第3話、ありがちな、推し量るための手合わせの結末は



テンション上がって無駄にカッコつけてのっぴきならなくなってしまった僕を助けてくれたのは。

まるで今の雰囲気を察していないんじゃないかっていった感じの、清水の声だった。



「よく聞いてみるとさ、どっちも間違ったことは言ってないと思うんだ。だからさ、この際はっきりすればいいんじゃないかな? ちょっとした試験というか、ようはオージーンさんが、ここにいられる資格があるかどうか、試せばいいんだよ」


なるほど、入学試験みたいなもんだな。

これに新入生君が受かればいいわけだ。


「わり、清水、助かったで」

「ううん、気にしないで。吟也君のためだけでもないしさ」


小声で礼を言う僕に、清水は少し照れてそんなことを言う。


「……そうねえ、その方がみんなも納得して授業受けられるものね。よし、今日の一時限は、オージーンさんの試験を行うことにしましょう!」


今まで全く口を挟まず、見守っていたジュアナ先生が、清水の言葉を受けてそう言ってくる。


「わかりました。その試験のお相手は私がいたしますわ」


あえての高圧的な様子で、それにすぐさま答えたのは、やはりセツナだった。

当然周りはざわつき出す。

セツナの言いたいのはつまり、一対一の試合形式で戦って、力量を見てやるってことだろう。


僕は再び顔を顰めた。

まだ、基礎も習っていないはずの新入生君が、実力トップのセツナと戦って勝負になるのかと。

どう考えたって新入生君を貶めようとしているようにしか見えない。

しかも、みんなの前でなんて、大丈夫なんだろうか。



「オージーンさん、セツナさんはああ言ってるけれど、どうするの?」

「あ……はいっ、じゃあお手合わせお願いしますです」


しかし、僕がそう思って何か言うよりも早く、新入生君は、二つ返事で頷いていた。セツナを見てちょっと緊張したように、はにかんでそういう様子は果たして余裕の表れか、何も分かってないのか。


「迷いなき返事、確かに承りました」


セツナはそれを前者ととったらしい。

口の端に笑みを浮かべ、やる気満々でそう言った。


「はーい! それじゃ、早速武道館に移動しまーす!」


やがて、ジュアナ先生の言葉とともに、騒がしさを引き連れて大移動が始まる。


「さて、どっちが勝つかしらねぇ? ここは一つ、学食でも賭ける?」

「……オレはセツナ、かな」


ようやく面白くなってきたといった風に、そんなことを言い出すミャコと晃。


「アホゥ! 男やったら新入生君に賭けんかい! ……お?」


僕がそのまま晃に突っ込みかまそうとすると。

その前をスタスタと一人の少年……奥井聖秀(おくい・せいしゅう)が通り過ぎていく。


ブラウンゴールドの短髪に、エメラルドの瞳。

顔立ちはハリウッドスターみたいなのに、もやしっ子さなら僕より勝ってる、そんな感じの奴だった。


「よ、オク! 何かどえらいことになってしもたけど、あんさんはどっちが勝つ思う? 僕としては新入生君を推したいねんけど」

「……どうかな、ボクには分からないよ」

「さよかぁ」


返ってきたのは、そんなの興味ないといった態度そのままの言葉だった。

そして、オクはさっさと教室を出て行ってしまう。



「聖秀君、何だって?」


いつもの笑みを気持ち緩め、清水が聞いてくる。


「いや、分からへんって。……あいつ、変わったっちゅーか、何かあったんかな」「少し前までは、吟也君とコンビ組めるくらい、テンション高かったのにね」


確かに、ここに入って二週間くらいたった頃から、オクは何かが抜け落ちたみたいに人が変わってしまった。

前の試験で何かあったのか、それとも他の何かか。



「ま、そのうちそれとなく訊いて見るわ。それより今は新入生君やな」

「うん、そうだね」


僕らは頷きあうと、一種の期待感にも似た気持ちを抱きつつ、武道館へと向かうのだった……。



             (第4話につづく)






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