サブカルギルド 30

 二度目の写真学の授業が終わり、二人と四人で帰路についていた。

「今日あっついねぇ・・・。」

 一人がだるそうにそう言うと、みんな同意見で

「ほんとー」「湿度もヤバいしねー」「雨降ってるかなぁ?」

 と、不満をつぶやいている。

 とはいえ今は梅雨時、小説のシーンとしていろいろと・・・。本当にいろいろと使える季節なので、個人的には少しうれしかったりする。

「・・・ひろくん、なんか嬉しそうだね。」

 と、光里に見透かされてしまった。

「そうなの?」「気付かなかった。」「私らにはわからんよ。」「さすがお嫁さんだね。」

 四人がそれぞれの反応を示すのだが、雪雲さん性格変わってない?

 光里は「お嫁さんだなんてそんなまだ・・・。」と赤くなっているが、自分も気づかれると思わなかったので、恥ずかしいような、うれしいような・・・。

「舞ちゃん(雪雲さんの名前)、何とかしなよ、舞ちゃんのせいでしょ?」

「えぇ、私そんなに大したことしてないよ。」

「まぁ、もう実際、夫婦みたいなもんだし。」

「寮なのに同棲してるみたいになってるもんねぇ。」

 好き放題言いやがる・・・。否定できないけど!

「まぁ、それはそれとして、梅雨時期とか、雨の降る日とかって、ストーリーの一部に簡単に組み込めるから楽なんだよ。だから結構お気に入りだったりする。」

 こういうのを普通に聞いてくれるのは、ここの良いところだろう。きっと一般的な大学なんかでこんな話したら「なに言ってんの?」「よくわかんなーい」と放り投げられるだろう腹が立つ。

「ふぅん、てっきり濡れ透けが好きなのかと思ったよ。」

 雪雲さんが真面目な顔してとんでもない事を言ってきた。

「じょ、冗談じゃない。そもそも、他人にそんなもの望まないって。」

「他人じゃなきゃ望むんだ。」

 ・・・気付くのが速いな。

「まぁ、そうだね。光里ちゃん、傘持ってる?」

 いったい何の確認をしているんだ雪雲さんは・・・。

「持ってないけど。」

「土浦くんは?」

「折り畳みを」

「そう、それじゃぁ、私は先に帰るね。三人も先に帰るってよ。」

 そう言いながら、反論している三人を無理やり引き連れてどこかへ行ってしまった。

・・・どういう状況なの?

「まぁ、帰るか。」

 特に当たり障りなく、帰宅しようとすると、服の裾を掴まれた。

「・・・見たいの?」

 ・・・何の話だろうか。いやまさかそんな。

「透けてるの、見たいの?」

 心臓がもたない。しかも光里が言ったのに光里が赤くなっている。なんだかこっちもやましい事をしてる気分になってくる。

「光里さん。」

「はい。」

「その話はまた今度にしてください。」

「は、はい・・・・え⁉」

 気が付いた時の赤面は、まぁ、思ってた10倍くらい可愛かった。

 

 そのあとは光里にさそわれて、そのままゲームセンターに行くことになった。

 シャトルバスに揺られてから電車に揺られて少し。ゲームセンターは駅前だから、すぐに着く。

 金曜日の午後だというのに人は少なくて、満足いくまで楽しもうとしていた。

 連れられるまま遊んでいると、文字通り時間を忘れてしまった。

 問題なのは、シャトルバスがもうでて無い事である。

 最寄駅から大学までは直線距離で1.5kmだが、山道であり、曲がりくねっているために距離は間違いなく長くなるし、斜面だからより疲れるだろう。

 過ぎた時間に気付いてからだったが、光里に声をかける事にした。

「ねぇ光里、シャトルバスの最終便過ぎてる・・・。」

「えぇ?まっさかぁ、そんなに時間たって・・・。経ってる・・・。」

 継続されてた笑顔が真っ青に変わる瞬間を見るのは、そこまで多くないのでは。と思ったけれど、それどころではない。

 ひとまず駅で考えようという事になって、ゲームセンターから出ようとすると、傘を持っていても絶望的な音と景色が広がっていた。

 金曜日なのに人が少ない理由がこれか・・・。

 梅雨時くらい天気予報の確認を怠るべきではなかった・・・。

「ネカフェで泊まる事にしよっか。広くんはそれでいい?」

 ためらっていた回答をするりと答えられたので、少し驚いた。

「う、うん。そうするべきか悩んでたから。」

 まさか光里からそんな提案が出るとは・・・。とはいえ別室か?それは普通に寂しいけど、金銭的に余裕があるからあり得ない話ではない。仮に一部屋だったとしても、それを光里が普通に提案するかどうか・・・。

 なんて考えながら相合傘をして歩いていると、光里が不思議そうな顔をしてくる。

「どうしたの?何か提出物とかあった?」

 そうだよね。普通の大学生だったらそういう事悩むんだよね。

「いやその、ネカフェって結構狭いから、光里にしては珍しい案だなって・・・。」

 少しぼかして、変な期待はしてない風をする。だってここで下心丸出しとか恥ずかしすぎるだろ。

「うん?そりゃ狭いかもしれないけど、二人分のスペース位あるでしょ?」

 あ、この人なんかいろいろ知らないな・・・。

 あんまり良くないけど、物語の種になるからこのままにしてみるか。

「それもそうだね。」

 快く同意して、ネカフェに向かう。さてさて、これから何が起きるのやら・・・。


 料金を払ってフロントを通り過ぎ、タオルを借りてから光里を先にシャワーに入らせる。

 ドリンクバーで自分用にソフトドリンクを注いでから、氷水を用意しておく。

 先に個室に荷物を置いて、女性用シャワー室前付近に長く居座ってたら、光里が出てきた。

「待っててくれてありがと~。」

 すっきりとした。というよりも若干ふわふわとしている感じがする。

 普段は風呂入る前も入った後も画面と顔を合わせていたから、しかめっ面だったりするけど。

 今日は、予定が無いからか、どこか余計にかわいく見える。

「部屋伝え忘れてたからね。荷物持つよ。手ぶらで横歩くのが忍びないから。」

 そこまで言うと、やっと渡してくれる。

「ありがとう。でも中身覗いたりしないでよ?」

 そんなことするわけが・・・と思いつつも、言われて若干気になってしまう。

「さすがにそんなことしないよ・・・。多分。」

「なんで今自信無くなったの!?」

 初めての(ネカフェの)夜は、まだ始まったばかり。

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