第13話 俺の人生良くなってる!
★★★(アイア)
良かった。間に合った。
砦への道中、森の方から妙な会話が聞こえて来たから、突撃したら、案の定だったよ。
叔父様まで、危なかったのか。
大事な人、知ってる人を2人も同時に亡くすところだった。
私にとっては物の数じゃないけど、叔父様には辛いよね。
叔父様、高位神官だけど戦士としては普通の域出ないし……。
ましてや、駆け出しも駆け出しのウハル君じゃ……
駆けつけて状況を把握し、2人、いや3人とノライヌたちの間に割り込んで。
右手に持ったビクティ二世を一閃させた。
ノライヌなんて、物の数じゃない。
例え100匹で挑んできても、負けはしない。
その自信がある。
一閃で複数のノライヌを挽肉にしてやった。
ロードに率いられているノライヌは、知能が高いシャーマン以外はロードに絶対服従の狂戦士になる。
だから、雑兵のノライヌと、ホブノライヌは仲間のそんな悲惨な最期にも全く怯えていなかったけど……
当のロードと、シャーマン2匹が明らかに怯えていた。
「な、何だワン!? お前は関係ないワン!」
……何言ってんの?
このノライヌロード?
劣勢を悟ったにしても、言う言葉ってあるでしょ。
「えっと、ノライヌは存在自体が罪だよね? 関係のあるなし、関係ある?」
あんまりな言葉だったから、あんまりな言葉で返してあげた。
というか、問答する必要性無いよね。
言い終わると同時に、ノライヌの駆除を私は開始した。
ビクティ二世を振り回し、近場に居る奴から順に処理。
ギャインとかギャンとか。
悲鳴が上がる。
「に、逃げろワーン!」
「勝ち目ないワーン! ボス! お先にー!」
ノライヌシャーマンが逃げようとする。
あ、コラ!
逃げるなっての!
そう、思ったら。
地中から飛び出してきたハルバードの刃が、その逃げるノライヌシャーマン2匹の首を次々と刎ねた!
……それをやったのは……ウハル君!
右目を失って、右目の眼窩から血を流しながら。
潰れてるって感じじゃない。
眼球自体が無くなってる……
あ……
そこで私は、ここで何が起きたのかに気づいてしまった。
そっか……ウハル君。
今ここで、土の精霊と契約をしたのか……。
代償に「右目の眼球」を支払って……。
そこに気づいた瞬間、私はゾクッとした。
すごい……と思って。
すごい……勇者ビクティみたい……!
勇者ビクティ……私が尊敬する最大の英雄……!
ウハル君は、そんな人と同じような事をやって見せたのか。
この場に居る人を守るために、戦闘中だというのに精霊との契約を成立させた……。
なんだか、胸が高鳴ってきた。
尊敬する人物と同じ行為を成し遂げた彼に興奮したのかもしれない。
その興奮のまま、私は片っ端からノライヌを撃滅する。
「うわ、我を守れワーン! そいつを我に近づけるなワーン!」
ノライヌロードとの間に、ノライヌたちが殺到する。
ええい、いい加減邪魔!
私は薙ぎ払うために必殺技を繰り出すことにした。
右手にビクティ2世を構え、左手を翳す。
そして。
「オロチ様、薙ぎ払って下さい!」
私の「波動の奇跡」だ。
力の波動が駆け抜け、殺到していたノライヌたちをまとめて吹っ飛ばす。
そして波動の奇跡を放つと同時に、敵に突っ込む!
波動の奇跡を防御するなら、足が止まるし。
回避をするなら、体勢が崩れる。
そこに突っ込んで、大上段の一撃で仕留める!
……これが私の今の必殺技。
見た人には口止めをしとかないとね。
どんな技でも、知られると対処されちゃうからさ。
そして今回のパターンは……
ノライヌロードは吹っ飛ばされた他のノライヌたちに巻き込まれ、行動不能に陥っていた。
そこを私は、そいつらごと一刀両断に斬り捨てる!
「ギャワアアアアアアアアン!!」
それが、頭から真っ二つに割られたノライヌロードの最期の悲鳴だった。
「全く、無茶するでござるな」
「そう言わず叔父様。そのせいで、私が間に合ったんですし」
ノライヌたちを全滅させて、死骸の山を前にして。
私と叔父様は、ウハル君の前に陣取って彼を労っていた。
右目を押さえたウハル君。
その傍には、助け出した子なのかな?
着物姿の女の子、前髪ぱっつんの長い髪が魅力的な女の子が彼を心配そうに見守っている。
「師匠、すみません。治癒の奇跡で痛みだけでも取っていただけないでしょうか?」
さすがにこれ、治りませんよね?
彼はそう言った。
治癒の奇跡なら、そうだね。
治癒の奇跡では、自然治癒しない傷には効果無いから。
眼球ごと丸ごと捧げたその傷には、痛みを取るくらいしか効果は無いよ。
治癒の奇跡、ならね……。
ああ……そういう覚悟で捧げたのか。
すごいね……
てっきり「再生の奇跡」まで視野に入れて捧げたのかと思ってたよ。
「……再生の奇跡をつかうでござる。治るでござるよ」
「ホントですか!?」
予想外だったのか。
ウハル君の声はホントに嬉しそうだった。
「ああ、良かった。これからの人生ずっと片目かと思ってたから、本当に助かった」
見える! 両目見えるよ! と言いながら、ウハル君、自分のさっきまでの覚悟を口にする。
そこまでの覚悟で決断したキミの選択は、本当に尊いね……。
叔父様の魔法で修復されたから、その目は新品になってるわけだし。
ひょっとしたら視力なんかも良くなってるかもしれないね。
私は嬉しい気持ちに、素晴らしいものをみた気持ちになっていた。
ウハル君……本当にかっこいいと思うよ。
★★★(ウハル)
俺の初陣はこうして終わった。
師匠は俺の行動を「もう二度とこんな真似はしてはならぬでござるぞ」と釘を刺しはしたけれど、厳しく叱りはしなかった。
まぁ、だからといって同じことをまたしようなんて思わないけど。さすがに。
アイアさんは純粋に「皆を守るために自分を投げ出したのは尊いとは思うけど、それで死んだら終わりなんだから、もうやっちゃ駄目だよ」と半ば褒め、半ば注意するようなことを言った。
評価は上がったのか……な?
ユズさんはたった1日だけ師匠の家に世話になったけど、次の日ハローワークで大店の住み込みの仕事を見つけて来て、早々に出て行った。
去り際に「ありがとうございました。これからは自分の力で頑張ってみます」って言い残して。
色々あったけど、この人にはこれからの人生、幸せに生きて欲しいよ。
そういうわけで、俺の初陣は結果的にダメージゼロで、得るものだけあった実りあるものになった。
(実質的に代償ゼロで土の精霊魔法を手に入れたわけだし)
師匠も俺の戦いぶりは認めてくれて「わずか1戦で放り出すのは無責任に見えるかもしれぬが、ここから先は自分1人でやった方がいいでござろうな」とお墨付き? を与えてくれた。
ここから先は師匠は一緒には仕事してくれない、って事なのか。
ある意味、今日のような無茶は、師匠ありきだったような気もするし……
確かに、このまま今の形式を続ければ、師匠に依存してしまう。そうなる恐れはある気がする。
でも、不安だ……。
「1人?」
たった1人で冒険者の店に行き。
パーティ参加希望の貼り紙を出して1人で居ると。
アイアさんが声を掛けてくれた。
冒険者の店でのいつもの格好。
全身鎧姿の凛々しい姿だ。(兜だけは被ってない)
「あ、アイアさん! あ、ハイ! 1人です!」
少し緊張。
好きな人なんだからしょうがない。
「その後、目の具合はどう?」
鎧をガシャン、といわせて。
俺の顔を覗き込みながらそう言う。
顔を近づけられてドキドキしてしまう。
「良好です!」
そう応える。
まるで中学生だな、俺。
ガチガチだ。
「……1人ってことは、これからの成長に自分の存在はマイナスだって叔父様が判断したってことなんだから、頑張るんだよウハル君」
「ハイ! 任せてください! 俺、もっと強くなりますから!」
アイアさんの激励の言葉。
嬉しくてたまらない。
抱えていた小さい不安が、それで掻き消えてしまった。
去って行くアイアさんに礼を言いつつも、俺は思った。
こっちに来て、俺の人生、良くなってる! と。
~2章(了)~
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