それなら図書館に行けば良い!

久世 空気

図書館司書をしていました。

 図書館ほど面白い仕事はない。と、数回転職経験がある私は考えている。

 大学で取得した司書資格を活かし、公共図書館で5年ほど働いた。それだけで図書館をわかった気になっているわけではないが、他に経験した仕事よりずっと楽しかった。


 図書館の仕事は多様にあるが、たぶん本好きにとって一番魅力的に感じるのは選書だろう。選書とは、文字通り、本を選ぶ。図書館に置く本を、選んで、買うことが出来る。もちろん予算やニーズを考慮し、選書基準は守らないといけない。しかしそうやって選んだ本が貸出しされているのを見るのはやっぱり嬉しい。


 私がいた図書館では見計らいとリストチェックで新刊資料を選んでいた。見計らいとは版元からその日(もしくは前後)に発売される本が図書館に運ばれてきて、現物を見ながら選び、購入する方法だ。リストチェックでは見計らいで運ばれてこなかった本をチェックでき、購入することができる。

 見計らいは、たまに司書の間で盛り上がる。「この絵本、読み聞かせに使える!」とか「このジャンルの本が欲しかった!」というのはもちろん、「この本めっちゃ良いねん! おすすめの本やねん!」と担当者に手を合わせてお願いこともある。

 ちゃんと選書会議をするので職権乱用することはないが、好きな本を目の前にして熱くなる司書は多い。かくいう私も新装版の『若草物語』を前にぽろっと「アニメでしか見たことないわぁ」と言ってしまって先輩に嘆かれ、読むように勧められたことがある。あれは熱かった。まだ読んでないけど。


 そうやって日々、本に触れているとそれなりに本の知識は身につく。それは利用者に反映される。カウンターでの問い合わせや貸出し予約でもそうだが、図書館では本の紹介もしている。

 ご利用の地域の図書館で定期的に新刊案内や本の展示はされていないだろうか? 掲示板やカウンターの脇などにチラシやポスターは貼ってないだろうか? ポップを書いている図書館もあるだろう。お時間があれば目を通してほしい。新しい出会いがあるかもしれない。

 その他、司書が本の紹介をするイベントもある。昨今、開催回数は減っているかもしれないが、私がいたときは毎週数回、子供向けのお話会が開催された。読み聞かせのボランティアの方が来てくれる事が多いが、司書が主催することもある。

 主に季節の絵本や関連する絵本を読み聞かせして、紹介するのだがイベントが終わると、参加していたお子さんがその本を借りていってくれることもある。そんな時は心の中でガッツポーズしている。そうでしょ、その本とっても良いでしょ! と。


 さて、そんな楽しい司書を何故辞めたかというと、指定管理者が変わったからだ。指定管理者とは公的施設の運営等を代行する会社のことで、これは一定期間で入札で見直すことが決められている。私が所属していた会社は入札で負け、他の会社が図書館を運営することになった。私たち司書は再度、履歴書を書き、面接をし、新しい会社に雇われる形となった。

 が、私は甘かった。指定管理者が変わると運営方法はガラッと変わった。まず見計らいがなくなり、新刊リストのチェックのみとなった。本社自慢の冊子をチェックするのみだから他の司書と相談することもなくなった。選書も最終的に上司の一人が私たちのチェック記号を見るだけで購入を決めていた。

 カウンターに置く新刊案内や壁に貼る絵本案内もすべて剥がされた。そういうものは本社で作るので私たちは作らなくて良いらしい。

 お話会も減らされた。理由は「他の図書館より多い」。

 

 私は虚しさと、他にもいろいろと「罵詈雑言を吐きながら本社が選んだ新館長とその取り巻きを広辞苑で平らにしたい」と思うような出来事もあり、試用期間で退職した。ちなみに試用期間は3ヶ月でその間、私以外に数人辞めている。


 場所も変われば図書館も変わる。正解の図書館なんて考えるのはナンセンスだ。あの指定管理者が間違っているわけではない(社員の性格は悪かったけど)。でも私は絶対に戻りたくはない。が、図書館には未練がある。もっとあの図書館に、あの司書仲間と一緒に働いて、図書館を創っていきたかった。


 だから私は司書の経験を活かして図書館に関する話をカクヨムに投稿することにした。これを読んだ人が図書館とは、司書とは、と改めて考えてくれたら嬉しく思う。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る