第33話 私の気持ち

★★★(アイア)



 あ~。


 私は思い出す。


 あのときを……




「これは何?」


 あの日。

 王都で四天王として勤務してたとき。


 自分の警護対象であるセンナさんが、紙の束を落としたんだ。


 センナさん……現行の法王の、小柄な女性。

 私の警護対象で、友人でもあった。


 センナさん、慌ててた。

 他の四天王も慌てた。


 落としたときに、中身が分かってしまったから。


「長身女戦士の恋」


 ……センナさん、そういうタイトルのほとんど春画みたいな恋物語描いてて。

 その主人公が、どうみても私だった。


 どうも、私が勤務していないときに描き連ねていたらしい。

 四天王の法王の身辺警護は24時間だから、同僚はその事を知っていた。


 私をモデルに勝手にそんなものを描いていたセンナさんと、センナさんの暴走を知りつつ知らぬふりをしていた同僚にムカついた私は。


「四天王辞めまーす」


 その日のうちに辞表を出して、四天王を辞めてきた。


 だいぶ引き留められたけど、無理。




 勝手に私をモデルに恋物語を描かないでほしい。


 そう思って、四天王を辞めて来たのに。


 今現在、私は男の子に求愛受けてて、それに関して別に腹を立ててない。


 その事を考えると、ちょっと思うところがある。

 あのとき怒髪天だったのは本当だけど。


 結果的に今、こんな事になってるし。


 この現状、センナさんに知られたら「許してくれてもいいじゃないですか~」とか言われるのかなぁ?


 いやいやいや。

 ほぼ春画は駄目でしょほぼ春画は。



 冒険者の店で、昔を思い出してテーブルに突っ伏す。

 たまにある。こういうこと。


 そのときそのときは後悔しない選択をしたつもりでは居ても。

 現状と比較してどうなんだ? って思う事。


 そのときだ。


「何かあったんですか?」


 話し掛けられた。

 知った声だ。


「オネシ君」


 テーブルから顔を上げると、髪を後ろで縛った男性……オネシ君が傍に立っていた。

 ちょっと前に再会して、今では冒険者の店で顔を合わせる度に会話している。


 まぁ彼とは昔の思い出もあるし、彼が私たちに憧れてこの道を志したところもあるみたいだから、普通に会話してる。


 あのときは色々大変だったよ……。


「いや、ちょっと昔の苦い思い出を思い返しちゃって」


 さすがにその内容は言えない。

 追及されると困るから、話題を変える。


「ウハル君、その後どう?」


 この前、ウハル君……私に求愛している男の子が、焦るあまりに大ポカをやらかして。

 大問題になったんだけど。


 その後、彼の相棒である彼とのことはどうなのかな、と。


「特にわだかまりないですよ。彼、真面目過ぎるんです」


 真面目だから、焦ったんだよね。

 それは分かる。


 そういうところ、私も嫌いじゃない。


 だから彼の求愛自体を拒否したりはしてなかったんだけど。

 好き……というのはどうなのか。


 まだちょっと、分からないところがある。


 そういえば……


「ウハル君のデートって」


「今日のはずですよ」


 そう。

 この間のトラブルのとき。

 知り合いの女の子が異能に目覚めて、彼の窮地を救ったんだ。


 そのお礼で、一緒にお芝居を観に行く話になってたんだけど。


 それ、今日だったか。


 ……どうなのかなぁ?


 私に求愛しておいて、他の女の子とお芝居に行くなんて、って気持ち。


 そういうハッキリした気持ちは無いんだけど、何も引っ掛からないかと言われるとそういうわけでもない。


 自分の気持ち、どうなんだろう?


 ……少女時代から武芸一本鎗でそういう経験積んでこなかった私。

 多分、私は女の子としては欠陥品に近いんだろうね。


 ため息が出ちゃうよ。


 そんな事、気にしないで今まで生きて来たもんなぁ……


 自分の事なのに、自分の気持ちが良く分からないよ……


 あ~あ、好きって一体何なんだろう……?

 考えれば考えるほど分からなくなっていく感じ……


 そう、ひとり思い悩んでいたときだった。


「冒険者ウハルの相棒の人は居るか!?」


 冒険者の店に、誰か駆け込んできた。

 見覚えの無い男性だった。


 冒険者ウハルの相棒の人……?


 オネシ君の事だよね?


 言葉の意味が染み渡ったのか、オネシ君はそちらを向いて手を上げた。


「僕がそうですが」


 オネシ君が名乗りを上げると、その男性は真剣な顔でこう言ったんだ。


「アンタの相棒、刺されて診療所に担ぎ込まれたぞ!」

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