第23話 アイアさんって……
★★★(ウハル)
「アイアさんが恩人ってどういうことですか?」
パーティを組むことを了承した後。
俺たちは同じテーブルに着き、パーティ結成の祝いということで、一杯飲もうという事になって。
最初のエールのジョッキを空にして、最初に聞いたことがそれだった。
ちょっと、ちぐはぐな気がしたから。
オネシさん、どうみてもアイアさんと同じかちょっと上。
恩人、という言葉に違和感があったから。
貸しがある、世話になった、って言い回しならしっくりくるんだけど。
恩人って。
まるで、無力な自分をアイアさんが助けたと。
アイアさんが救い主だったと。
そんな風に聞こえる。
どういう状況だったんだ?
ちょっと、想像に苦しんだから、訊いた。
そしたら。
「僕の故郷の村は、昔混沌神官の手下になった男に支配されたことがあってね……子供のときの話だよ」
エールを飲み干し、少し顔を赤くさせて、オネシさんは語ってくれた。
え? え?
子供のときの話?
そんな昔の話に、何でアイアさんが出てくるの?
オネシさんは続けた。
「地獄だった……僕の本当の両親も、そのときにそいつに殺されたんだ……僕はそれが許せなくて、復讐の機会を狙って、そいつに従ったフリをしてたんだけど……」
その語り口調。
嘘を言ってる風では無かった。
内容からしても、冗談で言える内容じゃない。
ということは……
「そんなとき、アイアさんがクミさんと一緒に偶然僕の村にやって来て、全てを解放してくれたんだ……だからアイアさんは僕の中では恩人で、英雄なのさ……」
え? クミさん?
まさか……14年前の伝説の冒険者?
そんな人と、アイアさん組んでたの?
「クミさんって……」
「ああ、漢字聖女のクミさん。この街では伝説になってるらしいね」
訊ねるまでもなく、オネシさんはクミさんについて教えてくれる。
やっぱり、14年前の英雄……。
俺はアイアさん、20代の前半かと思ってたけど……
その計算で行くと、オネシさんの村を救ったときはヒトケタってことになる。
そんなのありえないから、そのときすでに成人してたとして……
……アイアさん、今本当は何才なんだろう?
アイアさんの年齢が分からなくなり、俺は……
ゾクゾクしてきた。
どうしよう。興奮する。
ひょっとしたらアイアさん、俺よりもずっと年上かもしれないのか……!
マズイ! ツボだ! ハマる!
女性に年齢を尋ねるのは失礼だから詳細は分からないけど……
年上好きの俺の性癖的に、オネシさんのこの話はクリティカルだった。
「……アイアさんってすごい人なんですね……知ってましたけど、さらに思い知らされました」
心の中で「惚れ直した」と付け加える俺。
「ああ、すごい人だよ。だから俺の目標とする英雄さ」
言ってオネシさんは、新しく来たエールのジョッキをグイッと傾けた。
★★★(アイア)
最近、視線を感じる。
前から「白兵戦無双の女戦鬼」ということで、注目を浴びることは多々あったけど。
それとは違う感じ。
同業者からの好奇や畏敬の視線とは何か違うんだよ。
なんだろう……恨み? 憎しみ?
あと、覇気みたいなものを感じないから、多分同業者じゃないと私は思ったんだけど。
先日、気づいちゃった。
行きつけの冒険者の店の、出入り業者の女の子だ。
その子が、私にそんな視線を向けてくる。
自分の仕事をしながら、私の存在に気づくとそういう目で見てくるんだ。
喧嘩になったら面倒なので、気づいてないフリをしてたけど。
何でなんだろう?
正直、身に覚えが無かった。
会ったことも無い女の子だし。
……
……会った事無いよね?
★★★(ウハル)
そして。
オネシさんと、何件かの依頼をこなした。
オネシさんは誠実で、俺が危ないときはすかさず助けに入ってくれて。
かつ、その事を「貸しだ」なんて、恩着せがましく言ったりしない人だった。
俺が以前組んでたパーティはろくでも無かったんだな。
それを、オネシさんと組んで仕事をすることで、否応なく思い知る事になった。
助けて貰ったら、礼を言う。
危ないと思ったら、助けに入る。
そこには、打算があるのかもしれない。
けれど。
そういう基本的な営みを排除した人間関係は、歪なんだ。
前のパーティはそれが決定的に欠けていた。
歪なものは、いつかは上手く行かなくなって、壊れてしまう。
前の俺は、それをキチンと理解できていなかった。
そのために、ユズさんに余計な心配を掛け、結果傷つけて……
俺は本当に大バカだったんだ。
一緒のノライヌ退治から始めて、狼退治。
虎退治、熊退治。
色々やった。
オネシさんは頼れる人だった。
世話になりっ放しだ。
「ノラウシ討伐依頼……」
オネシさんと一緒に。
冒険者の店の依頼ボードに貼り付けられたその依頼を見る。
「ノラウシと
俺は、隣に立って一緒に同じ貼り紙を見つめているオネシさんに聞いた。
「……あるね。容易い相手では無いよ」
ノラウシ……
牛頭人身のノラ系モンスター。
言語を持たず、知能も低い。
人肉を好み、怪力を誇るモンスターだ。
前の世界で言うと、ミノタウロスが一番近いかもしれない。
道具を操る知性はギリギリあるらしく、棍棒で武装しているときがあるとか。
ノライヌロードに支配されることもあり、その場合は、人間の冒険者から奪った両手用戦斧や両手用大剣などで武装している事もあるらしい。
この依頼のノラウシは、単独みたいだから、おそらく武装はあって棍棒が妥当なところでは無いだろうか?
それでも十分脅威だけどさ。
「そのときはどうやって倒したんですか?」
俺のそんな質問に、答えるオネシさんの返答がイカしてた。
「落とし穴を掘って、そこに誘い込んで、落ちたところを弓と魔法でフクロにした」
うわぁ……容赦ない。
でも、それぐらい危険な相手だってことだよな。
……どうしよう……俺たちにやれるんだろうか?
「……俺たちにやれますかね?」
俺は交戦経験が無いので、素直にオネシさんに訊く。
オネシさんは答えてくれた。
「落とし穴を掘る作業が、ウハル君の精霊魔法で大幅に簡略化されるね」
つまり、勝ち目はあるってことか……
大地掘削の術について期待されてるんだな……
大地掘削の術……自然な地面に、大体、直径2メートル、深さ5メートルくらいの穴を、5分程度の時間をかけて掘る魔法。
いきなり敵の足元に掛けて、穴に落としたりはできないけれど、普通に掘る場合と比較して、驚くほどの速さで穴掘りが出来る魔法だ。
落とし穴を掘りたい場合はだいぶ助かる魔法ではある。
俺が期待されてる……!
俺の胸は高鳴った。
人に期待してもらえるのは喜びだ。
「オネシさん、俺、やってみたいです」
「……分かった。ただ、失敗したら一旦退くことも視野に入れような。ノラウシは危険な相手だから……」
オネシさんは緊張した面持ちで、そう俺の願いを受け入れてくれた。
そうと決まったら、俺たちは色々と準備をした。
主に、メインの罠になる落とし穴に向けての。
ナイフだったり、油だったり。
落とし穴の罠としての強度を高められると思えるものは出来る限り取り入れた。
そして決行当日……
「これでイケると思うんですけど」
「後はここに誘い込むだけか」
穴を掘り、底にナイフの刃を並べ。
ナイフの列の間に、油の入った壺まで並べ。
落ちたらナイフが刺さり、引火する油壺が割れるので、そこに火を投げ込んで、矢を射掛ける。
ついでに魔法も打ち込んで、白兵戦に持ち込まず倒す。
そういう作戦。
俺たちは少人数だけど、これならイケる気がした。
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