私は人権を剥奪されたので殺されても文句は言えません

西羽咲 花月

第1話

高校に入学して最初の梅雨が訪れようとしていた。



空は重々しい灰色で今にもなにかが落ちてきそうな気配がある。



しかし1年B組の教室は今日もにぎやかで、たとえ空から槍が降ってきても動じないような雰囲気があった。



「恵美~! 昨日の映画見た!?」



教室に入ったあたしに真っ先に声をかけてきたのは親友のエリカだ。



エリカは長くて艶々な髪の毛をひとつにまとめてポニーテールにしている。



こちらへ駆け寄ってくるときチャームポイントのポニーテールが揺れて、光り輝いて見えた。



「見た見た! 正文君の演技かっこよかったよねぇ!」



あたしはすぐに話題に乗っかり、人気俳優の名前を口にする。



昨日テレビ放送された映画は病気がちな彼女を持つ彼氏の話で、彼氏役の正文君のかっこよさが終始押し出されているものになっていた。



ファンとしてはたまらない作品だ。



エリカと2人でキャアキャア騒いでいると、同じクラスの河南聡介(カナン ソウスケ)が登校してきた。



聡介は生まれつき色素の薄い茶色い髪の毛を遊ばせて、少しちゃらいイメージだ。



でもそれは見た目だけ。



聡介の一途さはあたしが一番よくわかっている。



「おはよう2人とも」



教室にはいってすぐあたしとエリカの姿を見つけて声をかけてくる。



笑顔になると両頬に出てくるエクボがかわいらしくて、思わず胸がキュンとした。



「おはよう聡介」



少し頬を熱くしながら返事をすると、目の前のエリカがにやけ顔になった。



「遠くの正文君より、近くの聡介ってわけか」



そう言われてあたしは慌てて左右に首をふる。



「な、なに言ってんのエリカ」



「でも本当のことでしょう? いいじゃん2人とも付き合ってるんだから隠さなくても。それとも照れてるのかな?」



あたしの頬をつついてそう聞いてくるエリカは完全に楽しんでいる様子だ。



こうなってしまうといくらなにを言っても聞く耳を持ってはくれない。



散々あたしをイジって楽しむのだ。



「恵美、今日一緒に帰れる?」



あたしとエリカのやりとりを微笑ましそうな表情で見つめていた聡介が聞いてきた。



「え、あ、うん」



慌ててエリカとの会話を中断してうなづく。



「よかった。じゃ、今日も一緒に帰ろう」



ニコニコと無邪気とも呼べる笑顔で誘ってくるから、断れるわけもない。



もちろん、断る理由だってない。



あたしはまたエリカにつつかれながらも、「うん」と、小さくうなづいたのだった。

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