第5話、本当のところは友達だなんて宣言されたらもうらしくて切ないから



それから、お互いの戦利品をお互いのペースで頂きつつ。

異世界? 自販機のある休憩室を後にする。



「良く考えたら……すぅにとっては災難な話やったなぁ」

「……?」


思わずぼやくと、何のことです? といった感じで首を傾げるすぅ。



「ほら、セツナとの試合のことや。勝ったんはいいけど、これから何かと目え付けられるんやないか?」

「目を付ける……」


分からない、というよりは縁のない言葉なんだろう。

鸚鵡返しに呟くすぅを見ながら僕は言葉を続けた。


「だからな、生意気ーとか言うて苛められるかもしれんから気ぃつけてやってこと。セツナは大丈夫やろが、周りのやつらの中にはやんや云うてくるやつがおるかもな」


良く考えたら、賭けとかして不謹慎だったなと少し反省していたりする。

しかし、すぅは僕の心配をよそに朗らかに笑った。


「そんなことする人、いませんよ~」

「能天気やな、すぅは。女を舐めたらあかんで、女の妬みは怖いんや」


僕は女心なんかちぃとも知らないくせに、ちょっと真面目にそう言った。

僕から見てもすぅは嗜虐心をそそるタイプだから、気をつけないと何されるか分からないって思っていたんだ。

本当にひどく間違った考えだったと、今でも思う。


「大丈夫ですって、試合の後、ちゃんとお話しましたから。聞けばセツナさん、仲良くしていたお友達が一人、辞めてしまったらしくて。そこにすぅが突然やって来て、あんな事言ったら気分が悪くなってもしょうがないですよ」

「まぁ、分かるけどなぁ。それですぅに当たるんは、やっぱ筋違いやろ?」


僕がそう言うも、すぅはぶんぶんと首を振った。


「だからあの後、ちゃんとお話したんです。すぅが言ったことは、全部本気の本気ですって。そうしたらみんな、分かってくれましたよ?」

「本気て……あの、友達百人作るっちゅーやつか?」

「はいっ、そうですっ」


意気込んでそう言ってくるすぅのブルーベリィな目は、実際本気だった。

本当に、すぅみたいなのがたくさんいれば……世界も平和になるんじゃないかなって、そんな事思ってしまうほどの強く、澄んだ瞳だった。


普通に聴いていたら笑い飛ばしてもおかしくない、それってギャグじゃないのかなって目標。

でも、何て言うか、同じ言葉でもすぅが言うと言葉の重みが違う。

何故か、そう思えて。



「それで、あのっ……その……」


僕がそんな事を考えていると、さっきまでの凛とした様子はどこへやら。

何やら、まごついた様子で言い澱んでいる。


「どうかしたんか?」

「あ、はいっ。えっと、あの……吟也くんに訊きたいのですけど、どうしたら友達になれるかな?」

「何やて?」


そんなんどうしたもこうしたもないだろうと返そうとし、僕は言葉に詰まる。

改めてそう訊かれると、何か難しい気もするな。


「そうやなあ。友達なる言うたら、もう友達のような気もするし……」


さっきも言ったけど、現に僕はすぅとの関係を訊かれたら、もう友達って言うと思う。

クラスメイトでもあるけど、ただのクラスメイトや思ってたらコーヒーなん奢らないしな。


「そ、そうなんですかっ? でもっ、それって何か完璧じゃないような気がするんですけど」


すぅは僕の言葉に一度納得しかけ、すぐにそんな事を言ってきた。

ははぁ、なるほどな。読めてきたぞ。

すぅはきっと、セツナたちとも友達になりたいんだろう。

確かにそれなら言葉だけじゃ駄目な気もする。


「さよか、もっと深い仲ってことやな。……まあ僕にも、本当のことはよう分からへんけど、そういうのってやっぱり日々の積み重ねちゃうかな。少しずつ相手を知って、自分を知ってもらって、好きな事とか嫌いな事とか分かるようになれば、理解しあえるようになれば、もうそれは友達なんとちゃうか?」

「そうなんですか……なるほど」


すぅは、僕のあってるのか間違ってるのか正直不確かな説明を聞き、何だかしきりに感心している。

ちょっと世間ズレしてるところはあるけど、すぅは本当にいい奴そうだから、ひょっとしたらあいつらとだって友達になれるんじゃないかなって思えたけれど。


「僕には無理やな、女って時点でアカンけど、ここに通ってる奴らなんかは特にアカンわ」

「……どうしてですか?」


半分独り言のつもりだったんだけど、しっかりすぅには届いたらしい。

文字通り、どうしてなのか分からないって表情で僕を見上げてきた。


「どうしてって、そんなこと聞きたいんか?」

「はい、それはもちろんですっ」


僕はすぅに即答されて頭をかいてしまった。

しょうもないことだけどな。

でもま、いいか。

ホントは誰かに聞いてもらいたかったわけだし。



「僕な、ここに来たの強くなりたかったからやねん。そうは言っても、他のモンみたいに『みんなの為』とか、『世界の為』とか、そんなんじゃない。小さい頃な、今も対して変わらへんけど体の弱いもやしっ子でな、そのくせ態度でかいかて良く苛められてたんや。んでな、そん時はいっつも幼馴染の子に助けられてたし、助けを求めてた。その子は僕と違うて、女の子なのに元気一杯で、腕っぷしも強くてな。最初の頃は別にそれでも良いって思ってたんやけど、ある日僕にも変なプライドが生まれて……そんな自分が情けのうてしょうがなくなってきたんや。あまりにも情けなすぎて、気づけばここにいて……そのまま入学するくらいにな。それだけ気持ちが強かったんやと思う。もう、誰かに守られるんはまっぴらごめんやって、みんなを守れる強い奴になるんやってな」


僕は、誰にも言った事がなかった胸の内をさらけ出すように語っていた。

しょうもない事だけど、すぅになら知ってもらっても構わないって思ったのもある。すぅはただ黙って僕の言葉を聞いていて。


「でもな、ここに来てな、上には上がいるってこと、思い知らされたんや。セツナもヒロも、ミャコだって僕なんかなんの役にもたたんくらい強かった。あまりにも強すぎて、僕なんかが守る隙間もないくらいにな。だから僕の場合、友達になるなんて絶対無理やと思う。何つーか、情けなすぎるやろ。男として。……僕かて男のプライドがあんねん。しょうもないもんやけどな」


この時の僕は、どうしようもないくらい子供だったんだと思う。

真実に目を背け、物事を何も知らない、そんな感じの。


「ええと、すぅは思うのですけど、それって吟也くんが強くなればいいってことですか?」


僕の言葉を聞き、しばらく思案気だったすぅは、不意にそんな事を言ってきた。



「……まあ、そう言うことやろな」


それが可能かどうかは別として。

僕の拙いプライドを満足させるには、それしかないだろう気はしていて……。



              (第6話につづく)






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