出発

「まぁまぁ、2人とも落ち着いて。エリーナも、リードはそんな悪い人じゃないよ。困ってるところを助けてくれたからね」


キールは険悪な2人の間に割って入った。




「でも、この方は!」




「助けたことは事実だぜ。いい人かどうかは定かじゃないがな・・」


エリーナが何かを言いかけると、それに被せるようにリードはエリーナを制した。




「くっ、分かりました。社長が同行人を選ぶという約束でしたしね。しかし、気をつけてくださいね」


エリーナが折れるとキールも2人のつっかえ棒をしていた手を下ろした。




「それじゃあ、行ってくるよ!時間も迫ってきてるしね!」




そういうと、キールとリードは馬車に乗り込み出発した。






「気をつけてください。その方は、若くして暗殺者ギルドのギルド長になった人ですよ・・・・・」




エリーナのつぶやきがキールに届くことは無かった。










「ふー、やっと門の外に出れたよ。いよいよ旅の始まりだね。じゃあ、改めまして、俺はキール、よろしくな」


キールは馬車の手綱を掴みながら後ろを振り返った。




「なんとも呑気な奴だな。リードだ、裏道を通ったら情報源を話してもらうからな」


リードが馬車の荷台に座っていた。馬車を用意したエリーナにとって、座る位置関係は逆のつもりであったのであろうが。




「うんうん、でも、まずは旅を楽しもうよ・・・・ん~、このシャキシャキ感がたまらん」


テキトーに相槌すると、キールは魔法鞄からサンドイッチを取り出し食べ始めた。




「ほう、魔法鞄か。荷台に荷物がないとは思っていたが、やはり持っていたか」


リードが珍しい物を見たという顔をした。実際、魔法鞄を所持している者は世界の権力者の中でも本当に僅かなのである。




「そうかな?うちの社員はほぼ全員持ってるよ?作れるからね」


キールは、「へー」とその重要性にいまいちピンと来ていなかった。




「・・・・・・・そうか、流石だな」


リードは少し目を見開き、絶句していた。






魔法鞄を生産できる技術、そしてその貴重なものを末端の人間にも渡しているだと!?・・・・奪われることはないのか?それとも何か仕掛けが?




「奪われることはないのか?」


しばし考えてみたが答えが出なかったので、リードは直接聞いてみることにした。




「あー、ちょくちょくあるみたいだね。でも魔法で使用者を登録してあるから、奪った人は使えないんだよね。それに発信器もあるから、捨てたり売られたりしても回収できるらしいよ」


キールは、ミルカが初めて魔法鞄を完成させたときの事を思い出しながら答えた。




「なるほどな」


ただの配達会社が持っていい技術力をはるかに凌駕しているとリードは考えながらも、深くは追求しなかった。






それから、しばらくすると、平原を抜け、森の中へ入っていった。








森の中を進んでいくと、進路に人が出てきて馬車を急停止させた。




「うわぁ!危ないですよ!急に出てきたら!」


キールが目の前の人物に注意した。




「それはすまないな。けど、危ないのはそっちの方だぜ?へへへへ」


男が下卑た笑みを浮かべると、わらわらと10人ほどの男どもが草むらや、木の裏から姿を現した。




「痛い目にあいたくなけりゃ、金目の物を置いてきな!」


盗賊達は一斉に武器を取り出した。




「よし!リード・・・分かってるよね」


キールが振り返り、リードに確認した。




「ああ、分かっている」


リードも頷き返した。






そして2人は手を挙げながら馬車を降りた。




「いくぞ・・・3・2・1、ゴー!!」


リードがカウントダウンを始め、合図と共に2人は一斉に動き出した。






「・・・ハァッ!!・・ッ!!」


「命だけは勘弁してください!!!」




リードは一瞬で敵に詰め寄り、次々と倒していた。


キールは、完璧な土下座を決め込んでいた。




2人のちぐはぐな行動に、盗賊達は、混乱してしまい、その隙にリードが倒していった。






盗賊達は次々とくたばり、一瞬にして、場は収まった。






「・・・・何してんだ?・・・・・」


リードは地面に膝をつき頭を垂れているキールを見て、不思議に思っていた。リードの考えとしては、各個撃破を思い描いていた。






「何って、土下座だよ?金目の物って言っても、魔法鞄だけだし、これは俺以外に使えないしね。命乞いをして許しを請って、見逃して貰えるなら儲けものじゃない?」


キールは何を言っているのか分からないという顔をして、首をかしげた。




「そう言う考え方をするのか・・」


リードは、少し感心したように、腰に手を当て、眉を上げた。




「それにしても、やっぱり強いね。流石だよ」


キールは、辺りを見渡し、全滅した盗賊達を見た。




「まあな・・・・・」




やっぱり?・・俺のことは知っているようだな。俺が暗殺者ギルドのギルド長を辞めたということも知った上で近づいてきたのか?食えない奴だな。




リードは盛大な勘違いを起こしていた。




「とりあえず、そのまま進もうか」


キールとリードは再び馬車に乗り込み、走らせた。








「そろそろだな、御者を代わろう」


リードは、キールと手綱を代わり、『裏道』へと道を進めていった。




「この道は、何故か魔物がでない。しかし、それには寸分の狂いもなく細い道を行かねばならない。素人が知識だけでどうこうなる代物ではないからな」


御者を代わることを、残念そうにしているキールを心配し、リードは代わるべき理由を述べた。




「旅の醍醐味が・・・・」


キールは相変わらず旅を楽しみたいだけであった。


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