サブカルギルド 14話

 カツ屋で夕食を食べ終えて、四人とも俺の部屋に戻る。

 それぞれの部屋に戻ればいいじゃん。

「光里ちゃんに質問があります!」

 そう切り出したのはシロである。

「今日もツッチーの部屋に泊まるんですか?」

 なんかこいつが言うとやましく聞こえるけど、気にしないでおこう。

「えと、はい。小説の続き書きたいから・・・。」

「それはほんとに小説の続きを書きたいからなんですかねぇ?」

「シロ、どうした急に?」

 別に詮索されて困ることがあるわけではないのだが、なんだかいい気がしないので止めておく。

「いやいや、純水に気になっちゃいまして・・・。本当はほかの目的とかないのかなぁって?」

「そんなスパイじゃないんだから。クート、こいつ連れてって。」

「へいへい、部屋でイチャイチャしようなー?」

「もっちろーん!」

 単純で純粋だこと。扱いやすくて助かるけどね。

「よし、じゃぁ書くか。」

「う、うん。」

 気のせいかもしれないけど、かなり前から光里がよそよそしくなっている気がする。きっかけがあったわけじゃなさそうだから、心境の変化だと思うけど・・・。まさかね。

 いつも通りに光里が紅茶を入れてくれて、それを飲んだり嗅いだりしながら小説を書き進める。だがやっぱり、そばにヒロインと同姓の人がいると少し落ち着けない。というか気になって仕方なくなってしまう。

「あのさ、広くん。」

 急に、意を決したように声をかけてきた。

「わ、私たちもシロちゃんたちみたいにイチャイチャしてみない?」

 それって・・・遠回しの告白⁉

「その方がほら、小説も書きやすくなるだろうし・・・。」

 そういうことだったか、まぁ、良かった?

 別にうれしくないわけではなかったし、何なら普通にうれしかったのだが、告白じゃないと聞いてどこか安心していることに気付いた。どういう感情だよこれ。

「それでその、どうかな?」

「いいと思う。けど・・・。」

 問題は理性と心臓がもつかどうかだ、理性はまだしも、心臓の方が持たない気がする。

「心臓抑えて倒れても許してくれ。」

「この前やったじゃん。」

 そう笑ってくれたので、少しだけ楽に、穏やかな雰囲気になった気がした。


「と言っても、イチャイチャとは何する?」

 OKしたけれど、実際に何をするのかはわからない。

「とりあえず、書いてる小説で次のシーンに悩んだら真似してみる?」

 割と画期的なアイデアが出たので採用した。

 ストーリーの続きが思い浮かばずに手が止まることなんて多々あるし、書いてる時間よりも悩んでる時間の方が多いだろう。

 というわけで早速やってみることにした。

 二人きりの部屋の中、二人とも黙々と作業をしているだけなのに、どうにも落ち着かない。

 いつもだったら彼と居る時が一番落ち着くのに、今は鼓動が高鳴るばかり。

「ねぇ、ちょっと熱くない?」

 いつもの調子で言っているつもりだが、私の感情はどこまで入っているのだろうか。

「じゃぁ、冷房の温度下げる?これ以上下げると、風邪ひくかもだけど。」

 伝わってなさそうだ。

「ううん、やっぱりいいや。」

 そう言いながら彼の背中に近づいて、後ろから抱き着く。彼は体をびくりと震わせたが、それ以上動くことはない。

「少しくらい、私のこと意識してもいいんじゃない?」

 囁くように耳元で不満を述べる。いつもならしないけれど、もういつもではないのだ。

「し、してないなんてことは無いけど、なるべく意識しないようにしてるんだよ。変な気を起こしたくないし、大事なパートナーだから。」

 ちょっと待って死ぬほど恥ずかしいんだけどって言うか光里の体の表面が背中に全部伝わってきてて頭弾けそう・・・。

「え?あれ?広くん?大丈夫?」

「だ、ダイジョウブデス。」

「大丈夫じゃないじゃん。いやまぁ、私もめっちゃ恥ずかしかったけど・・・。悪意が無くてもやってみると恥が出ちゃうもんだね、こういうのって。」

 自分の書いた小説を音読するのはかなりの重労働だと再確認できた。にしても光里はこんな感じの文章でラブコメを書いてるのか・・・。

「次はひろくんの番だよ!ほら、どこから始めるの?」

「本気で言ってるのか⁉俺はもう一回きりでもいいと思うんだけど・・・。」

 水際での彼女は、普段の美しい外見や仕草とは逆に、子供のようにはしゃいでいてかわいらしかった。自分は水辺が好きではないけれど、一緒に行くなら別になりそうだ。

 しかしまぁ、水着姿の彼女を注視するべきではないとは思っていたのだが、ずっと見ていたらしく、軽くこちらをにらんでくる。

「これ私、水着着てこなきゃダメだった?」

「演技なんだからそこまでする必要ないんじゃないか?」

「なにじろじろ見てるの。君も一緒に遊ぶんだよ。」

 言われるままにそばによると、思いっきり水を掛けられた。なんだかおもしろくなったので、同じようにかけ返してみた。

 他に人がいるなら、友達たちと遊んでいる。と言えるが、今は水辺で二人きり、濡れながらはしゃいでいるのだ。これをデートと言わずに何をデートというのか。

「・・・そんなにデートしたいの?」

「そういうことじゃないよ???」

 なんでそう解釈したんだ。

「それより、このヒロイン、白いシャツ着てるから、濡れて下透けるよね?」

「水着着てるから問題ないけどな。下着忘れ問題あるけど。」

「大事件じゃん。どうするのそれ?」

「・・・そこが、どうすればいいんだろうなって、なってる。」

 俺としては聞きづらい事だったけれど、質問してくれるのであればありがたい。

「そういう時は、近場で買ったり、あとはなんだろ。私もそういうことはなかったからあんまり参考にならないかも。」

 そりゃそうだろうし、むしろあってほしくないとも思う。

「じゃぁそうするか。」

「あっ、でもこのシーンなら下着はパンツだけにしてブラ付けないでそのまま主人公に引っ付かせたら?いいイベントだと思うよ?」

「ん、確かにお色気イベントとしていいな、理由は・・・突っかかっただけでいいか。」

「うん、主人公が前を歩いて、ヒロインが後ろからついていっているときに、ヒロインがこけちゃって、そのまま主人公の背中に・・・でいいんじゃない?」

 そう言いながら背中には暖かい熱と柔らかい感触があるが、これは偶然だ、偶然のはずなんだ・・・。(言い聞かせ)

 




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