第24ミッション 警告

 ああ、くそっ!腹立たしい!あの外国人め!彼女と仲良くしやがって!

 彼女は俺が先に好きになったんだぞ!ずっと見守ってきたんだ!なのに、あんな肌の黒い男がかっ拐っていきやがって!

 こうなったら、俺が先に手を出してやる!NTR(寝とられ)だ!気弱そうな性格だから、押し倒して既成事実を作っちまえば、従うだろ……。む……、胸もすげぇ大きいしな……、へへっ……。

 だが、あの犬が邪魔だな。前に『家に入った』時に噛み付かれたし、すれ違う度に吠えてきやがる!クソ犬め!しょうがねぇから、か。子犬一匹、包丁で刺せばシぬだろ。

 どす黒い計画を妄想しながら歩いていると、人にぶつかった。舌打ちをして通り過ぎようとしたら、相手が引き留めてくる。


「失礼、落としたぞ」


 男の声に彼は振り返り、手元を見た。そこには『コンセント』があり、困惑した。眉をひそめていると、肌の黒い男が低い声を出す。


「君が仕掛けた盗聴器だろう?」


 彼はゆっくりと男の顔を確認する。浅黒い肌に高身長の男前。先程まで毒を吐いていた相手だ。害虫でも見るような凍てつく視線に恐れて、逃げ出そうとしたが、男はそれを許さない。


佐々野寛司ささのかんじ。31歳。職場は雪並区にあるガソリンスタンド。住まいはすぐそこのマーマコーポの202号室」


 後ろからナイフで刺されたように心臓が冷たくなり、背中から汗が吹き出た。メデューサに睨まれた人間のごとく固まってしまった彼に、男は歩み寄る。


「お前の素性は調べた。この盗聴器に付いていた指紋も検出済みだ。これだけでも家宅侵入で警察に突き出すことができる」


 恐怖で総身が震える。背中に死神でも憑いているかのようだ。自分を繋ぎ止めている糸を掴み、地獄に堕ちるを定刻まで待っている冷徹な死神だ……。


「騒ぎにするつもりはないさ。これでは立証にやや欠ける。だが、お前が彼女に何らかの『危害』をくわえるつもりなら、容赦しない」


 死神は彼の肩を掴んだ。額に溜まった汗が滴り落ちる。


「2度と彼女に近付くな。俺はいつでもお前の首に鎌をかけているからな……」


 男はそのまま通りすぎ、角を曲がって姿が見えなくなった。彼は止めていた息を吹き返し、膝から崩れ落ちる。しばらくはその場で放心していた。


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