人も順調に強くなっているという事である。


「ふう。私たち、強くなれてますよね?」


 クーが剣を鞘に戻す事なく問い掛ける。俺は頷いた。


「ええ。三人共、見違える程、成長していると思います」

「ま、あれだけドラゴンたちと戦ったんだしねー」


 リスティは自信満々だ。エリアは無言で黙々と周囲の警戒をしている。少し浮ついたムードにあたりが包まれたかと思った時、空から耳障りな鳴き声が響いて来た。全員で空を見上げる。そこにはワイバーンが群れを成して襲来した所であった。レッサー・ワイバーンではないワイバーンだ。当然、レッサー・ワイバーンなどより余程強い。三人はそれぞれの武器を構える。まずワイバーンたちは口から火炎を吐き出し、空中から攻撃して来た。この時点でレッサー・ワイバーンとは違う。炎を吐く能力も退化した下等なドラゴンたちとは違うのだ。それらを散開して回避した俺たちにワイバーンは襲い掛かって来る。一匹のワイバーンがリスティに爪で攻撃を仕掛ける。リスティは片刃剣でそれを弾き、返す刃で斬り付けようとした際には既にワイバーンは空の上だ。


「こんのお!」


 苛立った様子でリスティは片刃剣を投げ付ける。無謀な行為に俺の顔が青くなる。一本しか持っていない武器を手放すなんて! しかし、投擲された片刃剣はワイバーンの翼に食い込み、ワイバーンの一匹の高度が下がる。そこにエリアが槍で突きを繰り出し、ワイバーンの一匹を倒す。そこからリスティは片刃剣を回収する。仲間がやられた事に他のワイバーンたちはいきり立ち、一気に襲い掛かって来る。見境なしだ。俺も剣を抜いて構える。俺が剣を抜けばやはり刀身に黄金の光が纏わり付く。それぞれに攻撃を仕掛けて来たワイバーンをそれぞれ迎え撃つ。リスティは片刃剣で爪を弾き、今度は高度を上げないと見るや逆に斬り込み、羽根を狙う。エリアも槍で攻撃を防ぎ、やはり羽根を狙って突きを繰り出す。クーも小柄な体躯ながらワイバーンの猛攻を剣で防ぐ。そして、俺もワイバーンの攻撃を神の加護を得た剣で防ぎ、剣を振るえば神の加護の力で黄金の剣圧が飛び、ワイバーンを撃墜する。リスティの斬撃で羽根を切断されたワイバーンが地面に墜落し、すかさずリスティはその首を斬り付けて刎ねる。エリアも連続突きを繰り出し、ワイバーンを倒す。クーは苦戦しているようであったが、なんとかワイバーンと互角の打ち合いをし、クーの剣がワイバーンの羽根を切り裂く。あまり深い傷ではなかったがこれに怒ったワイバーンはクー目掛けて攻撃を続行。その隙を突き、クーが剣を繰り出し、ワイバーンを倒した。

 これにて襲来したワイバーンは全て倒した事になる。流石にワイバーンの集団ともなると相手をするのに骨が折れる。俺たちは休息を取る事にした。


「食事にするわよ」


 リスティが言い、持って来ていた食料をアイテムボックスから取り出す。火打石で火を付けるとその上にフライパンを置き、肉を焼き始めた。適当に焼き上がった所でパンで挟みサンドイッチにして全員に配る。ベイルロディア山脈で鍛錬中の食事はいつもこんな感じだ。最初は聖女様にこのような下賤な物を! と反応していたエリアも今では何も言わない。元々が現代人で男だった俺にとってはこういうストレートに味が付いた物の方がありがたいのでリスティのチョイスには感謝したい所だ。


「さっきのワイバーンの襲来はちょっとやばかったわね」

「そうですね。今の私たちではレッサー・ワイバーンはともかくワイバーンは余裕……とはいかないのが現状です」


 食事しながら先ほどの戦いをリスティとクーが振り返る。ワイバーンもそれなりの強敵。並の冒険者なら命を落としかねない。それと戦ってこうして五体満足でいられるのだからここにいる面々も並は超越していると言う事になる。


「ですが、倒せました。私たちもさらに強くなればワイバーンも余裕で倒せるようになるでしょう」


 エリアがそう言ってこの先へのステップを見据える。ワイバーンくらい余裕で倒せるようにならなければ、魔王討伐なんてとても出来ないという事だ。


「そうですね」

「まぁ、ワイバーンくらいは余裕で倒せるようにはならないとね」


 クーとリスティも頷く。このパーティーの最終目的は魔王の討伐だ。それを分かっているが故のそれぞれの反応であった。

 今はまだワイバーンには苦戦するが、この調子で鍛錬を重ねていけばワイバーンとて余裕で倒せる日が来るだろう。そうやって強くなっていけばいずれ魔王にも届く。俺はそう信じたい所であった。

 食事が終わり、各自立ち上がる。このまま帰ってもいいのだが……。


「さて、どうする? 今日はこの辺にしておいて帰る?」


 挑発するようにリスティが訊ねる。エリアとクーは示し合わせたように同じ答えを返した。


「ご冗談を。私はまだまだ戦えます」

「私もまだやれます! もっと強くなるために、戦います!」


 これにリスティは我が意を得たりとばかりに笑みを浮かべ、それからもベイルロディア山脈でのドラゴン相手の鍛錬は続く。結局、その日は黄昏時になるまで鍛錬を続けてベイルの町に帰還するのであった。

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