第25話

 悩ましいと口にはするがどこかレジナルドは楽しそうにしている。

 口の端は上がり、興味津々にフィンリーとダーシーを眺めている。

 やがて、ダーシーに視線を移す。

「ご安心ください。フィンリー殿下はすぐにロチェスターまでお送りいたします。陛下がお迎えに来ていらっしゃるそうですよ」

 実際は、戦の処理で来たのだろう。

 陛下を動かさざる得ない事態に発展したことにダーシーは頭を抱える。


 一方、フィンリーは顔を歪ませる。

 今回が初陣ということになるがあっさりと敵に捕まるという失態である。どう申し開きするか今から考えても胃が痛い話だ。


「お気遣いありがとうございます」

 ぶっきらぼうに何とか答えるフィンリーの姿にダーシーは幾日か前のレジナルドと比べる。

 礼を述べることは出来たが態度がともなっていない。あまりに器が小さくてこの先が思いやられる。


「ダーシー嬢には暫くこちらの城で過ごしていただきたいと思います」

 レジナルドの言葉に、フィンリーは顔色を変える。

「貴様、ダーシーを人質にする気か!」

「滅相もない。ですが、お二人を預かっているのはこちらだということをお忘れなく」


「フィンリー殿下。わたくしは大丈夫ですから、ここは一先ず、陛下の元へお戻りください。叔父にもよろしくお伝えいただけると助かります」

 ダーシーが懇願するとフィンリーは渋々頷く。


 レジナルドは部下にフィンリーを退室させて、ダーシーと二人きりになる。

「フィンリー殿下は人質、と言いましたが、基本、自由にしていただいて結構ですよ」

 他国の地で自由と言われてもそう簡単なことではないことくらいダーシーには分かる。

「貴女には世話をするものもちゃんとお付けしますのでご安心ください」

「お心遣い痛み入りますわ」


 どういうつもりで自分のみ残れと言ったのか気になるところである。

 ロチェスターでの会話が思い出され、ダーシーは一人緊張する。

「そう硬くならないでください。少し話をしたいのです」


 レジナルドはそう言ってダーシーに椅子を勧め、自分も座る。

 彼の手元には両手で抱えるほどの小箱があった。

 それをしばらく眺めた後、レジナルドは小さく息を吐いてダーシーを見つめた。

「私の婚約者になってください」


 レジナルドが向けた瞳は熱がこもり、ダーシーを捕らえる。

 だが、その思いに応えるわけにはいかない理由があった。

「婚約のお話ならケッコウです。何度、言われましても答えは一緒です」

「それはやはりフィンリー殿下とのことがあるからですか?」


 ダーシーはやや大げさに見えるほど大きく肩を落とす。

「冬の時季に一緒にロチェスターで過ごしたのは事実ですが、そのようなことは一切ありません。フィンリー殿下の婚約者フライア様も一緒に過ごしています。どのような噂が流れているか分かりませんが、わたくしはお二人の婚約を祝福しております」


「では、誰か他に決めた方がいるのですか?」

「おりません」

 しつこく食い下がってくるレジナルドに強い口調で答える。

 しかし、彼は全く諦めようとしない。


「私は知っています。貴女の心の中にいる人を」

 ダーシーは何度も目を瞬く。

「まあ、凄い。殿下は人の心が読めるんですの?」


「ここには私と貴女だけです。他の誰も話を聞いてはおりません。そうやってとぼける必要もありませんよ」

 そう言われてダーシーはすっと表情を失くす。

 レジナルドは切なそうに顔を歪めた。


「ダーシー嬢、貴女は…」

 言葉を詰まらせたが、やがて決意したように瞳に力が入った。


「エルフィー殿下と恋仲でしたね」


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