第5話

 あれは入学して直ぐ。四月の中旬頃だった。

 四月だというのに、気温がぐっと下がって三月上旬並の寒さになったのを覚えている。


 俺はたまたまブレザーを着ていて寒さは凌げたが……プラスして天気予報になかった突然の大雨が降った。しかも下校中にだ。


 濡れ鼠ってこんな気分なのかね。頭の中にはリンダ〇ンダがリピートだよ。あっちはドブネズミだけど。


 そこで近くの寂れた神社で雨宿りをしようと鳥居をくぐった所で──俺は、目を疑った。


 寂れた神社には先客がいた。


 古びた神社の屋根の下で儚げに佇む少女。

 水が滴り落ちる濡れた髪。

 憂いを秘めた目。

 悲しげな表情。

 そして今にも消えてしまいそうな存在感。

 その子以外の景色が、急にぼやけたような感じ。


 凛宮司夢葉の第一印象は、そんな精霊のような女の子だった。


 余り近すぎると警戒されると思い、彼女とは少し離れた場所で雨宿りをしてハンカチで濡れた体の水分を吸っていると。



「くしゅんっ」



 随分と可愛らしいくしゃみが聞こえてきた。


 音の出処は隣り。例の精霊のような女の子だ。

 止まらないのか、小さく可憐なくしゃみを何度もしている。

 寒さで体を震わせて、両腕で自身の体を抱き締めていた。


 唇まで真っ青になってるし……このままだと風邪をひく。

 そう思った俺は、内側に着ていたカーディガンを脱いで彼女に手渡した。



「……ぇ……ぁ……?」

「こんな寒い日に、濡れたままのワイシャツとブレザーじゃ風邪を引いちゃうからな。特に君みたいに線が細くて可憐な女の子は、拗らせると大変だ。これを着て暖まった方がいい」

「かれ……!? ぁぅ……ぇ……ぁ……」

「ん? ああ、安心して。ブレザーの内側に着込んでたから、雨で濡れてはない。さあ」

「ぁ……ぁ、ありがとう、ございます……」

「どういたしまして」



 俺のカーディガンを受け取り、ブレザーを脱いでそれを着る。

 俺と彼女の身長差も相まって、かなりぶかぶかだった。長い袖で手が隠れ、短いスカートも隠れたから履いてないように見える。


 ちょっとどきっとしたのは内緒だ。



「ぶかぶか……」

「悪い、我慢してくれ」

「んーん……へへ。暖かい……」



 カーディガンの裾で口元を隠し、ニコッと笑う彼女。

 その笑顔は、本当に精霊を思わせるような儚げな可愛さだった──。



   ◆



「詐欺だ」



 マジで儚げな可愛さ『だった』だよ。

 今となっては精霊の欠片もないわ。ただの小動物系美少女だわ。



「およよ? 今とっても失礼なことを言われたような?」

「安心しろ、気のせいじゃない」

「ぎるてぃー!」



 ちょ、痛い痛い。脇腹どゅくし止めろ。



「全く失礼しちゃうよ! 私の可愛さはちょーいつも通りなのにさ!」

「お前の可愛さには同意する」

「……そういうのサラッと言うの止めた方がいいよ」



 ん? 何故だ? 思ったことを口にしてるだけだが……まあいいや。



「でもさ、何であの時あんな儚げな感じで立ってたんだよ。次の日会ったらこんなテンションでマジでビビったわ」

「あー、あれ? 『雨の中、廃れた神社で物憂げに佇む私まぢ美少女(キラッ☆)』ってノリよノリ」

「詐欺だ」



 だけど、演技とは言え高校生であんなに儚げな雰囲気を出す女の子は初めて見た。

 俺には心に決めた人がいるのにちょっとだけトキめいちまったのは、墓場にまで持っていく秘密である。


 とまあ、こんな天性の顔のよさと軽いノリ、小柄ながら体、人懐っこい性格も幸いして男子生徒からは勿論女子生徒からも人気を集めている。


 鈴乃が男女構わず『好き(LOVE)』を集める美少女だとすれば、夢葉は男女構わず『好き(LIKE)』を集める美少女だ。

 ほんと、顔面偏差値がとんでもないな、ウチの学園は。


 夢葉と一緒にくだらないことを離しながら、学園に着いた。


 始業時間に余裕を持って学園の校門を潜り、靴を履き替えて二年一組の教室に向かう。

 既に登校している生徒が、廊下で話したりトイレに行ったりと、耳に心地いい喧騒を奏でていた。


 八時ぴったりに一組へ到着。

 朝のホームルームが始まるまであと二十分もあるからか、教室はいつも通り賑やかだ。


 その中でも特に華やかな場所が一つ。

 窓側の一番後ろ。一人の女の子を中心に、学年でもトップクラスの美男美女が集まっていた。


 華やかな見た目に、時折声を上げて笑っている楽しそうなリア充グループ。

 鈴乃を中心としたそのグループは、凛麗学園全学年のカーストでもトップ。正にトップオブトップのカーストとして有名だ。


 ここまで来ると、他のカーストの奴らもわざわざ引きずり下ろそうなんて気を起こさない。余りにも格が違いすぎる。


 そのグループを見た夢葉は、長い袖をブンブン振り回しながら駆け寄っていった。


【あとがき】

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 ☆☆☆→★★★


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