第30話 命をかけた戦い

闘技場に残されたアクス。

そこへ、かげから見ていたジベルが近づいていった。

「アクスさん…?アクスさん!起きてくださいよ!!うぇぇぇん!!アクスさんが死んでしまいましたぁぁ!!」

地面に膝を付きながら、アクスの耳元で延々と泣き喚いた。

「………うる……さい………」

アクスが言葉を発した。

酷く弱り、かすれた声しか出なかった。

「えっ!?生きてる…?」

「いきて…るよ…」

「うわぁぁぁん!!生きてましたぁぁ!!」

「だから…!うるせえ……」

「すみません…でもどうやって生きて…」

「サリアから…ならった…回復魔法で……止血だけしたんだ…」

「いやいやいや!止血すれば助かる怪我けがじゃないでしょこれ!!」

「そんなことより…おまえの持ってる魔力を…俺に…分けてくれ……」

「魔力を?分かりました」

ジベルはアクスの体に手を置き、目をつぶって力を送り始めた。

ジベルの手からアクスの体へと伝わり、魔力が全身へと行き渡っていく。

「……もう大丈夫だ…あとはなんとかする…」

アクスは大きくうなり声を上げ、斬られた四肢の断面から氷を生やした。

氷は本物の肉体の様な形になり、なんの不自由も無く立ち上がった。

「すまねぇ…助かった…」

歩ける様になったアクスは、ジベルに礼を言って歩き出した。

「………あっ!待ってください!私も行きます!」

先を行くアクスを追い、ジベルは走り出した。


その頃、下でも激しい戦いが続いていた。

リーナとジーニンの戦いであった。

『ボルケーノストライク!』

足に炎を纏い、ジーニンの頭上からかかとを振り落とした。

『チェンジメタル!』

突如ジーニンの体は鉄の様な色に変わり、リーナの攻撃を弾き返した。

攻撃を仕掛けたリーナの方が逆にダメージを受け、足から血が出ていた。

「ぎゃはは!痛えだろ?俺は体内に貯めた金属を溜め、自分の思うがままに操る事ができる。今の俺はまさしく鉄…いや、はがね以上の硬度だ!!」

はがねねぇ…」

普段のリーナならはがねくらいなんてことないが、負傷した今のリーナに破壊するほどの力は無かった。

「そして!俺の速さはルーン星人で一番!!」

ひじを前に突き出し、身を低くした状態でリーナに突撃した。

巨体からは想像もつかない速さでリーナにタックルをかました。

「がっ…はっ!」

防ぐ事が出来ず、一撃をもろに受けたリーナは、地面に空いた穴へとふっ飛ばされて行った。

「まだまだぁ!!」

それを追うようにジーニンが飛んだ。

「これで正真正銘のとどめだ!!『メタルスプラッシュ!!』」

尻をリーナへと向け、上からのしかかろうとした。

巨体は重力で速さを増し、リーナのすぐ前にまで迫った。

するとリーナは飛んだ。空を蹴った。

空をったリーナは、一瞬でジーニンの上を取った。

「これでとどめよ…」

再び足に炎をまとった。それは先程さきほどよりも赤く燃えていた。

「もう一度来てみろ!お前の足は粉々になるぞ!!『ハイパーメタルモード!』」

ジーニンの体はより輝きを増し、硬度を増した。

縦に何度も回転し、回転の力を加えた蹴りをジーニンに向けて放った。

『ヘル・ボルケーノストライク!!』

放たれた蹴りはジーニンの頭にめり込み、その熱さで体を溶かした。

「あっ…!ぐべ…」

「落ちろぉ!!」

足を振り下ろし、地面へと叩きつけた。

勢い良く落とされたジーニンの体は地面をも割り、さらに下へと落ちて行った。

「ようやく静かになったわね…鉄クズ風情ふぜいが」

落ちていくジーニンをながめ、ユニシアは心に溜まっていた感情を吐き捨てた。

「リーナさーーん!無事ですかぁぁ!!」

上からヘルガンが穴を覗き込み、リーナに声を掛けた。

リーナは空を蹴り、穴の上まで上がって行った。

「こっちは片付いたわよ。で、他の奴らは?」

「幹部以外大したことなくてな、すぐに終わったぞ」

「そう…じゃあ私達は脱出の準備を…」

「アクスさんを放っといていいんですか!?」

「……あいつならどうにかするわよ…それより…もう…限界……」

話を終える前にリーナは疲れ切ったのか、その場に倒れ込んだ。

「わあっ!大丈夫ですか!?」

「おーい!薬や包帯を持ってきてくれ!」

リーナの戦いは幕を閉じた。


一方サリアは、城の中を走り続けていた。

後ろからは兵士達が躍起やっきになって追う姿があった。

「待てぇ!!逃げるなぁ!!」

「はあ…はあ…!まったくしつこいわね!」

追手おってに振り向き、地面に両手を付いた。

『ラージュ』

簡単な回復魔法を唱えた。

すると地面が突如朽ち果て、追手おって達が穴の下へと落ちて行った。

追手おっては消え、再び城を走り始めた。

しばらく走ると廊下の曲がり角から声が聞こえ、サリアは壁にくっつき息を殺した。

曲がり角から数十人の兵士が現れた。

負傷した者達が多く連れられていた。サリアを探しに来たわけではないようだ。

「ユニシアの言った通り…戦いは始まっていたのね。早くアクス達と合流しないと」

サリアはユニシアからあらかじめ話を聞いていた。

今はアクス達と合流しようと城を走り回っていた。

しかし迷子になっていた。

「それにしても…どっちへ行けばいいのかしら…下から音が聞こえるし、穴を開けた方が早いかしら」

兵士達が通り過ぎた後、床を触って考え始めた。

すると再び、足音が聞こえた。

あわててサリアは身を隠す。

足音の正体は影からゆっくりと現れた。

「…!ユニシア!」

味方であるユニシアに会えてほっとしたのか、大きく息を吐いた。

「よかった無事だったのね!でもどうしてここに?パルーンを暗殺してくるって言ってたのに」

「サリア様、私に付いてきてください」

サリアの問いかけにも答えず、ユニシアは言った。

「何かあったの!?詳しく説明して!」

「私に付いてきてください」

変わらぬ冷たい態度で言った。

どこか異様な雰囲気にサリアは怪しがり、恐る恐る心を読んだ。

「えっ……なにこれ…」

サリアが見たのは、真っ黒だった。

ただ真っ黒で、何もない心だった。

「ユニシア…あなた何をされたの…」

「……付いてこないとあれば、反抗とみなしちからづくで連れいきます」

ユニシアは剣を抜いた。

「ユニシア!目を覚まして!!」

サリアの言葉など今のユニシアには届かず、容赦ようしゃの無い斬撃を放った。

斬撃は飛び、サリアの足を斬り落とした。

一度に両足を斬られ、地面へと倒れ込んだ。

「両足の切断を確認。これより連行を開始」

倒れたサリアに近づこうとした時、サリアの斬れたはずの足が元に戻り、ユニシアは足払いをかけられた。

体勢を崩し、宙に浮いたユニシアにさらに魔法を放った。

魔法陣が出す事も無く、魔法を唱える事もせずに突風を生み出した。

遠くに吹き飛ばされながらも、ユニシアは壁をつかんで勢いを殺した。

「サリア様のデータに無い魔法。リーナが使用する魔法と酷似こくじ

「特別に教えてあげる。普段は一般人として過ごすためにわざわざ魔法陣なんか使ってるのよ!」

「データを更新。新たに得た情報を元に戦闘を再始動します」

淡々たんたんと言葉を発し、剣を構えてリーナに向かって行った。

『アイスウォール!』

サリアは自身の前に分厚い氷の壁を作り出した。

だがユニシアは、目の前に現れた壁を容易よういに斬り捨て、サリアへとせまった。

ユニシアが後ろに回り込んだ時、サリアは自身の体に炎をまとった。

「無駄です」

ユニシアは熱さなど気にせず、炎を越えてサリアの髪をつかんだ。

さらに足で背中を押さえつけ、地面にひざを付かせた。

「動けぬように拘束させていただきます」

「……そうは…いかないわ!」

サリアは自身の長い髪の毛を、自分の手で切り落とした。

「……髪の毛を切るとは…」

「伸ばしてたのにもったいなけど…これで私の勝ちよ『ヘアータクト!』」

切れ落ちたサリアの髪の毛が、サリアの声に反応するかのように動き出した。

髪の毛は太く、長くなり、ユニシアの手や足に絡み付いた。

剣で髪の毛に斬りかかるも、髪の毛は切れないほどに硬くなっていた。

『ヘアータクト・ブレイク!!』

サリアが手を強く握ると、髪の毛が連動してユニシアの体を強く締め付けた。

「うぐぁぁぁぁぁ!があっ!!」

骨の折れる音をかき消すほどの悲鳴が辺りに響いた。

ユニシアは動かなくなり、サリアは髪の毛の拘束をそっと解いた。

「ユニシア!大丈夫!?」

「……サリア…様…?…私は……なにを……」

強い衝撃により、ユニシアの洗脳は解けた。

「操られていたのよ。それよりもすぐに怪我けがを治すから!」

するとユニシアは、折れた指でサリアの後ろを差した。

「……に……にげて…!」

「えっ!?」

振り返ると、サリアの腹に重たいこぶしが入った。

サリアは床に倒れ、気絶した。

「ユニシア…貴様は本当に使えん奴だ…」

「……パルーン……!!」

目の前に現れたパルーンを見て、ユニシアはなんとか体を起こそうとする。

「貴様には用は無い、そこで寝ているがいい」

ユニシアの横を通り、サリアをつかんで去ろうとした。

「まっ…待て…」

起き上がる事も出来ないユニシアは、せめてもの抵抗でパルーン足をつかんだ。

パルーンは地面に落ちていたユニシアの剣を拾い上げ、ユニシアの心臓を刺した。

「汚い手で俺に触るな」

ユニシアが動かなくなった事を確認し、サリアを連れてパルーンは去って行った。

「サリア…さま……」

心臓を剣で貫かれたユニシアは、目から涙を流し、その場で息を途絶えた。

そこへ足音が近づく。

ゆっくりと、地面に足を引きずるようにして近づいて来たのはアクスだった。

アクスは倒れたユニシアを見つけ、近づいてひざを突いた。

「ユニシア…それにこれはサリアの髪…」

「遅かったのでしょうか…」

アクスはユニシアの涙を見て、そっと目を閉じさせた。

「……すまねぇ」

去り際に言葉を残し、アクスは再び歩き出した。


サリアを捕らえたパルーンは、大きなモニターの前に立っていた。

その下にはいくつものボタンが付いている機械が置かれている。

「予定通りにいかないものだな…だが問題はあるまい」

そばにあったガラスのドアを開け、その中へサリアを押し込んだ。

さらにそのそばにあった小さなドアを開け、地球へと発射する兵器を設置した。

「あとはスイッチを押すだけ…だが、その前に貴様を確実に殺さなければいけないようだな」

後ろを振り返ったパルーンの前には、アクスが立っていた。

「そんな体になってまで何故抗あらがう?こいつがそんなにも大事か?」

「ああ…サリアは俺の命だからな…」

「命…?頭でもおかしくなったか?」

「…俺は子供のころ、病気で死にかけた時にサリアに助けてもらった…お前には知ったこっちゃねぇだろうがな…」

「そうか…つまりはこいつが居たおかげで、私はお前に復讐ふくしゅうできていると…それは感謝せねばな。だから…貴様らを同じ場所へ送ってやる。地獄へとな!」

パルーンは機械のスイッチを押した。

『発射まで二分』

機械からのアナウンスが残りの時間を示した。

「まずは貴様からだ天使!!」

鋭い動きでアクスを指差し、その場から飛び立った。

部屋の中を素早く動き回り、アクスに捕まらないように四方から攻撃し始めた。

アクスは対応する事もままならず、生身の部分を的確に狙われていた。

ふところに隠れているジベルが、あわててアクスに問いかける。

「あわわわ…!アクスさん!どうにかしないと!」

「わかってる!次で終わりにする!」

「独り言か?次で終わるのは貴様だ!!」

パルーンはアクスの背後に回り、素早い動きから突きを繰り出した。

するとアクスは振り返り、自分の胸をさらけ出した。

突きはアクスの心臓を貫いた。

パルーンの手はアクスの体を突き破り、地面に血がぶちまかれた。

「今度こそ…今度こそ俺の勝ちだ!!やはり正義は俺の元へ来ていたようだ!!」

心臓を突かれ、アクスのひとみから光が消えていく。

「………ウオオォォォ!!」

心臓をつらぬかれながらも、アクスは大きく唸り声を上げた。

その瞳には青い光が再び宿やどった。

両手に冷気を溜め、てのひらを合わせて腰の辺りに落とした。

手の中から冷気が風となってあふれ、それを見たパルーンは青ざめた。

「なっ!?まだ生きて…!」

パルーンは手を引き抜こうと力を込めた。

「ぐっ!抜けんっ!凍っている…!」

胸の傷口から氷が腕に広がり、パルーンの動きを封じていた。

「離せ貴様っ!!」

もう片方の手で殴ろうとした時、アクスが両手を目の前へと突き出した。

「波ァァァァァァ!!」

溜めていた冷気が一気に放出され、巨大なエネルギー砲となった。

パルーンの体を吹き飛ばし、壁に巨大なクレーターを作った。

放たれた後には氷の道が出来ていた。

パルーンの体はバラバラに吹き飛び、残骸ざんがいがそこらじゅうに広がっている。

「はぁ…ごほっ!『ラージュ』」

アクスは胸の傷に手を当て、簡単な回復魔法を唱えた。

完全に治りはしないが、死なないための応急処置にはなった。

アクスは捕まったサリアを助けようと前へ歩いた。

「馬鹿め!この俺がこれぐらいで死ぬと思ったか!!」

背後からの声にアクスは振り返った。

先程バラバラになったはずのパルーンの残骸ざんがいが、一つになろうと集まっていた。

「貴様はもう体力も魔力も無い。本当に今度こそ俺の勝ちだ!!」

アクスは構える事もせず、静かに手を向けた。

すると、くっつき始めていたパルーンの体が再び崩れ始めた。

パルーンの傷口が凍り始めていた。

「なっ!?氷!!これでは…再生できん!!」

傷口から氷が広がり、パルーンの体は徐々に凍っていった。

「こんなっ!…こんなことでこの俺が…!まだ…まだやれるんだ!このちからが…あるかぎり…おれ…は」

「もうたくさんだ」

氷となったパルーンの残骸ざんがいを、アクスは踏みつけた。

パルーンの体は粉々になり、アクスは大きくため息をついた。

『発射まで残り一分』

機械のアナウンスにはっとし、アクスは急いで機械に駆け寄る。

「停止…これか!」

停止と書かれた赤いボタンを力強く押した。

『停止を受け付けました。全ての動作を停止します』

発射のタイマーは止まり、全ての動作が止まった。

機械の中へ入れられていたサリアも外へはじき出された。

「サリア!!」

倒れたサリアに一目散に向かい、何度も声を掛けた。

「サリア!起きろ!起きてくれ!!」

今にも涙が出そうなほどに目から涙がこぼれ、痛みなど気にもせずに叫んだ。

切実な願いが届いたのか、サリアはゆっくりと目を開けた。

「…う…うん…?アクス?私は…何を…?」

「サリア!!」

目が覚めた途端にサリアを抱き寄せ、溜めていた涙を一気に流した。

「よかった…よかった…!!」

「ア…アクス!?どうしたのよ!?…って!ひどい怪我けがじゃない!!」

「サリア様ぁ!無事でよかったですぅ!!」

ジベルも喜び、サリアに飛びついて行った。

「……ありがとう…!ごめんね…」

アクスを優しく抱き返し、触れただけでアクスの傷を直した。

「そうだ!リーナとヘルガンは?無事なの?」

「無事だ。早いとこ合流して地球に戻ろう」

アクスは立ち上がり、サリアに手を差し伸べた。

すると二人の目の前に、肉の触手が現れた。

「今度は何ですか!?」

「…イナサルユ…イナサルユ…!スロコォォ!!」

突如地面から、この月から声が聞こえた。

意味の分からない言葉だが、怒りだけは明確に伝わってくる。

すると今度は地面が肉に変わった。まるで動物の内蔵のようにぬるぬるしていて、足に絡みつこうとしてくる。

気づけばサリアはその肉に囲まれ、自由に動く事も出来なくなっていた。

「アクス!」

すぐさま助けようと肉をどかそうとするが、触手のように形を変え、アクスに襲いかかる。

地面も天井も、周りが全て肉と化し、アクスの行く手をはばむ。

「くそっ!!どけっ!!」

いくらちぎっても肉の攻撃は止まらず、サリアは地面へと飲み込まれて行った。

「イナサルユ!イナサルユ!イナサルユ!」

再びあの声が聞こえると、アクスの目の前にパルーンの姿があった。

それは肉で作られたパルーンのクローンで、肉の地面や壁から増殖し続けた。

すると今度は、遥か上の方から大きな音がこの部屋まで響いてきた。

宇宙からはその様子がしっかりと見えていた。

月の大地を突き破り、肉の塊が塔の様に高くそびえ立った。

そのてっぺんでは、肉が大砲の様な形に変形し始めた。

さらに変化が起き、肉の塊を黒いもやがおおい始めた。

肉の塊は色を変え、ドス黒くなっていった。

その様子を、月から脱出していたリーナ達は見ていた。

宇宙船からリーナ達は、ニバ達が居る宇宙船と連絡を取った。

「もしもしニバさん!!」

『ヘルガンか!お前も見えているか!?』

「見えるに決まってるじゃないですか…なんですかあれは!」

『わしにもわからん。だが…あれを放っておいたらまずいぞ!!』

ニバの言葉通り、肉の大砲は地球へと向けられた。

すると、止まったはずの機械が再び動き始めた。

『ハッシャマデ…ノコリ…イップン…』

「そんなっ!やばいですよアクスさん!!」

「わかってる!!ちゃんと捕まってろよジベル!」

ジベルをふところに入れ、アクスは肉の塊に突っ込んで行った。

「イナサルユ!イナサルユ!」

パルーンのクローンがアクスへとせまる。

「じゃまするなぁ!!」

せまるクローンの群れをなき払い、前へ進もうとするも、攻撃は激しくなる一方だった。

クローンに加え肉の触手が襲いかかり、さらには肉の壁がアクスを押しつぶしていった。

あっけなく身動きが取れなくなり、アクスは肉の中に飲み込まれていった。

「お前に俺の命は消せねぇぞ!!」

大きなうなり声と共に、体から金色きんいろに輝くオーラを放った。

金色きんいろのオーラは肉の塊を吹き飛ばし、アクスは上へ上へと飛んでいった。

肉の地面を突き破り、アクスが現れた。

その体から放つオーラは、広大な宇宙の中でも激しい輝きを放っていた。

「ん!?誰だ?そもそも人?」

「……アクス!?」

「え!?アクスさん!?あれがアクスさんですか!?」

リーナ達が見たその姿は、ヘルガンが別人と見間違えるほどに変化していた。

長くて黒い尻尾が腰からえ、髪は背中にまで伸びている。

さらに目の周りにはくまのような物が浮き出ていた。

そしてそのひとみは、より青く輝いていた。 

「イナサルユ!!イナサルユ!!」

飛んでくるアクスを肉の触手が襲うが、アクスのスピードはさらに増し、触手のあみをくぐり抜けた。

高くまで飛んで行ったアクスは、大砲の形をした肉の塊を前に止まった。

右拳を腰まで引き、力を溜めた一撃を放った。

「オラァ!!」

ただの一撃で肉は消し飛び、中から気絶したサリアが出てきた。

アクスはサリアは抱きかかえ、その場から飛び立った。

「イナサルユ…!イナサルユ!!イナサルユ!!」

肉の塊はさらに変形し、パルーンの姿をした巨大な人型ひとがたとなった。

口にエネルギーを集め、アクスに向かって吐き出した。

巨大なエネルギーを前に、アクスはゆっくりとこぶし懐深ふところふかくまで引き、打ち込んだ。

こぶしから衝撃波が放たれ、巨大なエネルギーをかき消した。

「ア…!ガ…!?」

肉の塊でも、さすがに動揺しているようだった。

「てめぇの負けだ」

アクスは右手を向け、冷気を放った。

それは一瞬で肉の塊を凍らせた。

アクスがこぶしを強く握りしめると、凍った肉の塊がすべて砕け散った。 

氷となり砕けた肉の塊は、アクスによって完全にこの世から消え去った。 


     〜〜〜サリアの気持ち〜〜〜     


お母さんへ。

ゆっくりと話せる時間も無いので、手紙で書こうと思います。お母さんならすでに知ってる事ばかりかもしれませんが。

まず、前に少し話した月の事ですが、パルーンが消えた後はみんな元気に過ごしているそうです。

ルーン星人によって捕まえられてた人達も、ニバというルーン星人によって、無事に和解へといたったそうです。

月が受けたダメージも、パルーンが消えた後には元通りになりました。

そして、アクス達は…

「ちょっとアクス!なんで本気でかかってこないのよ!!」

「本気でやってるよ!」

「だったらあの変身はどうしたのよ!?」

「ああ、あれは出来ねぇんだ…俺もいきなりの事でよくわからなかったし、どつやってなったかも覚えてねぇんだ」

「だったら!私がその力を引き出してやるわよ!」

「やめろリーナ!お前が本気出したら、俺じゃあまだ勝てねぇよ!」

「問答無用!!」

……とても元気です。

帰ってきたばかりなのに、もう組手くみてをやるくらいに。

あの様子を見ていると、お母さんが言った通りに魔王を倒してくれる日も近いかもね。

あなたの娘より。

「あ〜あ…一応僕の土地なのに…」

「後で直させるから許してあげて」

「まぁ別にいいですけど…めなくていいんですか?」

「うん…いいの…」

だって…戦っている時のアクスは、とてもかっこよくて大好きだから。



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