転生守銭奴女と卑屈貴族男の新婚旅行事情 06

 おいしそうなものをいくつか見繕って、購入し、空いているベンチへと腰をおろす。テイクアウト系の店がまだ並んでいる時間帯なので、ベンチに座っては厳しいかなあ、と思っていたが、運がよかった。

 わたしは買い食いや立ち食いに慣れているからそこまで気にならないけど、生粋の貴族であるディルミックにはちょっとハードルが高いかな、と少しだけ思ったが……嫌悪感を見せないどころか、少しそわそわして楽しそうなので、抵抗はあんまりないのかもしれない。


 毒見を済ませ、問題ないことを確認して、わたしたちは買ってきた物を食べる。

 最初に食べたのは、ほんのりと紅茶と柑橘の風味がする菓子パンだ。柔らかく、スフレパンケーキの様にしゅわっと口の中で溶ける。


 わたしのお気に入りのパンで、マルルせーヌにいるときはよく食べていたものだ。同じ種類のパンを売っている店を見つけて、つい買ってしまった。すごく美味しいのだが、柔らかいため、持って食べるにはちょっと食べにくいのが難点。買い食い用なので、本来よりは少し固めに作っているようだが。


「……うまいな」


 甘いものを食べなれていないであろうディルミックの口にもあったようだ。好きなものを気に入って貰えるのは純粋に嬉しい。


「マルルセーヌでは割と人気のタイプのパンなんです。ご当地グルメ、旅行の醍醐味ですよね」


 わたしにとってはご当地グルメ、というよりは懐かしの味、という感じではあるが。


「……よかったら、グラベインの観光地にも、今度足を運ぶか」


 こうして青空の下で食べるのは少し難しいかもしれないが、とディルミックは言った。


「本当ですか? 是非行きたいです!」


 グラベインはカノルーヴァ家の屋敷と、カノルヴァーレの街、あとは王都くらいしか行ったことがない。前世ほど交通網が発展している世界じゃないので、行動範囲が狭くなるのは当然だが、以前、ディルミックが出張のお土産話としてあれこれ聞かせてくれたのは、すごく興味深かった。


 カノルーヴァ領は意外と広い、と、義叔母様の教育で教わっているし、全部あますことなく足を運ぶ、というのはちょっと難しいかもしれないが、それでも、行けるので可能な限り行ってみたい。

 という気持ちがあるのも本当だが、またディルミックと旅行に行きたい、というのも本音。新婚旅行、まだ始まったばっかりだけど。


 新婚旅行の最中、しかも割と序盤にも関わらず、わたしたちは次の約束を決めながら、購入したものを食べるのだった。

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