2.転校生

 冬休みが明ける。

 俺は学校に普通に登校した。そして教室に入る。


「お、開飛、おはよう」

「おはよ」


 例の陽キャたちだ。

 未だに名前は聞いてない。聞く必要もない。


 教室ではお年玉が何円だったとか、宿題が終わってないだとかそんなことを話している。

 俺は隣の席に誰もいないことに気が付く。

 そこに先生が入ってきた。


「おはようございます。今日は、全員出席です。そして、転校生を紹介します。入って来ていいよ」

「あ、はい」


 入ってきたのは女の子だった。


「自己紹介を、お願いします」

目黒めぐろ妃奈ひなです。よろしくお願いします」

「よろしくー」

「じゃあ、後ろの空いてる席に座ってください」

「はい」


 ん? 後ろの空いてる席って……? 俺の隣かよ!?


「よろしくね」

「え、あ、うん」


 最初に話しかけてくる感じか……


「名前、なんていうの?」

「桃川開飛」

「かいと? どんな字書くの?」

「開くに飛ぶで、開飛」

「へぇ……よろしくね」

「よろしく」



 休み時間になる。当然のように転校生のところに集まる。

 隣の席だから話が聞こえてきた。


「妃奈ちゃんは得意なこととかある?」

「うーん……ゲーム、とかかな」

「え、開飛と同じじゃん、な?」


 え、ここで急に俺かよ……


「う、うん」

「女の子でゲームって珍しいね」

「そうかな」


 無視かよ。




 放課後

 授業が終わって今日は部活も無く、みんな放課後の約束してた。もちろん俺を誘ってくれる奴なんていない。

 そしてみんなが教室から出ていった。

 でも転校生の妃奈だけ残っていた。


「帰んないの? 早く帰れよ」

「いや……開飛くん、家どの辺?」

「え? ……駅の方」

「同じ」

「そうなんだ」

「一緒に帰ろ」

「え? 誰か誘われてたじゃん」

「断った。そんな、遊びに行くとか、無理だし。忙しいから」

「みんな暇なんだなぁって思う。俺も転校初日断った」

「え、開飛くんも転校してきたの?」

「まあ。冬休み前に」

「そうなんだ」

「うん。なんか変だよね、そんな時期に」

「転校の時期に変もなにもないと思うけど」

「そうかな」

「うん」


 そして沈黙。どうしよう。


「帰ろ」


 そう言って教室から出る。妃奈も付いてくる。


「ねえ、お前はさ、部活とか、どうすんの?」

「入んないかな。忙しいし」

「なんか習い事とかしてんの? お前」

「いや、そういうわけじゃないけど」

「そうなんだ」

「うん。開飛くんは?」

「俺は入んないかな。部活より、レベル上げたいし」

「ゲームの?」

「うん。お前も好きなんだっけ? ゲーム」

「うん」

「何やってる?」

「色々」

「ふーん」

「そっちは?」

「俺も色々やってる」

「そうなんだ」


 やばい、もう話すこと無くなった。どうしよ……


「今度一緒にやらない? 別に家にいてもできるし」

「いいよ」

「やった。じゃあ、今度、アカウント教えて」

「うん」

「じゃあ、家こっちだから」

「あ、うん」

「じゃあね」

「あ、うん。じゃあ」



 俺は家に帰ってきた。あの子ならもしかしたら仲良くなれるかもしれない。学校で出会った人で初めてそう思った。




 翌日

 また体調が悪くなった。そして学校を休んだ。でも勉強はちゃんとした。それでゲームを始めた。


 そして体調が良くなったから、お昼を食べて俺は外に出た。ただぶらぶらしてるだけだ。


 すると、公園に妃奈がいた。

 あれ、今日、早帰りの日だったっけ……それとも、休んだのかな……?


「あ、開飛くん……」

「よう」

「よう、じゃなくて」

「ん?」

「休んだの?」

「うん」

「自分もそうだからなんも言えないけど」

「あははは」

「笑わないでよ」

「ごめんごめん。最初お前がいて、今日、早帰りだったかなって思ったから、安心して……」

「いいんだけど。あとお前って呼ぶのやめてよ」

「じゃあ、なんて呼んだらいいの?」

「普通に、妃奈とか……」

「わかった」

「うん」


 冷たい風が吹く。寒い。

 そして妃奈の方を見る。妃奈からは今にも消えそうな、不思議な雰囲気がした。

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