第18話 一番恐い人は……

その日の夜。

珍しくカーネルの部屋の中にて。

カーネルはルイスにこれまでにないほど激怒していた。


「ふざけないで! 何よ試合中にボーッとして!」


彼女の怒りが頂点に達したその時、剣聖による本気のパンチがルイスの頬に的中した。

それを受けたルイスは、背後の壁まで飛んでいき、全身を強く打ちつけた ──


「……、すみませんすみませんすみません! マジですんませんした!」


──が、直ぐに土下座をし始めた。

鼻からは鼻血がドバッと出ており、彼の額は床に擦り付けられている。

そんな彼の様子に、ハァとため息を吐いてから、カーネルはなるべく怒りを抑えて言葉を紡いだ。


「流石にやりすぎたわ。でもこれだけは言わせて。もう二度とあんな姿を見せないで」

「はいっ! 絶対の絶対に!」


ルイスは土下座したまま、力強く即答する。


「後、次の試験で落ちたら、どうなるか分かっているわよね?」

「は、はい!」


ルイスは今日、この世で一番恐い存在を知ってしまった。

それは、ここ最近一番身近にいた人物。

──カーネル・クリューツ。

これは絶対に怒らせてはいけない存在だ。

心にそう刻み込んだルイスであった。




例の件から数日が経ち、遂に最後のチャンスがやってきた。


「それじゃあ。絶対に合格してくるから」

「絶対にね」


今のルイスには、前のような緊張はない。

絶対に勝つ。それだけだ。


この日もルイスは一回戦目であり、控室へと向かう。

暫く精神統一していると、控室のドアが開かれた。

この部屋にはルイスを含めて四人しかいなかったので、おそらく最後の一人だろう。

だが、それはあまりにも予想外の人物だった。


「ッお、お前……」


動揺しながらルイスを指差す受験者。

その正体は──


「……クラウス・ミース……」


かつてルイスを馬鹿にしていたCランク冒険者。

カーネルとパーティを組んでから顔を見ていないと思ったが、そういうことか。


「な、なんでお前がここにいるんだよ……。Eランク冒険者の雑魚が、受かるわけないだろ」

「もうEランクじゃない。俺はAランクだ」

「何を言ってるんだ! そんなわけ──」

「待機室にいる受験生の方々。まもなく第一試合が始まりますので、試合場へと向かってください」


クラウスの声が、審判の声によって遮られる。

信じられない、といった顔をしている彼を無視して、ルイスは試合場へと向かった。




今回は八人ではなく、五人となっている。

剣士は二人、魔術師と弓士が一人ずつで、残る一人がルイスだ。

弓士は命中精度、速度ともにトップクラスの遠距離攻撃を放つことが出来るので、注意するべきだろう。


「それでは、試合開始!」


審判の声が響き渡ると同時に、クラウスがルイスへと突っ込んだ。

大きく剣を振りかぶった彼は、勢いよくルイスへと振り下ろす。

ルイスは、それを片手の剣で下から抑えようとした。

クラウスはああ見えて【剣豪】を授けられている。

剣の技量だけであったらルイスを大きく上回るだろう。

よって。


「おいおい、多少は強くなったみてぇだが、まだまだだなぁ」


ルイスは彼に押されている。

だが、これが最大の好機だ。

もう片方の手に持った杖をクラウスに向けて。


炎の大砲ファイア・キャノン


大きな炎の球が間近から放たれる。


「ックソ!」


慌てて避けようとするクラウスだったが、この距離からは不可能だ。

もろに攻撃を受けた彼は、あまりの激痛に意識を失った。

周りを確認すると、残るは弓士のみ。

しかし、その弓士はもう満身創痍の状態であった。


旋風トルネード!」


杖の先から途轍もない勢いの風が巻き起こされる。

それは弓士を呑み込み、場外へと吹き飛ばした。


「第一試合、勝者ルイス・サストレ!」


あぁ。合格だ。


「よっしゃぁぁぁ!」


彼は勝利の雄叫びをあげた。

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