第4話いきなり魔王と遭遇!? 絶体絶命!


 それから数日後。ついに俺の剣と鎧が完成した。自室まで持って来てもらいご対面となる。剣は刀身が白銀に輝き、柄の方にも凝った意匠が施されている。鎧の方も聖教会の紋章が胸甲に刻まれ、白銀の色合いの神聖な雰囲気を感じさせるものだ。どちらも文句は無い。無いのだが。


「あの……これ、どのように着たら良いのでしょう……?」


 悲しいかな。現代日本人の俺には鎧の着方なんぞ分かるはずがなかった。それをリスティは聖女だから世間知らずなんだ、と捉えてくれたようだ。エリアは何も言わない。


「仕方がないわねぇ。私が着せてあげるわ」


 そう言い、ドレスを脱がされる。今は同姓とはいえ、少女の前で裸を晒す事に気恥ずかしさを覚える。鎧の下に薄皮を着込み、その上から鎧をリスティに着せてもらう。なんだか、変な感じだ。妙な感情が芽生えそう。って俺は百合じゃない! いや、俺の精神は男だから百合って訳でもないのか? よく分からないな。ともかく、俺は鎧を着終わった。


「わぁ……」


 部屋の鏡で自分自身を見て感動する。鎧を着込んだ俺の姿は神々しく、神聖で、カッコよく、美しい女剣士と言った感じだ。自分の体なのに綺麗だと思ってしまう。この体にまだ慣れていないんだから仕方がない話だが。


「なかなかサマになっているじゃない」

「綺麗です。聖女様」


 リスティとエリアもそう言って俺を褒めてくれる。俺としても文句は無し。これでいつでも旅に出られる。


「それじゃあ、魔王討伐の旅に出発しましょうか」


 リスティがそう言う。そこで俺は気になっていた事を話した。


「あの……リスティは軽装のようですが、旅の道具などは?」

「ん? アイテムボックスに入れてあるけど?」

「あいてむぼっくす?」


 聞き慣れない単語に俺が問い返すと怪訝な目で見られた。


「聖女様ってそんな事も知らないの? 持ち物を異空間に入れておく場所の事でしょ? 二十人に一人くらいは持っているそう珍しくもないスキルよ? 私はそれを持っているからソロで冒険者やれてる訳だし」

「あ、ああ……そうなんですね」


 そんな便利な物があるのか。それなら旅をする分には困る事はなさそうだな。俺が安心し、ついに旅に出発する事を神官たちに告げる。最後まで神官たちは俺を引き止めようとしていたが、俺はそれを振り切り、リスティ、エリアと共に聖教会を出て聖クレセント王国王都ブラーサーを出る事にする。この王都の栄えた光景もしばらく見れなくなるか。ブラーサーに帰って来てすぐ聖教会に戻り、そこから王城、聖教会と行き来していて、この王都の風景はあまり見ていない。もう少し記憶に焼き付けておきたい所だったが、リスティは早く出発したいようだった。


(それにしても胸がしっかり支えられているってのはいいな)


 鎧に大きな二つの胸はしっかり収まり固定されている。窮屈な思いもしない事はなかったが、これで剣を振り回してもブルンブルン揺れる事はないだろうし、走ったりするのも問題はないだろう。とことん女性の体というものはあまり戦闘に適したデキをしていないのだと思い知らされる。そんな中でリスティやエリアは戦闘を生業としているのだから大したものだと思う。


「それにしても魔王の討伐って魔王がどこにいるのか分かるのですか?」


 俺はリスティに訊ねる。もしかしたらこの世界では基礎的な知識なのかもしれないと思ったが、その場合、世間知らずの聖女様で誤魔化そうとの魂胆だ。が、この質問にリスティは考え込む。


「そこなんだよねぇ。魔王の拠点は未だ割れていないわ。それを調べながらの旅になると思うんだけど……」

「長旅になりそうですね。資金は大丈夫なのですか?」

「それは大丈夫です。聖女様」


 俺の懸念に答えたのはエリアだった。


「聖堂金貨を大量に預かっております。これがあれば二年は旅を続けられるかと」


 一体いくらくらいの価値の金貨を持っているんだ、と思ったが突っ込まない事にした。エリア。顔色一つ変えずに言う事じゃないだろう。聖教会の騎士としてポーカーフェイスが身に付いているのか。


「それは頼もしいわね!」


 嬉し気にリスティが笑う。彼女自身の手持ち金だと少し心許ない所があったのであろう。ともあれ、それなら心配はない、か。


「それじゃあ、早速、出発よ」


 そしてついに王都ブラーサーを出る。門番の憲兵に挨拶して、野外に出る。ここから行く宛ての無い探索の旅が始まるのか。そう思いながら王都を離れて歩いていると、森の茂みから魔物が飛び出して来た。俺がこの体に宿った直後に戦ったのと同じタイプの猿型の魔物だ。


「マリシャス・エイプね! 二人共、気を付けて!」


 そう言うとリスティは後ろ腰に掛けたベルトで吊るされた鞘から片刃の剣を抜き放つ。エリアも背中にかけていた槍を構える。俺も新品の剣を鞘から抜き放った。その刀身が金色の輝きを帯びる。神様の御加護とやらは健在のようだ。これならば充分に戦える。

 マリシャス・エイプとやらが一匹、俺に迫って来る。その爪が振り下ろされる前に剣を振るい、その体を両断する。他の二人は、と見ると、リスティは片刃の剣を振るってマリシャス・エイプを斬り捨てていた。Aランク冒険者は伊達ではないらしい。エリアも槍で鋭い刺突を繰り出し、マリシャス・エイプの胸を刺し貫く。こちらも聖教会の騎士として鍛錬を重ねて来たのは伊達ではない。


「はあっ!」


 俺も不慣れながら神の御加護のおかげで剣を振るいマリシャス・エイプとやらを斬り捨てていく。そうしていく内にリスティもエリアもマリシャス・エイプを倒し、敵は全滅した。


「いよっし! 幸先良し!」


 リスティが笑みを浮かべて片刃剣を鞘に収める。俺も剣を鞘に収めた。エリアも槍を背中にかける。確かに出だしとしては悪くない。少女三人旅でどうなる事かと正直、少し不安に思っていた所があるのは事実だが、この分ならいい感じにいけそうだと思える。

 そうして道を歩くのを再開する。


「とりあえずどちらへ行くのですか?」

「んー、この先にサーウの町ってでっかい町があるからそこで情報収集かな」

「なるほど……あ」


 俺は気付いた。道の真ん中に一人の幼い少女が立っている。リスティやエリアよりも幼い。小さな背丈の銀髪赤眼の少女だった。


「ん? 君、どうしたの? こんな所で一人?」


 リスティが思わず、と言った様子で声をかける。少女はくすり、と笑みを浮かべた。


「お姉ちゃんたちの方こそ可愛い女の子が三人揃って何をしているの?」

「私たち? 私たちは魔王討伐のための旅の最中よ!」


 信じて貰えるのか。俺はそう思ったが自信満々にリスティは言い切る。が、その瞬間、俺の、聖女の体に宿った善悪を見極める目が最大限で危険信号を鳴らした。思わず叫ぶ。


「リスティ! その娘から離れて!」

「聖女様? どうして?」

「ふふふ……それならわたしの敵だね、お姉ちゃんたち」


 少女がそう言って笑みを深くする。その笑みに恐怖を覚える。リスティの体も固まる。尋常ならざる事態だと察したのだろう。エリアに至っては既に槍を構えている。


「なんたって……わたしがその魔王なんだから……!」


 その言葉と共に少女の、いや、魔王の体が空中に浮遊する。そうして俺たちを睥睨する。

 旅の出発から一日も経っていないのに討伐目標の魔王と遭遇。それを喜ぶ気にはなれなかった。今、魔王と戦えば間違いなく自分たちは全滅する。その確信を持っていたからだ。だが、魔王は既に俺たちを敵と認識して今にも襲い掛からんとして来る。

 どうする?

 俺は神の御加護があるのなら、今、この瞬間、訪れてくれ、と願う事しか出来なかった。

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