サブカルギルド 9

 心地よい重さと温度を腕と全身に感じながら目を覚ます。俺が光里に抱きしめられていて、俺が光を抱きしめている。・・・俺はやらかしたのか?

 パニックになりかけながら、意識が離れる前を思い出そうとするが、あまりしっかりと思い出せない。というか、だんだんと甘い香りに思考が塗りつぶされていく感覚があるので、光里をそのままベッド寝かして布団を掛ける。

 時間を確認すると朝の6時。いつも少し前までは肌寒い時間だったのだが、今は上昇する気温を感じられる程度になってきている。

「正直、昨日のことは駅前でイルミネーション見ていたくらいしか・・・。」

 あぁ、なんかめっちゃかわいい光里に可愛さで殺されたんだった。今思い出してもかわいい。

 とりあえず適当に紅茶を選んで淹れる。飲んでみると甘香りと舌触りで、たまにはウーロン茶もいいかもななんて思ってしまう。

「ひろくん・・・。」

 唐突に呼ばれて驚いたが起きたわけではなさそうだ。いや、寝言で呼ばれるほどの存在になってるってうれしすぎるんだけれど。

 朝から心臓が砂糖で固められそうだけれど、久々に単位のことなんかを思い出してみる。といっても、ほぼほぼ学校側の裁量なのでどうしようもないけれど。

 ちらりと寝顔を見てみると、気の抜けた可愛らしい顔でスヤスヤと寝ている。まったく、こんなことしているのは俺の前だけだからなんだろうな?なんて思いながら指で頬やら髪やらを撫でていると、撫でていた右手を両手でつかまれて引っ張られてしまった。体勢を崩して押しつぶしたりすることはなかったものの、俺の腕をホールドしながら幸せそうに頬をこすりつける姿は、愛らしい以上になんて言えばいいのだろうか。もう好きにさせるしかなかった。


 しばらく自由にさせていると光里が起きた。抱きしめている腕を確認した後に、その腕がだれのものなのかを確認する。認識してから徐々に顔が赤くなっていくのがよくわかる。こういう照れ顔好きだなぁ。なんて自分の嗜虐心を感じつつも、空いた手で頭を撫でて腕を離させる。

「おはよ。」

「お、おはようございます・・・。」

 頭から煙が出てそうな弱い声で朝の挨拶をしてくれた。


 朝食を食べてから現在進めている小説の話を切り出す。

「今結構終盤まで行ってるけど、光里はどう?」

「うん、私も大体終わりそうだよ。ただ、所々合わせないで書いていたから、話に矛盾が出来そうだなって・・・。」

「じゃぁ、今日は読み合いとストーリー合わせで行くか。」

 という事で始まったのだが・・・、思ったよりも散々なことになってしまった。

「「あ、」」

 二人同時に気付いたのは、互いの作品がバッドエンドとグッドエンドで終わっていることだ。二つの作品で同じ世界を描きつつ、別々の主人公を描くことで世界観を固定しようとしたのだが、戦う二人が負けて幼馴染は世界の崩壊に飲まれてのバッドエンドと、退魔の札で四人仲良く暮らせるようになったにもかかわらず、戦い続ける二人と相変わらず何も知らないままイチャイチャする二人を描いた作品。いやまぁ、これはこれでいい出来だとは思うのだけど。

「条件に沿わないんだよなぁ・・・。」

「なんだっけ、条件って。」

「『片方読んだらもう片方も読みたくなるような。』ってところ、グッドエンド見た後にバッドエンド見たくなるかなぁ・・・。」

 自分だったら、バッドエンドを見た後にグッドエンドを見たいと思ってしまう。

「あっ、でも、バッドエンド出した後にグッドエンド出すのは?」

「・・・それもありか、とりあえず出してみよっか、ダメだったら調整しよう。」

「書き直しじゃなくて?」

「話自体はしっかりできてるんだから、ストーリー展開を調整すればいい感じになりそうじゃない?」

「・・・優しいね。」

「そんなことないと思うけど?」

 とりあえずプリントアウトしたものとワードデータを入れたUSBをもってギルドに行ってみる。

 ギルドの受付けに言って声をかけてみる。

「あの、クエスト内容のものを持ってきました。」

「はい、学生証名をお願いします。」

 言われた通りに二人でピンをかざす。

「土浦広旅さんと松山光里さんですね。クエスト内容は・・・。あの、クエスト終了期限までかなりありますが、本日提示でも問題ありませんか?」

「はい、これで通らなければ、少し調整してから出そうと思っていたので。」

「そういうことでしたか、でしたら仮提示とさせていただきますね。依頼主様が確認してから、不可なら不可と、達成なら達成度がメールで送られますので、ゆったりとお待ちください。」

 そこまで言い切ってから、周りを見て、話しかけてきた。

「あの、この課題、難易度は高いですけどお二人なら問題ないと思うんです。よろしければもう一つほど、クエストを受けてはどうでしょうか?短い間でしょうから、短編など・・・。」

「ありがとうございます。このクエスト、相方が勝手に持ってきちゃったものだったので、ほかのクエストを見る暇がなかったんですよ。参考にさせてもらいます。」

 そう言ってプリントとUSBを両方預けてからクエストボードを見に行く。

「無理やり付き合ってもらってごめんね。」

 若干不貞腐れたような声で言ってきた。

「事実だけど嫌だとは言ってないだろ?」

「それは、そうだけど・・・。」

 さぁて、なんかいいのないかなぁ~。そんな風にいくつか見ているのだが、なにやら光里は時々顔を赤らめている、そこまでひどいR‐18作品の依頼なんて少ないと思うんだけどなぁ。いくつか見てみるが「これだ!」と思うものが見当たらない。まぁ、簡単な奴は大体最初に刈られるか。

「なかなか見つからないね、二つ以上の作品の奴。」

 可愛いかな、光里は二人でやることを前提で探していたらしい。

「別に二人とも同じ内容をやる必要なんてないんだぞ?それに、せっかくなら自分の得意分野をかけるクエストがいいよな。」

「それもそっか、どれがいいかなぁ~。」

 なんだかそっけなく離れて行ってしまった。まあいい、とりあえず自分のクエストを探さなければ。

 募集中。主人公とヒロインのイチャイチャストーリー。障害とかあってもなくてもいいから、ひたすら主人公とヒロインがイチャイチャしている小説をお願いします!信用度ランク:なし、連投ものでも、完結ものでも構いません。

 よし、これやるか。なんとなくやりたいと思ったので、プリントアウトすると。

「あ、えっと、広くんもそれやるの?」

 も?

「も。ってことは、光里も?」

 無言でうなずく。

「こ、これって挑戦数決まってたりするかな・・・?」

 考えても仕方ないので、二人で受付に行ってみる。

「あ、挑戦制限が無いので問題ありませんよ。ものによっては挑戦制限や、期間終了後に一番を決めたりすることがありますが、今回のものはどれも該当しませんので、楽しく書いてください。とはいえ、お二人の現在ランクだと幾分上なんですよね。本当に問題ありませんか?」

「はい、問題ありません。」

 という事で二人まとめて受注完了。一緒に帰路につく。


「あのさ・・・。」

「どうした?」

 なんだかゆったりとした喋り方に違和感を覚えて、光里の顔を見る。夕日のせいかどこか赤く感じる。

「今日受けた小説、また一緒に書こうよ。内容は違っても、一緒に・・・。」

 途中から、倒れそうに感じていたので、支えられるように身構えていたのだが、予想通りに倒れてしまった。

「あれぇ?広くんの顔が近―い。」

「いいから寝てろ。部屋までは運んであげるから。」

「へへへ、はぁい。」

 返事をしてからすぐに寝息を立ててしまった。仕方がないので背負って部屋まで運んだのだが、いくつかの理由で前かがみに歩く必要があったため、かなり腰が痛くなってしまった。


 部屋に着いてから、光里をベッドに寝かして一度起こす。

「ひろくんの部屋で寝てるの・・・?夢なら何してもいい?」

「夢じゃないからそのまま寝ててくれ、寒いか?食欲はあるか?とりあえず額を冷やすぞ?」

「うん、おねがーい。いまは、ちょっと熱いかな。あと、ちょっとだけおなか減ってるかも。」

「そう、それじゃ、薄い布団だけかけておくよ。」

 言葉通りにした後、水で濡らしたタオルを額に付けておく。途端に気持ちよさそうに目を瞑ったので、このまま寝るだろうと思って台所に行き冷蔵庫と米を確認する。卵も米もあるので、卵粥が作れそうだ。もう一度光里の様子を見てみるが、苦しそうな表情はしていない。というかどこかうれしそうな表情をしている気がするが、気のせいだろうか?

 いろいろ思いながら、卵粥を作る。作り方自体かなり簡単なので、あっという間に作りあがる。さすがにまだ寝ているので蓋をして、換気扇を止めてから置いておく。食べたくなったころにもう一度火をかけよう。

 必要なことがある程度終わったので、光里の様子をうかがうのと同時に額のタオルを置き換える。さすがに常温近くになっていたので、ちょっとだけ遅かったかもしれない。新しいタオルを置くと、また心地よさそうな表情を見せるので、かわいらしくて少し笑ってしまった。

 病人の隣でゲームするのもどうかと思ったので、最初であった頃にすすめてもらった小説を読み続ける。本当なら単行本を読みたいのだが、一本が薄いうえに短いので、大量に持ってくる羽目になり、図書館と自室を二、三往復する必要があるため、あきらめて学内ネットで読んでいる。

 しばらく夢中になって読んでいたら、唐突に耳に吐息がかかってきたので震えてしまった。

「ご、ごめんね。別に驚かせるつもりはなかったんだ。」

 そう笑いながら言うので。

「病人はもうちょっとおとなしくしてください。あと、これで写ったら看病してもらうからね、ナースコスプレで。」

「コスプレ⁉」

 もう羞恥なのか風邪なのか判別はつかないが、照れているのは分かった。

「まぁ冗談だけど、光里が看病してくれたらめっちゃ甘えそう。」

 不意に言ってしまったが、これきもくね?と自分で思ってしまった。

「その、じゃぁ、楽しみにしてる。」

「おっかしいなぁ、予想してた返事と違うから混乱するんだけどなぁ・・・。」

 とかなんとか言いながらキッチンに向かって土鍋の下のコンロで点火する。

「光里、おなか減ってるだろ?食欲はあるか?」

「うん、おなか減った。何か作ってくれたの?」

 弱弱しく頼ってくれるのが可愛すぎる。

「卵粥作ったけど、食べれるかな?」

「うん、食べれるよ。」

 それなら。と思い、ある程度熱の通ったあたりで皿にのせてスプーンと一緒に持っていく。

「どうぞ。」

トレーに乗せた状態で渡しているので、太ももの上に乗せながら食べると思っていたのだが、一向に手に取るような動作がない。少し待っていたら、不満そうな表情で、

「こういう時はあーんくらいしてよ。」

 といわれたので、机を持ってきてその上にトレーを置き、スプーンを握る。無心になれ、今の俺はロボットだ、そう、介護用ロボットだ、ロボットが感情を持つわけはないのだ、それなら俺は何か思う必要はない・・・!

 何とか鼓動をを抑えながらスプーンで卵粥を掬い、渡s・・・せるわけないだろ、熱々だから火傷するじゃんか。気付いてよかった。先に息を吹きかけて熱を飛ばしてから光里の前に持っていく。光里は少し動揺していたが、意を決したという感じで一口。

 え、かわいい、なにこれめっちゃ可愛い・・・。

「お、おいしいです・・・。」

 どこか羞恥を含んだ声だったが、自分から言い出したことなのに、何を恥じているのか。というか俺自身が軽い暴走状態に入りながら、もう一口、もう一口と運んでいく。やばい、めっちゃ可愛い、なんかめっちゃいいこれ・・・。背徳感すごい・・・。

 なんて夢中でやっていたものだから、中身はあっという間になくなってしまった。

「まだおなか減ってる?」

 と、軽くわくわくしたような声で言ってしまった。

「ううん、もう大丈夫。おいしかったよ。」

 もうその一言で心臓がいっぱいになります。とはいえ時間もいい時間で、自分自身のお腹も減っているので、別の皿に卵粥を入れて、別のスプーンで食べ始める。まぁ、邪な考えはあったけれど、明日二人とも風邪をひいて病人が病人を看病する。なんて事態にはなってほしくないので、残念だけど諦めることにした。

「あのさ、今日はこのままここで寝てもいい?」

 若干、不安そうに聞いてきた。

「ダメだって言うつもりなんてないし、帰るって言ったらここに縛り付けるから。」

 こんな状態で返すより、ここでゆっくり休んでもらった方がいい。何より自分が安心できる。

「うん、ありがと。その、それじゃぁ、おやすみ。」

 嬉しそうに、どこか幸せそうにそう言って、俺と視線を合わせてから布団に横になる。目を合わされて、幸せそうな表情をされた俺はというと、羞恥と可愛さで悶え苦しんでいた。

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