第14話

「さすが皇太子さま、私の見込みどおりの素晴らしいお考えをお持ちです。我が藤原家もその昔、光明子さまが貧しい人々の背中を洗って差し上げたり、薬師寺をお建てになったりいたしました。微力ながら、私めにも協力させていただきます。そして天皇家、藤原家共に手を携えて国民のために力を尽くしましょう」


 藤原家を強調する良房に道康は内心嫌気がさしたが、良房が協力してくれるのは意外だった。昔は藤原家も天皇家に協力して国造りを手伝い、その気持ちがまだ良房にも残っていたかと道康はつい油断が生じた。

 その間、隙を突いて良房は奥の手を使った。


「全面協力をお約束いたします。その代わり娘の明子のほうにも月に一度だけでも足をお運びしていただくようお願いいたします。私は娘が不憫でなりません。この哀れな父を救うと思ってどうかお助けしていただきたい」


「今まで、すまないことをして悪かった。

私は、明子殿に甘えてつい行きそびれてしまっていた。これからは明子のもとにもいくよう心がけます」


「ありがとうございます。王子さま。あなたは本当

にお優しく心が澄んだお方です。いたらない娘ですが、どうか末長くお側においていただくようお願い申し上げます」


 良房にはわ本心道康に協力する気は全くといっていいほどなかった。逆に、内心甘い道康を鼻で笑っていた。彼は、ただ娘の明子に道康が通ってもらうのが目的だった。ここでどうにか皇子を産ませ、その皇子を皇太子にするよう、大臣に根回しするとまで思いを巡らせていた。

 道康は、その良房の企みに気づかなかった。道康は早速明子の元にいく準備を始めた。 

 明子邸では、道康の久しぶりのお渡り大盛り上がりであった。道康のために豪華な衣装、食事が用意され、楽しい舞いが次から次へと躍られた。全力のおもてなしに道康の心も和んできた。明子も、嬉しそうだった。

 道康は、明子には悪いことをしたと哀れに思った。なにも、明子には罪はない。ただ父の言われたとおりに結婚させられたのだ。明子には、今まで可哀想な事をしたと道康は反省した。

 賑やかな宴会が終わると片付けが急ピッチで行われ、あっという間に寝仕度ができた。寝室に入ると、明子が布団の横で緊張した面持ちで座っていた。

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