第15話、カッコつけて強がって、そんな自分に酔って怒りを誤魔化す



―――それから。


あの夢かどうかも分からない記憶の残滓は、真実なのかどうかさえ分からないまま、僕の心の中に埋もれていった。

ただ、何故僕がここにいて、何をすべきなのかが、分かった気がして。



「……おーい、みんなちゃんとおるかー?」


僕は、六番目……最終フロアの、ゴールへと続く扉を開けるための、スイッチがあるところまで来ていた。



『……ええ。こちらは全員無事ですわ。まあ当然ですけど。そちらはどうかしら?』


まるで待ち構えていたかのように聴こえてきたのはセツナの声。

僕はそれを聞き、もう壊れかけのワンハンドソードを地面に突き立てると、スイッチのある場所を囲んだ結界の【光(セザール)】の魔法……【サンクチュアリ・セザール】の力を強めた。



「ああ、大丈夫や……問題ない。今すぐにでも扉開けられるで」

『そういうことを言っているのではない……貴様の状態を確認しているんだ!』


サユにそう言われて、ざっと自分の身体を確認してみる。

裂傷は数知れず、アバラ何本かいってるかもしれない。

そして、左足の踝のどす黒いやけど。少なくとも左足は使い物になりそうもなかった。


「……それこそ無問題やっちゅーねん」


だが、僕はそう言って見せた。

ウソつくのもいい加減しんどくなってきたけど、もう少しの辛抱だ。

このくらいかっこつけても、バチは当たらんだろ。

この自分の天邪鬼さは、もう病気かもしれないな、とも思ったけど。



魔物たちが、僕のチャチな結界破ってやろうと暴れているのが目に入る。

あと三体……か。

今僕のいる五番目のフロア。

そこにいた七体の魔物のうち、四体までは倒したけど。

厄介そうなのが残っている。


『っ!? ねえ、今の何っ?』

「あー、何のことや? 電波状態悪いんとちゃうか? 僕にはなんも聴こえへんけど……』


ヒロの耳聡いセリフに、僕はそらとぼけてやる。

一回吐いたウソは最後まで吐き通さなくちゃ、何も意味ないしね。


『あ、そのっ、吟也くん、待ってて。扉が開いたらすぐにそっちに行きますから!』


何となく気付いたんだろうと思う。

僕が結構しんどい状態にあるってことを。

だから余計に、わぁってなって。



「あー、別に来なくてもええ」

「……っ」


すぅは何も悪くないのに、もう少しで怒鳴りそうになるんを何とか押し止め、僕は続ける。

そこには、もう試験の事とか考えてる隙間もないほどの感情があった。

すぅがしなくていい面倒はする必要ないって。


『ちょっと! そういう言い方はないでしょう!?』


だから、怒った声のセツナに負けじと僕も声を張った。



「わーってる! みなまで言うなや、そんなん言うてんのとちゃうわ! ……みんなは、扉が開いたら真っ直ぐゴールを目指せばいいんや。でないと、ドベになったもんは失格になんで!」

『貴様、何を言っている!?』


突然のことに、サユの口調にも動揺があった。

しょうがないよな、今思いついたんだし。



「ああ、何かなあ……スイッチ側は不利かと思てたんやけど、そうでもなかったみたいや。この試験はポイント制なんは知っとると思うけど、こっちにめっちゃポイント持っとる魔物がおってな。これで僕はダントツ一位ってわけ。……だから僕なんか構ってるヒマあったら先に行ったほうがええんや。でないと自分らバツくらうで!」『なっ、何で今になってそんなこと!』


叫ぶようなヒロの声。

拳を震わせてんのが何となく想像つくな。



「だってなあ? あんさんらがクリアしたら順位が確定するから、僕はのんびり待ってればいいなんて言ったら怒るやろ?」

『……』


僕のある意味とどめの言葉に、沈黙が降りるのがよく分かる。

僕は有無を言わさずスイッチ上に立った。

白く浮かび上がる魔方陣の下に。



『あ。 扉、開いたですっ!』

「おぉ、さよか。んじゃ、頑張って四人で競争してくれや」


遠めに聞こえるすぅの声に、僕はそっけなく答える。

……そろそろ結界がやばそうだった。



『貴様には……一本取られたな』


ちょっと悔しそうなサユの呟き。


『……ま、いっか。そろそろ誰が本気で一番なのか、決めときたいと思ってたしね』

『それでは、先に急ぎましょうか……長く待たせておくのも、癪ですし』


ライバル心むき出しで睨み合ってるんだろうなってのが、容易に想像できるヒロとセツナの言葉。

そして、それに続くように聴こえてきたのはすぅの声だった。


『あ、あのっ、吟也?』

「……何や?」


何かを躊躇しながら僕の名を呼ぶすぅに、答えるが。


『オージーンさんっ! もたもたしていると置いていきますわよ!』


勝負はもう始まっているのですよ、といったセツナの強い声がそれを遮った。


『あ、は、はいっ! そのっ、吟也……ごめんですっ!』


焦ったようにそれだけ言って、そこから去っていくのが何となく分かる。



「……」


何で謝る必要あるんだよって思ったが。

きっと、とっさに出た言葉なんだろうな、とも思った。


多分、感覚でそう言いたかったのだろうと。

きっとすぅは、そういう奴やから。


そして、僕の結界が破られたのは、その瞬間で。



「ちぃっ」


僕は、結界を破られた衝撃で吹き飛ばされ、転がっていく……。



             (第16話につづく)






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